26話 夢を描く 1
わたし、アザレアは、ルーシッド・エデンの空を見上げながら、胸に込み上げてくる達成感を覚えながら、小さく笑みをこぼす。
トドメを刺したのはコハクさんですし、わたしの魔法が命中するようにサポートしてくれたのはノクサラです。
けれど、パーティの一員としてユニークボスに打ち勝ったということは、確かな事実なのです。
「コハクは…無理だな。…アザレアは動けるか?」
「手を貸していただければ、起き上がるくらいはできますよ」
「ほら」
ノクサラの差し出してくれた手を、わたしは一切の躊躇なく握り、上体を起こしてもらいます。
コハクさんが初めてパーティを組んだ女性でありながら、アローズには不可欠なメンバー。
必要以上の関わりを持つ気はありませんが、パーティメンバーとしてなら仲良くできるかもしれません。
「無理をお願いしてしまいましたが、その…大丈夫ですか、コハクさん?」
「しばらく…結構な間、横になってれば動けるようになるので、問題ありませんよ」
完全に身体が動かなくなってしまったコハクさんは、手足をだらんと伸ばして、ダークブラウンの瞳だけをわたしに向けている。
巨人を倒すため、コハクさんには無理をさせてしまいました。
「すみま…いえ、武技を使っていただき、ありがとうございます」
「えへへ、どういたしまして。アザレアさんとノクサラさんのおかげで、啄鎧矢を心臓に当てられました。私の方こそ、お二人にお礼を言わせてください。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「へっ、余裕だよ」
ノクサラは、コハクさんの上体を起こして、自身の膝で膝枕をしてあげている。
…わたしが動けないのをいいことに、ずるいのではありませんか?
まったく。
わたしには一つ、コハクさんに伝えたいことができました。
胸に燻る慕情もありますが、今はそれを伝える時ではないでしょう。
一度深呼吸をしましょうか。
「すぅー…はぁ…」
…なにかを打ち明けるというのは、勇気がいるものですね。
「コハクさん、実はお話したいことがありまして、休憩がてらお聞きしてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい、構いませんが」
「…アタシはどっか行ってようか?」
「大したことではありませんし、アローズのことでもありますのでどうぞ」
「おう」
「まずわたしは…セルヴィーノ家という魔導具を生業とした、そこそこ大きな家の出身でして、家を飛び出すまでは自由の少ない生活をしていました」
ノクサラはともかく、コハクさんも驚いていませんね。
どこかで知ってしまったのでしょうか。
自由がない代わりに、生活に不自由することもない暮らしではありましたが、何をするにも親が決めたことしかできない人生というのは、わたしにとって苦痛以外のなにものでもありませんでした。
「他責になってしまうのでしょうが、そんな生活を送っていたわたしは、人生に目標というものを持てず、ただ縛られないだけの生き方をしていました」
「月並みな言葉なのですが、目標を持たない人も珍しくないと思いますよ?」
「コハクがそれを言うのか…」
「えっ?」
わたしの考えもノクサラと同じだ。
夢や目標のために、大金を支払って海を渡ったコハクさん。彼女からすれば、夢や目標があるのが当然だと考えていました。
「榾火村のみんなは私の背中を押してくれましたが、私が夢を語っても一緒に歩いてくれる人は、いなかったので。…夢より現実だって言われたこともありますし」
コハクさんの表情は、ほんの一瞬だけ寂しそうに見えた。
遠い異国でスターを目指す。
パラデイソポリスには夢追い人は多くいるが、その目標を叶えられるのは、ほんの一握りにも満たないでしょう。
それに、面接に落とされて現実も知っているはずです。
「目標がないのは珍しくないのかもしれません。…けれど、折れることのない夢を持ったコハクさんと過ごす内に、目標の一つも抱けずにいるわたしを情けなく思っていました」
「…。」
申し訳なさそうにするコハクさんを見るに、似たような状況が故郷でもあったのかもしれません。
謝罪される前に言葉を進めてしまいましょう。
「ですが!わたしにも目標が一つできたのです!」
「おぉっ!もしかして、それを教えてくれるんですか?」
「はい。…自分の目標というには他人本位な部分はありますが、わたしアザレアは、コハクさんをスター冒険者でありトップ配信者になれるべく、お支えしたと考えております」
コハクさんは目を瞬かせて、パッと笑顔の花を咲かせる。とても可愛らしい。
「映像の編集に、戦闘でのサポート、魔導具全般の調整や新調等、わたしにできることは多くあります。コハクさんを支える一本の柱として、夢にご一緒してもよろしいでしょうか?」
「是非、喜んでっ!えへへ、支え甲斐のある冒険者兼配信者にならないといけませんね」
話は、これで終わりではありません。
「あの、一つ、コハクさんからお言葉を貰いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「言葉ですか?」
「はい。…ノクサラに伝えた『私だけを見てください』というお言葉です。それがあれば、わたしは頑張れると思いまして」
「はぁっ、アザレアお前」
「だってズルいじゃないですか!ノクサラばっかり!わたしもそういう言葉が欲しいんです」
わたしとノクサラが言い争っている間、コハクさんはなにかを考えているようでした。
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