25話 ヒートヘイズ 3
わたしアザレアは、コハクさんに移動してもらうまでの時間稼ぎをします。
現在の巨人は、ノクサラの武技で足が地面に埋まっており、即座に動くことはないでしょう。
その間に、わたしたちと巨人の間を凍らせておき、各色のアーケイン・プロキシに魔力を注ぐ。
コハクさんの武技が外れたのは痛手ですが、精神が折れていないのは素晴らしい心構えでしょう。
しかし、わたしとノクサラを一撃で退場させ、コハクさんを倒した巨人と再び会えるとは思ってもみませんでした。
わたしとしては、…以前のわたしならこういう面倒そうな相手はせず、一目散に逃げ出してから、一般モンスターの討伐に向かったでしょう。
大きな夢を掲げるコハクさん…とおまけについてきたノクサラの影響でしょうか。
「ふふっ」
笑ってしまうほどに、意外です。
家の束縛から自由になりたかっただけで、これといった目的もなく、ただ生きていただけなのに、今のわたしはユニークボスの巨人を、アローズのメンバーとして倒したいと思っています。
ただ、今できることは時間稼ぎが精々で、有効打を与えることは難しいので、わたしの役割を果たすまでです。
わたしの方から巨人の動向を窺えるように、わたし自身の姿は晒してある。
それに伴い、巨人が敵視する相手がわたしとなったようで、地面から足を引き抜くと縮地でこちらに向かってきました。
クラン『シュトラーレンゾンネ』を、いえシュタール家を中心に使われている縮地という魔力現象は、明確な弱点がある。
コハクさんも、それを見抜いて攻撃を躱していましたが、縮地は真っ直ぐにしか進めません。
だからこそ、進行方向に障害物を置いてしまえば、一旦の時間稼ぎにはなるでしょう。
生成したフローズンブルワークに衝撃が走る。巨人が衝突したのでしょう。
この後の行動は、槍のような武器で壁を斬り裂くか、壁を避けてくるか。
どのみち厄介ですが、足元は凍らせてあります。武器を振るったり、移動したりするための踏み込みを阻害できるのですから、問題はないでしょう。
わたしは、緑色のアーケイン・プロキシを構えて、迎撃の準備をしていたのですが、壁の左右と上から回り込んでくる様子はなく、壁が斬り刻まれることもなかった。
「もしや、コハクさんたちの方に!?」
コハクさんを運ぶノクサラの方へ頭を向けてみるも、それらしき影はない。
視線を戻してみると、氷の壁の一部が赤く輝き始め、わたしの汗が凍って張り付くような気分を味わう。
そう、巨人は熱を用いてコハクさんの矢を防いでいました。それを攻撃に使わないわけがありません。少し考えればわかることです。
わたしは、広範囲を熱で焼き払われる可能性を思い浮かべ、自身の足元に斜めに傾いたフローズンブルワークを発生させて、自身の身体を射出する。
コハクさんがウッドピラーでする大ジャンプのモノマネです。
「!?」
身体にかかる重さに驚きつつも、氷の壁に注視して相手の出方を窺っていると、赤く変色していた箇所が水蒸気となって蒸発していく。
危機感を覚えつつも、わたしにコハクさんのような着地はできません。魔力の翼を展開して、落下の勢いを緩やかにしていくと、赤色の柱が壁を貫通し、区画の端まで到達していた。
「はあ?!」
あれは熱線。
過去に同系統の魔法を使用したことがありますが、太さにして直径二バシス、距離に関しては…五〇バシスをゆうに超えるものは、規格外と言わざるをえません。
直撃をもらってしまえば蒸発することは想像に難くない一撃に、口端が引きつってしまう。
巨大な弓に、槍のような武器の近接戦闘、そして化け物級の瘴動を有するなんて、なんて不合理なのでしょうか。
こちらを見定めた金色の瞳に、わたしの心は震え上がりますが、わたしは一人でないことを思い出して、アーケイン・プロキシを操る。
「『ロックシュート』!『ロックシュート』!!」
無数に展開したブロック状の石を射出し、巨人に攻撃を試みるも、目から放たれる細い熱線に全てを撃ち落とされ、手の平がわたしに向けられてしまう。
…翼を消して落下してしまえば、わたし程度の身体能力では無事でいられません。避けられたとして、その次がないでしょう。
フローズンブルワークをわたしの位置まで展開する…ことは難しい。
万事休す、でしょうか。
時間稼ぎも十分にできない自分の弱さに、臍を噛む思いをしていれば、巨人の瞳めがけて一本の矢が飛来し、それを振り払った瞬間、ノクサラが懐に入り込む。
「時間稼ぎご苦労さん、チェンジだ」
「アザレアさんは…落ち着いて着地してくださいっ!」
二人の声に胸を震わせながら、わたしは地面を目指す。
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