25話 ヒートヘイズ 4
ゆっくりと落下している最中、コハクさんの方へと振り返ってみると、立っているのが精々といった雰囲気で、啄鎧矢のスタミナの消耗の激しさを物語っています。
そしてノクサラはといえば、巨人と徒手空拳の攻防を繰り広げている。
はて、巨人はどこで槍のような武器を失ったのでしょうか。
思い返してみれば、熱線を放った時には既に失われており、コハクさんの啄鎧矢を防ぐ際に、焼失したのかもしれません。
…となるとノクサラとの間合いの取り合いは終了し、純粋な近接戦闘が始まったということでしょう。
ノクサラも良い体格と、一九〇バシコンという長身を備えているものの、三バシスほどの巨人相手では不利だと思われます。
こちらからロックシュートなどで援護をしたいところですが、わたしの命中精度はコハクさんのそれには遠く及びませんので、誤射の可能性を孕んでしまいます。
若干不利な状況で誤射などしようものなら、形勢が傾いてしまいますね。
「…ふぅ」
この戦闘でわたしにできることはなにか。
最強の魔法を使って巨人を倒すこと、ではありません。どう足掻いても現状の持ち札では、相手を倒せるだけのイメージが浮かび上がることはないでしょう。
“ですが”、やれないことが皆無というわけでもありませんので、ここは声を張り上げましょうか。
「全身全霊の魔法を使い、相手を押し潰しますので、コハクさんはトドメをお願いします!」
―――
アザレアさんの大きな声が、私、恋白の耳に届く。
トドメというのは、間違いなく啄鎧矢のことだろうが、私のスタミナ事情は芳しくない。
征空矢と啄鎧矢を短期間で使用した結果、私の全身にはひび割れたような痛みが走っており、立射することが精々の状態だ。
今から移動して、確実に心臓を射ち抜ける位置取りをするのは難しい。
だけれど、私はアザレアさんに期待されている。
パーティリーダーとして、同じパーティの仲間として、その期待に応えたい。
…応えられるように全力を振るいたい。
そうなると、アザレアさんが魔法を放つまでに、位置取りをして啄鎧矢を射掛ける準備をしないといけない。
ノクサラさんと戦っている巨人は、自身の攻撃で薙刀を失い、徒手空拳で戦っている。
間合いの取り合いでの、立ち位置の変化は起こりにくくなっているものの、それでも啄鎧矢を確実に当てるのは、近づく必要がある。
足は…動きが悪い、歩いて移動するのが精々だろう。
身体にのしかかる疲労は、数分そこらで回復するものではなく、自らの足で巨人を追いかけるのは不利だ。
「できることは…」
アザレアさんが、氷の壁で空に逃げた状況を思い出し、私はアーケイン・トリガーに視線を向けた。
魔力に余裕はあるけれど、着地からの立射の姿勢をとることを考えると、機会は一度のみ。
『ルーシッド・エデンなら失敗しても次がある』なんて情けない考えが頭をよぎったものの、一度あの巨人を見失っている。
もしかしたら、これが最後の機会という可能性は否定できない。
「燃えちゃうねっ!」
アザレアさんが、巨人に対して狙いを定めた。
私も動こう、勝利を射抜くために。
「『ウッドピラー』!!」
一歩踏み込んだ私は、身体が傾くほどに前に体重をかけながら、ウッドピラーを発動する。
私の傾きに合わせて斜めに発生したウッドピラーは、私を強烈な勢いで吹き飛ばし、巨人への距離を大幅に縮めることに成功した。
「っ!」
普段と違って、着地の衝撃が逃せないため、蹄の一部が削れていく不快感が足から伝わってくるが、そんなものはお構いなし。
アザレアさんの魔法に備えつつ、巨人の心臓の鼓動を感じ取る。
―――
アタシ、ノクサラは、巨人と一進一退の攻防を繰り返していた。
徒手空拳での戦闘でも、この巨人は強い。
けれど、弓やら槍やらに浮気してるような生半可な奴に、アタシが負けるわけにはいかないんだ。
相手の攻撃を受け流しながら、腹や足を中心に攻撃を加えていくと、コハクの移動とアザレアの魔法を背後から感じ取れる。
「さあ、終わりの時間だぞ。『シュラムシュトローム』」
巨人は二人の攻撃を感じ取ったのか、安全な距離に移動しようと試みるが、アタシの武技によって地面は泥濘み、押し出された拍子に体勢も崩す。
ここまではさっきと同じ。そして、この巨人がやることも一緒だろう。
自身を中心とした、焦熱の範囲瘴動。
だがなあ、そいつは既に見てるんだ。アタシ様が対策しないわけないだろ。アイツらにばっか、カッコいい真似させてられないんだわ。
「空気の代わりに、アタシの腕でもしゃぶってな!!」
巨人が大きく口を広げて呼吸を始めた瞬間、アタシは相手に飛び乗ってから、口に向かって拳をねじ込む。
特製の腕鎧と、鍛え抜かれたアタシの腕はいい味がするだろ?
「『ミーティアライト』!!」
アザレアの発動した魔法、その名前が耳に届くと同時に、アタシは巨人を蹴飛ばして安全圏に逃げ去る。
すると、家一軒は押し潰せそうな巨岩が巨人を押し潰した。並の相手なら軽く潰せる大魔法だが、あの巨人を倒しきれるとは思えない。
…全力を出したアザレアには悪いが、これでもなお威力不足だ。
「貫き穿て『啄鎧矢』!!」
コハクの声が聞こえれば、なんの派手さもない一本の矢が、大岩を容易く貫通していく。
アザレアの放ったミーティアライトが時間で消滅すると、そこには胸を赤く染め上げ、身体が消滅しかかっている巨人が横たわっており、アタシは勝利を確信した。
「よっしゃあっ!!」
アタシが大喜びで二人に振り返ると、魔力切れで墜落したアザレアと、スタミナが尽きて動けなくなっているコハクが転がっていた。
締まりの悪いこった。
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