26話 夢を描く 2
私は少し悩んでいた。
ノクサラさんに贈った『私だけを見てください』という言葉は、彼女に降りかかる悪意を払い除けるためのもの。
今のアザレアさんに贈っていい言葉ではない気がする。
それに、せっかく自分自身で殻を破り、目標を見つけたのだから、私の言葉によって歪んでほしくないとも思う。
だからきっと、今のアザレアさんに必要な言葉というのは。
「アザレアさん」
「はい」
「せっかく自分で目標を見つけたんですから、アザレアさんの言葉を私に預けてみませんか?別にどんな言葉でもいいんです、私に言葉を贈られるんじゃなく、私に言葉を伝えた方がアザレアさんにとって価値のあるものになると思うんですよ」
「なる、ほど…」
アザレアさんは、目標を持てていなかった理由を語る前置きとして、『他責』という言葉を使っていた。
もしかしたら、他人からの言葉や指示を重く受け止めてしまう可能性があるし、もし目標が変わった際に私が重荷にならないよう、どこにでも気兼ねなく羽ばたける心持ちであってほしい。
そして、私に向けられるアザレアさんの言葉をしっかりと受け止め、言葉を求めた者として責任を負えるように、私もなりたい。
パーティリーダーとして。
「では…コハクさんを見続けさせてください。冒険者として配信者として、その頂に立った後でさえ、わたしはコハクさんを、この瞳に収め続けたいです」
「えへへ、大変な言葉を預かることになっちゃいますね。…わかりました、私はアザレアさんに見限られないよう、ルーシッド・エデンを全力で駆け抜けます。色んな人たちやモンスターが私に立ちはだかるんでしょうが、それらを蹴散らして見せましょうっ!」
「っ!」
ノクサラさんに膝枕をされている状況で、伝える言葉ではないのかもしれない。
まったく動かない身体を、ちょっと恨めしく思ったものの、アザレアさんが見せた最大級の笑顔に、それは杞憂に終わっていった。
「よろしくお願いしますね、コハクさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、アザレアさん」
「アタシも忘れんなよ」
「忘れてませんよ。私たちはアローズなんですから」
「そりゃよかった」
―――
さて、私たちがしばらく休んでいると、ノクサラさんが大きな声をあげた。
「うおあ!?なんだこりゃ?!」
「どうしたんですか?」
「いや、ユニークボスのスコアだよ。ユニーク系は軒並み高いとは聞いてたが、こんなに貰えるとはな」
ノクサラさんは、自身の冒険者証明書を私に見せてくれた。
『ヒートヘイズ 一体 七万スコア』
「ななまん…スコア、ですか?」
「えっ、そんなに入っているんですか?」
「ヤバくないか?」
「破格じゃないですか!」
アザレアさんも確認してから、目を丸くして驚いていた。
七万スコアはお金に換算すると七〇万カルタだ。
「七〇万カルタって、パラデイソポリスだとどれくらい期間を、働かずに暮らせる金額なんですか?」
「そうですねぇ、三ヶ月から四ヶ月くらいでしょうか。わたしたちの活動にも余裕が生まれますね」
「うっひょー、呑みたかった酒が色々あるんだよなぁ!にしし、どれから呑んでやろうか」
ノクサラさんは完全に呑太郎と化している。
「ユニークボスって再出現はするんですか?」
「するやつとしないやつがいるな」
「今回のヒートヘイズみたいなユニークボスは、そのシーズンで一回のみなことが多くて、配信者を多く抱えているクランが、こぞって倒そうとしますね」
「なるほど。一応ですが、またしばらくしたら再出現しているかどうかを確認したいです。お金に余裕があれば、お二人の生活も楽になると思いますし」
「再戦できりゃアタシとしても嬉しいが、コハクがそこまで金のことを気負う必要はねえよ」
「むしろコハクさんのおかげで、しばらくの余裕が生まれたのですから」
「そうですか、わかりました。…でも家賃とか困ったら言ってください。私の部屋は広いので、お二人くらいなら余裕で生活できると思いますし」
ノクサラさんとアザレアさんは、一度顔を見合わせた後、難しそうな表情を露わにした。
なにか思うところがあるのかもしれない。
「魅力的だが…アザレアもか…」
「三人…ですか…」
その後、私たちはジェルブ・ドールで祝勝会をし、ヒッポフォロスの皆さんも交えて、非常に楽しい夕食時を過ごしたのである。
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