28話 クラン 1
「新シーズンまでの間、お休みをもらってもいいですか?」
「あと四日くらいだし別にいいが、なんかあるのか?」
私たち三人は、ゆったりとしたペースでスケルトンを倒しながら、スコアを稼いでいた。
「ランキングに載ったからだとは思うんですけど、色んなクランからのお誘いがアローズ宛に届いてまして、それらのお話を聞きに行こうと思ってるんです」
「まぁ来るとは思ってた」
「どれくらいの数が届いているのですか?」
「二〇件と少しですね。昨日、直接やってきた人もいたんですが、言いたいことばかり言う人でして、条件の交渉とかを進めるのが難しく、帰ってもらいました」
「…。」
「…。」
ノクサラさんとアザレアさんは、顔を見合わせてから眉をひそめている。
「アタシたちも同行するぞ?」
「コハクさんばかりに、失礼な方の相手を任せるわけにもいきません」
どうやら、私を気遣ってくれているようだ。
だけど昨日来た人は、『ノクサラさんのシュタール家との縁』『アザレアさんのセルヴィーノ総合魔導社への繋がり』のことばかり話していた。
お二人がこういう申し出をしてくれることは嬉しいが、お二人を守るには私が対応するのが一番だろう。
「お二人が不快になられるかもしれませんし、そういうことは避けたいと思っているんです。それに、まずはお話を聞いて、条件とかの交渉をするのみで、最終決定は私たち三人でしたいので、それまでは私に任せてくださいっ」
「はぁ…まったく。なんか困ったら相談しろよ」
「コハクさんが傷付くなんて、到底許せることではありませんからね!」
「わかりました。えへへ、ありがとうございます。それでさっそく相談なんですけど、文面の段階で高圧的な雰囲気のクランは、蹴っちゃってもいいですかね?」
「蹴っとけ」
「ブラックリストに入れてしまいましょう」
「はいっ」
お二人の最低条件を伺いながら、私たちは今期最後のルーシッド・エデンを冒険した。
―――
様々なクランからのお誘い、その詳細を聞くために私はパラデイソポリスを駆け回ったのだが、結果は芳しいとは言えない。
全体的に多いのが、私一人だと聞いて薄っすらと落胆の色を浮かべる人たちだ。
そこまで高くない身長で、子供っぽく見られやすいのも原因の一つだろうが、ランキング映像で大々的に公表されたノクサラさんとアザレアさん目当てなのだろう。
次に多かったのが、私がジェルブ・ドールに宿泊していることと、クラン『スフル・デュ・クラージュ』の方々から懇意にしてもらっているということをどこかから聞きつけ、その繋がりを得ようとするクランだ。
あくまで私生活でお世話になっているというだけで、パーティでの協力関係がないと伝えると、声のトーンが少しばかり沈んで聞こえた。
…ヒートヘイズは、『スフル・デュ・クラージュのお零れなんだろ?』なんて言ってくる人がいたのは想定外であり、とても不愉快に思った。
最後に、ノクサラさんとアザレアさんが求める条件に合わないクラン。
活動の自由度や、所有する設備、給金という形での生活の保証等、お金の問題を話し合いで埋めていくのは、とても難しいことだと理解させられた。
クラン側の蓄えや、クランの活動を支援してくれているスポンサーとの都合が大事だと、親切な人が教えてくれたのだ。
きっと私一人だったら、こういった条件はそこまで難しくないのだろうが、私一人では今の舞台には立っていない。
「はぁ…」
クランやパーティの運営というのは、とても難しい。
―――
新シーズンの開幕を明日に控えた最後の休日。
数日の間に成果を得られず、私はジェルブ・ドールに戻ってくることとなった。
クランに所属できれば、活動するための費用を抑えられるようになる。
それに編集者という、編集を専門としている職人さんを雇いやすくなって、映像の投稿頻度を上げたりできるはずだ。
とはいえ、それはあくまで所属できればであり、クランに対して利益の還元ができたらの話である。
私の頭の中には、お金と条件と待遇がぐるぐると漂っており、知恵熱でも出てしまいそうだ。
「やあコハクさん、お疲れの様子だね」
「ただいまです、フロランさん」
「おかえり」
フロランさん。彼はヴァン・フェール第一のリーダーを務めている男性で、現在はクランリーダーも務めているヒッポフォロスだ。
どうにも、ブレオンヌ帝国の皇族の血が流れているらしく、非常に高貴な生まれだという。
ジェルブ・ドールに宿泊するよう、私に提案してくれたのはフロランさんであり、ヒッポフォロスの皆さんと関わるきっかけを作ってくれた人でもある。
「立場こそ変わったものの、再びのクラン探しは大変かな?」
「そうですね。ただ、立場が変わったからこその大変さもあります」
「はははっ、上に立つものの悩みというのは、いつ如何なる時も絶えないものだ!」
椅子に座るようにと、軽く手が振られる。
なにか話があるようだ。
「コハクさんを通して、ヴァン・フェールの情報や関わりを求められたりはしなかったかい?」
「ありました。流石に皆さんにご迷惑をかけるつもりはないので、全てお断りしています。安心してください」
「実直なレディだね、コハクさんは。もっとずるく生きても、誰も文句は言わないとは思わないのかな?」
「お日様とお月様、お星様を使って、私たちの主神様は地上を見守ってくださっています。死後、主神様に仕えるためにも、誰かに恥じる生涯は送れませんよ」
「はははっ、素晴らしい心意気だ!私たちが見込んだだけはある」
「えっと、ありがとうございます…?」
楽しげに哄笑していたフロランさんは、私の目の前に一通の封筒を差し出した。
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