28話 クラン 3
私が取り出したのは、フロランさんから受け取った封筒だ。
「フロランさん、スフル・デュ・クラージュのリーダーさんから渡された、クランへのお誘いの手紙です」
「クラージュから、ね」
「ヒッポフォロスの方々はコハクさんを気に入っている様子ですし、不思議でないといえばそうなのですが…やはり意外ですね」
「コハクって、クラージュの面接は落ちてるんだよな?」
「はい。スフル・デュ・クラージュ及びヴァン・フェールの面接に、私は落とされています」
「それはどうなん?一回落とされてるところに、ちょっと目立ったってだけで誘いをかけてくるのは」
「コハクさんとスフル・デュ・クラージュの関係が変わったというのであれば、否定しづらい部分ではありますけどね」
ノクサラさんは納得がいかないようだ。
落とされたという話なら、先程まで見ていたクランの一部は、私を面接で落としている。
当時と今では、私の実績や、ノクサラさんとアザレアさんという魅力的で、頼りになるパーティメンバーの有無があるので、気にしていなかった部分だ。
「まずはフロランさんとの会話内容をお伝えしますので、そこから考えましょうっ」
「あいよ」
―――
時は昨晩に遡る。
「これを受け取ってほしい」
「これは…?」
目の前に差し出された封筒に、私は首をかしげる。
フロランさん直々に渡されたものだ、お互いにとって重要なものだと察せられる。
「端的に言ってしまえば、パーティ『アローズ』に、クラン『スフル・デュ・クラージュ』へ参加しないかという誘いだ。…もっと早くに手渡したかったのだが、我々のクランはブレオンヌ帝国の国庫から後援がされているので、新しい試みには本国の承認が必要なのだ。忙しくしている時期になってしまい、申し訳ないと思っている」
封筒を確かめてみると、銀箔でブレオンヌ帝国の国章が描かれており、フロランさんの言葉が真実なのだと理解できる。
「まずは、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「次に質問なんですけど、私はスフル・デュ・クラージュの面接には落ちています。それに面接時に私の身体能力は確認しましたよね?あの時から特別な変化はありませんよ?」
「そうだね。今のコハクさんでも、ヴァン・フェールに入るとなれば、活躍は難しく、我々ヒッポフォロスの圧に呑まれてしまうだろう。けどそれは、コハクさんがヴァン・フェールに入るという前提での話だ。…今回の誘いは、パーティ『アローズ』として我々のクランに入らないかという打診であり、勧誘だ」
フロランさん曰く、ヴァン・フェールの活動にアローズを組み込むのではなく、あくまでスフル・デュ・クラージュのアローズとして活躍してほしいとのこと。
「活動の方針はアローズに任せたいと思っているし、金銭的な後援から、人材の紹介や雇用などもクランの方でサポートさせてもらう」
「素晴らしい条件だとは思いますが…ノクサラさんとアザレアさんのお家に関わろうということなら、お断りをしないといけません」
「はははっ、わざわざノクサラ・シュタールに紹介をいただかなくとも、こちらでシュトラーレンゾンネとのコネクションは作れる。そしてスフル・デュ・クラージュは、帝国からの後援を主としている広報機関のような位置付けだ。セルヴィーノ総合魔導社を後ろ盾にする必要はないのさ」
「なるほど…」
規模の大きい話な気がする。
「ただ…そんなスフル・デュ・クラージュが、私たちアローズを求める理由が思い当たらないんですけど」
「色々と理由があるのだけど、我々はヴァン・フェール第一から第三までの少数精鋭でやってきた。ただそれだと映像の更新回数が少なく、帝国製の物資を広告するには物足りない状況となってきている」
「配信者が増えたから、ですか?」
「そうだ。今後、クランの規模を拡大するための事前準備として、アローズを誘いたいという意見が挙がったのだよ」
「そうですか。…ノクサラさんとアザレアさんに相談して、私たちが納得できたらということで、いいですかね?」
「ああ、問題ない。もし断ってもらったとしても、我々のコハクさんへの対応を変えたりはしないと、ブレオンヌ帝国の初代皇帝に誓おう」
その後、フロランさんから、所属した場合の待遇やお金周りのことなどを説明してもらったのだが、どれも破格であり条件は完璧であった。
―――
私が説明を終えれば、ノクサラさんは腕組みをして天井を見あげている。
「悪くはない、むしろ最大級の誘いだ」
「コハクさんの夢を叶えるための近道にもなりますよね」
「んだな。…ただ、後援者が帝国一本なのがなぁ」
「なにかまずいんですか?」
「基本的には帝国の意向で、アタシたちの舵が変わる可能性があるんだ。いざとなれば脱退するっていう手もあるが、恵まれた環境に身を置いちまえば、その水準を下げるのには苦労する」
「とはいえ、今日明日に帝国がどうこうなるようにも思えませんし、帝国って結構温和な国家ですよ?前向きな検討は大いに有りだと、わたしは思います」
ノクサラさんがやや警戒。アザレアさんは乗り気といったところ。
私の意見は、ヴァン・フェールの皆さんと、同じクランに所属できるのは非常に心強いと思っている。
「スフル・デュ・クラージュへの参加の可否に関しては、ゆっくりと話し合って決めましょうか。フロランさんも、急ぎではないと言ってくれましたので」
「了解」
「わかりました」
「それでなんですけど、所属するしないに関わらず、スフル・デュ・クラージュの皆さんと交流できる機会を提案してもらいまして、そのお話をしてもいいですか?」
「交流?面倒ごとじゃなけりゃ問題はないが」
「それが…ノクサラさんには、面倒ごとになってしまうかもしれないんですよ」
「はぁ?」
私はルーシッド・エデン主催の、クラン対抗のエキシビションマッチに関する紙面を机に広げた。
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