29話 天空大陸 4
木漏れ日が反射して輝く。
それは雲と竜の意匠を象った薙刀であり、それを振るう女性は人虎であった。
アコア・マカニさん。彼女は空中でアースドラゴンを斬りつけながら、虎体の四本脚で相手を捉えて力強く蹴飛ばす。
…とってもパワフルだ。
「コハクっちじゃないッスか、お邪魔しちゃいましたかね?」
「いえ、助かりましたっ。ありがとうございます」
アコアさんはひらひらと可愛い服をはためかせながら着地し、私の許に駆け寄っては笑みを浮かべる。
「コハクっちは、あのドラゴン倒せたんスか?」
「さっき一体だけ」
「そっすか、やっぱ良い技能と身体してるんスね。それじゃあのドラゴン倒すの、手伝ってもらえません?あいつ装甲が硬いんスよ」
「いいですよ。でも私はゴリ押しで倒しちゃいまして、お手伝いできるかは分からないんですよね」
「ゴリ押しって?」
「片目の矢を十八発射ち込みました」
「わぁ…」
少し引いているアコアさんを横目に、身体を起き上がらせたアースドラゴンが、私たちを睨めつける。
近接攻撃を主体とするアコアさんと協力できるのは大きいが、先程の薙刀での攻撃も鱗を砕いただけで、有効とは思えない。
傷すらつけられなかった私の矢と比べれば、威力は段違いではあるけど。
「あっ、ドラゴンブレスが来ますよ」
「そうなんスか?…とりあえずウチが相手するんで、いい感じに援護をお願いするッス」
「はいっ」
私たちが左右に分かれてドラゴンブレスを回避すると、アースドラゴンは私たちを見比べてから、より近くにいたアコアさんに狙いを定める。
それと同時に、アコアさんは腰に佩いていた剣を一本抜き取り、剣と薙刀の二刀流のような構えで相手との距離を詰めた。
勢いよく振られる尻尾を幅広の剣で受け流し、隙があれば薙刀の長さを活かして反撃に転じる。
見た目は不思議ながら、堅実な印象を受ける戦い方だ。
助けてもらい、協力すると言った私も、あまり悠長にしている場合ではないのだが、現状の私では目を潰すくらいしか有効打がない。
それでも倒せればいいのだろうが、それまでの間、アコアさんがアースドラゴンの対処をし続けなければならない。
より確実に、手早く倒せるだけの手段を考えよう。
ただ、あの亀みたいに頑強そうな相手を、どう倒すべきなんだろう。
「亀…?」
弓を構えて走り出した私は、一つの突破口を見出す。
速度を緩めながら上体を低くし、アースドラゴンの腹を覗いてみると、背中を中心とした鱗と比べれば、腹部の鱗はそこまで強固な印象はない。
「アースドラゴンをひっくり返すんで、トドメをお願いしていいですか?」
「わかったッス!」
私はアースドラゴンの片目を潰して死角を増やし、振られる尻尾に隙が生まれる瞬間を待つのだが、アースドラゴンは身体を低く沈めた。
何かの予兆だろうと、アコアさんに声をかけようと思ったら、彼女は既に距離を置いており、私に視線を向ける。
「なんか来るッスよ」
「はいっ」
アースドラゴンは、沈み込んだ身体を四肢を用いて勢いよく持ち上げ、直上にジャンプをする。
あれだけの体躯で、想像もつかないほどのジャンプを終えると、自重のまま落下し地面に墜落した。
なんのための行動なのかと、首を傾げそうになった瞬間、地面を伝う衝撃とともにアースドラゴンを中心に地面が軟化した。
「うげ、なんだこれ?!」
ノクサラさんの使う武技『シュラムシュトローム』に似ている気がする。
軟化した地面に足を取られたアコアさんは、抜け出そうと試みるも、急速に硬化していってしまう。
この状況で攻撃を受けたら、アコアさんは倒されてしまうかもしれない。
私は大急ぎでアースドラゴンの視界に入り込み、無事な目のやや下を狙って射撃を行う。
カンと矢は弾かれるが、両目を潰すのは悪手だとノクサラさんに教わっていたので、それに倣い、相手の気を引くためだけに目元を狙った。
目論見通り、アースドラゴンの瞳は私に向いて、大きく息を吸っていく。
ドラゴンブレスだ。
けれど、それは二度見た。そして二度回避した。
今更、私にあたるような攻撃ではない。
攻撃範囲を見極め、当たらないギリギリの距離を駆け抜けていった私は、アースドラゴンに肉薄しながら、地面に下半身を滑らせて顎下に入り込む。
ここでしっかり止まらないと、私ごと押し潰されてしまう。
「…よし、『ウッドピラー』!!」
地面から突き出す木の柱。普段は私を持ち上げてくれているそれは、アースドラゴンの顎を強い勢いで押し上げて、大きな体躯を一発でひっくり返す。
「おぉ、すごいッスね。…それじゃあ―――絶対当てるッスよ『プランジ☆ストライク』!!」
地面から足を引き抜いたアコアさんは、勢いよくジャンプをし武技を発動。
落下の勢いと体重を薙刀に乗せて、アースドラゴンの胸を突き貫いたのである。
「ふぃー、いやぁ助かったッスよ、コハクっち。ありがとうございますッス」
「アコアさんがいたから、確実にトドメを刺すことができたんですよ。こちらこそありがとうございます」
「うへへへ、コハクっちにそう言われると照れるッス。あっ、そうだ、ちょぉっと威厳のある感じに立ってもらっていいッスかね?」
「こう、ですか…?」
私が背筋を伸ばすと、アコアさんは虎体の前足を屈めて、目を伏せながら頭を垂れた。
「感謝ッス。ウチの故郷だと、白い獣、あーいや、コハクっちを差別するような意味合いはなくって、白い生き物は神の使いだとして崇敬してるんスよ。だからちょっと、お力をお借りしたいな〜的な感じッス…」
アコアさんはしどろもどろになりながら、顔を伏せてしまう。
私は麗天信仰の少女巫だった立場で、ここでいえば元神官だ。あまり他の信仰や宗教に関わりを持っていいのかはわからないが、私が必要とされているのなら、力を貸したい。
「異なる神様を仰ぐ私がお力添えをしていいのなら、お祈りにお付き合いするくらいは問題ないですよ。主神様を改めさせられたり、勧誘をされるんじゃないのならって条件ですけど」
「お気遣い感謝ッス。…いやぁ、故郷と違って白い生き物がそんなにいなくって、祈りを捧げられず困ってたんス。ホント、急にこんなことしちゃって申し訳なかったッス。今度はお伺い立ててるからお願いするんで、その時はお願いしますッス」
アコアさんはスッキリとした表情で、笑みを浮かべていた。
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