28話 クラン 4
「クラン対抗エキシビションマッチ…?なんだそりゃ」
「新しい催しですか?」
「はい。この情報があったので、他の人に聞かれにくい場所が必要だったんです。…私も十分に理解しているとは言い難いんですけど、大きなクラン同士が五つの代表パーティを選出して、ルーシッド・エデン内で干戈を交えるといった催しらしいです」
「クラージュはヴァン・フェール第一から第三までの三パーティのみだ。なんつーか、人選ミスだろ」
「フロランさんは『相手方からの指名があった』『ワールドノーアーを倒した功績が大きい』と言ってましたね」
「相手方ねぇ。わざわざパーティ数が足りてないところを指定するなんて、性格の悪いところもあったもんだ」
「戦う相手は、なんていうパーティなのでしょうか?」
対戦相手は紙面に記されておらず、お二人の視線が私に向く。
これを隠したところで、いずれ知られてしまうことだし、さっさと言ってしまおう。
「えっと〜…シュトラーレンゾンネです」
「あー…」
「マジかよ」
ノクサラさんの古巣であり、現在はノクサラさんのお父さんが運営しているクラン。
…酷な話だと、私は思う。
「んー…コハクは参加したいのか?」
「はい。私たちアローズの実力と、これまでの縁から、声をかけてもらいましたし、ヴァン・フェールの皆さんと肩を並べたり、最大手クランと間近に競い合える機会は少ないと思いますし、学びにもなるかなって」
「ふーん。見たところ…リアルタイム配信、それもブレオンヌ帝国の一部も範囲内に入ってるが、安易な知名度アップ目当てってなら、あんまおすすめはしないぞ?」
「それに関しては、配信の中心をヴァン・フェールにしてもらおうと思っています。あくまで私たちは助っ人ですから、学びの機会のため、いつもお世話になってる恩返しとして参加したいんです」
「そう」
一度頷いたノクサラさんは、腕を組んで考え込む。
シュトラーレンゾンネとの間で、どういったことがあったかはわからない。
けれど『落ち目』なんて呼ばれたり、自身の戦い方を野蛮だと自嘲することがあり、ご家族と同じ戦闘方法で戦えないとも言っていた。…それらを元に辿ってしまえば、いくつかの予想はできてしまう。
「ノクサラさんが嫌なら、無理そうなら私はお断りしようと思っています。大切なパーティメンバーが、苦しむ姿は見たくありませんから」
「サンキュ。…だがとりあえず、数日くらい時間をくれ。ウザったかったやつらをぶん殴れるメリットと、親父と顔を合わせる面倒臭さの天秤が、どっちに傾くか…しっかりと見定めたいんだ」
「わかりました。エキシビションマッチ自体が、今シーズンの終わりの方ですし、余裕はあります。じっくりと考えてください」
「おう」
「アザレアさんはどうですか?」
「わたしは問題ないですよ。けれど、専用に魔法を構築しないといけませんね」
「あっ、そういえば新シーズンになりましたけど、魔法の構成は変わったんですか?」
「はい、しばらくは弱いモンスター相手になりそうなので、軽い魔法を中心にしてきました」
―――
アタシ、ノクサラは雑談をし始めた二人を横目に、コハクが持ってきた紙面と、アーケイン・パネルに映る情報に視線を向ける。
はっきり言って、スフル・デュ・クラージュに加入しちまうってのは全然ありだ。
ジェルブ・ドールのコハクの部屋には何度か泊まったが、スフル・デュ・クラージュの面々は悪い感じがしない。
ただ、クランの意向というのは後援者の影響をもろに受ける。
…それ自体はどこも一緒だろうが、ヒッポフォロスの単一種族国家であるブレオンヌ帝国となると、いざという時に異種族であるアタシたちは、はしごを外されかねない。
この辺りはジェルブ・ドールに行った時に、クランリーダーと相談してみるか。
さて、もっと大きな問題が、アタシの目の前にある。
シュトラーレンゾンネ対スフル・デュ・クラージュの公式試合。
あいつらと顔を合わせるのは気まずいし、ランキング映像でシュトラーレンゾンネの出身だと、大々的に明かされちまった。
そんなアタシが、スフル・デュ・クラージュ側に入ってていいんだろうか?
それこそコハクや、ヒッポフォロスたちが後ろ指をさされる可能性すらある。
けど、コハクは参加したそうだし、アタシたちが目立ついい機会だ。…主役はヴァン・フェールだとしても、参加するってだけでも十分目立つ。
親父が出てきたら、親父と戦うことになる。
いや、こういった場に親父が出てこないわけがない。
クランと合わず、シュタール家の重荷に耐えきれず、シュタール家に泥を塗りたくなくて逃げ出したアタシに、参加する権利があるのだろうか?
時間はある。けれど悠長に構えることはできない。
どこかで覚悟を決めないといけないんだ。
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