29話 天空大陸 2
「では、天空大陸をどうやって進むか考えましょうか」
「まあ、他のフィールドと違って、ここは行き先の選択肢が少ない場所だ。前期と比べると冒険者の少ない場所で伸び伸びとやるってのは、ちと難しいかもしれない」
「なるほど。では冒険者が進みやすそうな場所は、特に過密なエリアになりやすいということですね」
「ですね。とりあえず…ファミリオグラフを飛ばして、周囲の映像を撮影してみましょうか?」
「おぉ、いいアイデアですねっ!お願いします!」
「うふふ、お任せください」
アザレアさんはファミリオグラフを取り出し、天高く飛ばしていく。
待っている間、私は周囲の冒険者たちを眺めていると、どこかで見たことのある人が視界に映る。
煌びやかな装飾を身にまとった男性のアントロポス。たしかあの人は…ノクサラさんを『落ち目』だなんて言っていたキンキラ男さんだ。
あの時は悪い人かと思ったのだが、私たちの映像に熱烈な長文のコメントと、支援金を贈ってくれる人だ。
ノクサラさんに対する言及が多いので、ノクサラさんを推しているのかもしれない。
そんなキンキラ男さんと一緒に、銀の瞳をした五〇代前後の男性アントロポスも歩いていた。
映像で観た『銀眼』のシュタールが、少し年をとった印象の男性だが、ノクサラさんの祖父というには若い印象だ。
…となると、ノクサラさんのお父さんだろうか?
こういう時、本来ならノクサラさんに伝えるべきことなのだろうが、エキシビションマッチの件で悩んでいる最中だ。
思うところがあるのだろうし、ノクサラさんをそっとしておこう。
視線を他所に向けようとした時、ノクサラさんのお父さんの銀の瞳が私を捉えて、目を丸くする。
そして彼の視線はノクサラさんの後ろ姿に一度向かってから、私の方に戻されて、ほんのわずかばかりの会釈がされる。
私も小さく頭を下げると、彼は小さく口端を持ち上げてから視線を外し、そのまま歩き去っていく。
よくわからないが、ノクサラさんと会っていく気はないらしい。
アザレアさんのお父さん、ルベリオ・セルヴィーノさんもわざわざ私に会いに来てアザレアさんのことを聞いていった。
パラデイソポリスの親子関係とは、複雑なのだろうか。
ふと思った。私のお父さん、それに榾火村の皆や、郷守様は元気だろうか、と。
手紙を認めたいという気持ちはあるが、明蝉国とパラデイソポリスで手紙をやりとりするのは安くない。
皆に負担は掛けたくないし、皆に会いたくなってしまうかもしれないから、今はまだ手紙を書かないでおこう。
「大まかにですけど周囲の撮影が終わりましたよ」
「えへへ、ありがとうございますっ」
「どういたしまして」
アザレアさんは手元にファミリオグラフを戻すと、高所から撮影された映像を映し出す。
「このエリア一は平原エリアですね。…冒険者が飽和しているので、モンスターの姿が見られませんが、スコアが少なく、弱いモンスターしか現れないと思います」
「さっさと移動しちゃいたいですね。多少移動は遅れても、人気がなさそうな厳しい地形のほうが、私は嬉しいんですけど、今回はどうしましょうか?」
「アタシとしちゃどこでもいいな」
「わたしも人が少ないところがいいですね。移動はゆっくりになってしまいますが」
「となると私たちの目指す場所は…この岩が転がっているエリアなんてどうですか。その奥には巨木の森が見えますよ」
「そのルートでいいか」
「わたしもいいと思いまーす」
「それじゃあいきましょう、出発ですっ!」
「まあ待て」
私が歩き出そうとすると、ノクサラさんに呼び止められる。
「なんでしょう?」
「この周辺はエリアが狭いし敵が弱い。まずはコハクが走って出入り口の小屋を見つける。そんで目のいいところでアタシたちを見つけてもらって、案内してもらうって分担作業をしたい」
「わたしとノクサラは、コハクさんほどの踏破能力がありませんからね。悪くない意見だと思いますよ」
「なるほど、わかりましたっ!それでは散策をしてきます!」
「おう。地面から落ちるなよ」
「気をつけてくださいねー」
「はーいっ!」
私は冒険者の脇を抜けて走り出す。
―――
天空大陸の平原は、私の走力をもってすれば簡単に抜けることができた。
大岩が転がり、少し起伏のあるエリア。岩石丘陵エリアと仮に呼ぶエリアは、土よりも岩のほうが多いくらい足場が悪い。
けれど私の足なら問題ない。踏み場さえ間違えなければ、トントン拍子に進むことができる。
大岩の上に飛び乗って周囲を見回してみると、平原エリアと比べて冒険者の数が少ない。
エリアの境を確認してみれば、引き返していく冒険者もちらほらいる。
スコアを稼いでカルタに換金するのなら、進みやすい場所のほうがいいのだろう。
そんな中、私は岩が動き出したことを確認し、弓に矢を番える。
のそのそと動いていた岩は私の姿を確認すると、六〇バシコンほどの大きさの人型となり、こちらに向かってくる。
弱点は顔の洞だろうか。
その岩人形の顔は、黒く塗られた窪みのようになっていて、目や鼻は確認できない。
やってみないことには何も始まらないし、とりあえず射ってみよう。
岩人形が、ロックシュートのように石を飛ばす魔法を使い、私に向かって発射するも、軌道がブレていて回避は容易い。
お返しに、矢を頭部の洞に射ち込んでみると、突き刺さると同時に消滅し始めた。
これくらいなら、もののついでで倒せそうだ。
私は出入り口小屋を探すべく、岩石丘陵エリアを駆け抜ける。
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