28話 クラン 2
ルーシッド・エデン新シーズンの初日。
第六ゲートは普段とは比べようがないほどに混み合っていることが、外からでもよくわかる。
「それではね、コハクさん。昨日の提案を、メンバーの二人と一考してくれると助かるよ」
「はい、わかりました。それではお互い頑張りましょう」
ヴァン・フェール第一から第三の方々は、注目の視線を浴びながらゲートに入っていった。
ゲートの建物周辺に視線を巡らせてみると、ノクサラさんとアザレアさんを発見することができ、私は小走りでお二人の許へと向かう。
「おはようございますっ」
「おう、おはよう」
「はい、おはようございます、コハクさん」
「いやぁ、すごい人数ですね」
「シーズンの始まりはだいたいこんなもんだ。エリアの発見をするだけで、踏破ボーナスが入るってのもあるし、それ目当ての面々もいる」
「なるほど」
流れる人の波を眺めながら一息ついてから、今日の方針をお二人と相談する。
「今日はどう動きましょうか?私は、クランとの話し合いの結果を、お二人に伝えてしまいたいと思っているんですけど」
「今すぐ行っても、人波をかき分けて進むことになりますし、一旦ゆっくりしてもいいかと、わたしは思います」
「賛成、初日の朝はだるいわ」
「わかりましたっ。それじゃあ場所を探したいんですけど、いいところあります?話の内容が他の人に聞かれないほうがいいかなって」
「それならゲートの個室を使いましょう。パーティ単位で入れますし、大声を出さなければ外に漏れ聞こえることもありませんよ」
「そういうのもあるんですね」
「もっぱら昼寝したりの休憩用だがな」
私たちは人の波に紛れ、ゲートの個室を利用する。
―――
ヒッポフォロスも利用できる個室ということで、部屋は思っていた以上に広く、ジェルブ・ドールの一部屋よりも大きいくらいだ。
私は、アザレアさんから借りているアーケイン・パネルを取り出して、クランとのやり取りの内容や、求められた条件を、お二人に見せる。
「最初にお伝えしてしまうと、お二人が不快にならず、お二人の条件を満たせるクランはありませんでした。お二人の縁を求めていたクランは、条件や待遇こそ破格でしたが、私たちがそれに応えることは難しそうですし、交渉の余地というのもないと思い、話し合いの段階でお断りさせていただきました」
「へぇ〜意外と中堅どころが声をかけてきてたんだな」
「ですねぇ。……わたしの推測ですけど、こことここ、あとはこの辺りは、資金繰りが苦しそうなところです。セルヴィーノの後ろ盾が欲しいのでしょうね」
やっぱりお二人は平然としている。
実家との縁を求められたりしない限りは、そこまで不快じゃないのかもしれない。
…直接聞いても大丈夫だろうか。
「私は、他人が自分から話さないことを聞かないようにしているんですけど、軽くだったらお二人のお家のこととか、触れても大丈夫だったりします?」
「…何を今更。アタシが自分で話したことくらいなら、別に問題はねえよ。あれこれ祖父さんの話をせがまれたりするのは、面倒だから嫌だが」
「ほんの軽くであれば問題ありませんよ。…ただ、家を出るまでの生活とかを尋ねられるのは、ちょっと困りますが」
「わかりました。ではシュトラーレンゾンネとセルヴィーノ総合魔導社、と言い換えさせてもらいますね」
「おう」
「そのくらいなら全然大丈夫ですよ、うふふ」
「改めまして。直接お話をしてないクランも含めると、お誘いの声をかけてきたクランの半数以上が、シュトラーレンゾンネとセルヴィーノ総合魔導社との関係を持ちたいといったクランでした。さっきと同じ内容ですけど、私たちの実力を買ってもらえている場所ではないので、一律お断りということです」
「無難だな。騙したところで、違約金を支払わされるのがオチだ」
「評判も悪くなってしまいますし、こういうところとは揉めたくありませんね」
意見が一致したようでよかった。
「ここからはスフル・デュ・クラージュとの縁を求めてきたクランです。ヒッポフォロスの皆さんのご厚意に、砂をかけるような真似はできませんので、私の判断でお断りしました」
「それに関してはコハクの一存でいいぞ」
「というか結構いたんですねぇ」
「そうなんですよ。クランに行ってみたら、私をヒッポフォロスの子供だと思っている方もいましたし、意外と自己紹介の部分とか見られてないんだなって思いました」
「まあ、話題性だけで声かけてきてる部分はあるだろうしな」
「ちょっと悲しかったです」
「コハクさんを悲しませるなんて許せません。これらのクランとは、今後お付き合いを避けましょう!」
「そこまでは、大丈夫じゃないですかね?」
「そうですか…?」
アザレアさんは、ちょっと不服そうな表情を浮かべていた。
「ここからは、お二人の条件と合わなかったんですが、考えるだけの価値があるクランだと思いました。話し合いの段階で、シュトラーレンゾンネとセルヴィーノ総合魔導社との関わりを持つのは難しい、不可能とお伝えしたうえで、是非とも言ってくれたクランでもあります」
「へぇ〜。…んー、この条件だとイマイチだなぁ」
「ここ、評判が良くないですよ。上っ面だけがいいクランかもしれません。要警戒です」
「どれ?…あー、アタシも聞いたことあるわ。ライバー冒険者の出入り激しいところよな」
「そうです。ここも怪しくないですか?」
お二人には、パラデイソポリスで生活してきて、映像や配信を観てきた知識の蓄積があるからか、クランを見ただけで弾くべき対象か、そうでないかの選別ができるようだ。
しっかりと一覧を作ってきてよかった。
「…んー…、こうなると交渉でどうにかなるクランは」
「なさそうですねぇ。お給金もですが、編集者や撮影スタッフの支援を、自分たちで探して雇用しなくてはならないのは厳しいです」
「今以上に苦労しそうだし、出費も多くなるだろうからな。給金と利益関係もキツそうだし」
交渉と妥協でどうにかなりそうなクランは、お二人の選別で弾かれ、残ったのは活動的に厳しそうなクランだ。
クランという看板を掲げることはできても、生活が苦しくなるのなら意味はない。
私は、お二人に生活を犠牲にする気はない。
…夢を掴むためには、甘い考えなのかもしれない。
それでも、人目を恥じるような活動を、私はしたくない。
「最後に一つ。とあるクランからお誘いがありまして、その相談をしたいんです」
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