25話 ヒートヘイズ 2
間合いの異なる戦士の戦いは、自分に有利な領域を維持するため、常に動き回る必要があるようだ。
ノクサラさんの徒手空拳は至近距離戦闘が主軸で、巨人の薙刀は中距離戦闘といったところ。
懐に入り込もうとするノクサラさんに対し、巨人は距離を置こうと立ち位置を変え、その場に留まることのない接戦を繰り広げている。
とはいえ、体格からなる強靭な攻撃は、ノクサラさんでも厳しい部分があるようで、ところどころ押され始めていた。
「ノクサラ!」
「おう!」
「『ヴァインドメイン』!」
ノクサラさんが巨人の一撃を躱し、大きくジャンプをすると、入れ替わるように緑色のアーケイン・プロキシが接近し、アザレアさんの魔法が発動する。
緑色のアーケイン・プロキシから一本の蔦が生えたかと思えば、それは縦横無尽に分裂しながら伸びていき、巨人の身体を捕らえてしまう。
ただ、それも一瞬のことで、無数の蔦は巨人によって引きちぎられ、最後には薙刀で一掃されてしまう。
「『ファルベッケンシュトース』!」
けれど、その隙を狙ってノクサラさんが追撃を行う。
「チィッ、防ぐのかよ!」
攻撃を腕で防がれてしまったノクサラさんは、巨人の顔を蹴飛ばしながら距離を取る。
今までの動きを見ると、弱点らしい弱点はなく、強いていうなら薙刀の間合いの内側に入られることを嫌っている程度だ。
巨人は人型のモンスター。
スケルトンではないことを考えると、心臓があるはず。
しかし、征空矢のように斬り落とされては意味がなく、連続での使用は難しい。
そして、私は特異性質『弱点特効』が発現している。
弱点であれば威力が増強し、非弱点の場合は著しく減衰してしまうので、攻撃箇所は限られる。
狙いは確実でなければならない。
私は、自身の射撃でノクサラさんの邪魔をしないよう位置取りを行い、巨人の首に狙いを定める。
もし回避する場合、頭だけを動かすよりも、上体を動かして回避する方が手間だからだ。
ノクサラさんと巨人が間合いを奪い合おうと立ち回り、一処に留まらない戦闘に矢をねじ込むのは少し難しい。
けれど、対面で戦っているノクサラさんと比べれば、まだまだ楽な方だろう。
巨人が反撃を行うために足を止め、無防備になる一瞬。私は弦から指を離し、巨人の首めがけて矢を放つ。
ヒュンと風を射抜いた矢は、隙を晒した巨人に向かっていくのだが、無理のある体勢で後ろに跳び退き、すんでのところで躱されてしまった。
「『ロックシュート』!」
しかし、私の攻撃に合わせるよう、無理な体勢の巨人めがけてブロック状の石が射出される。
軌道は少しばかりズレていたものの、巨人が反応せざるを得ない軌道のものがいくつかあり、足を止めてから薙刀を振るい、粉微塵に切り裂いていく。
二度の遠距離攻撃を経て、巨人は足を止め薙刀を振るった。
となれば踏み込むのはノクサラさんだ。
「ここは、アタシの間合いなんだよ!――」
拳を構え、殴りかかろうとしたノクサラさんだが、巨人が防御姿勢に移った瞬間に、口端を持ち上げて意地の悪い笑みを浮かべ、大きく踏み込んだ。
「――『シュラムシュトローム』!」
地面を揺らし泥濘へと変えて、相手を押しやる武技。
巨人は泥に足を取られ、押しやられたことで致命的なまでに体勢が崩れてしまう。
これを好機だと考えた私は、急ぎ弓に矢を番えて『啄鎧矢』の準備をする。
意識を巨人に集中させれば、人間と同じ位置に心臓の鼓動を感じ取れた。
「貫き穿て『啄鎧矢』!!」
スタミナのほとんどが失われる感覚と共に、必殺の一矢が放たれ、巨人の心臓を射抜かんと突き進んでいく。
肌、筋肉、骨、それらをいとも容易く貫いた啄鎧矢は、巨人を絶命させるに至り、私たちは華々しい大勝利を飾る。
…とはいかなかった。
鬼の形相で啄鎧矢を睨みつけた巨人は、足を動かせないことを悟ると、胸を膨らませながら大きく息を吸い込むと、纏う空気が揺らめくほどに灼熱化していく。
これは瘴動だ。
「やべっ」
ノクサラさんが全力疾走で距離を離すと、巨人を中心に周囲の石材が溶けるほどの熱が発生し、私の放った啄鎧矢は矢柄と矢羽根が一瞬の間に燃え尽きてしまい、制御を失った鏃だけが巨人の肩を貫いたのだった。
「うぐっ…!」
啄鎧矢で倒し損じたと理解した瞬間、スタミナの急激な低減による反動が私の身体を突き抜けていく。
巨人がこちらを睨みつけているというのに、身体を自由に動かすことは叶わず、逃げることは不可能。
今回も負けてしまうのだと、若干の諦念が胸の奥から込み上げてきたかと思えば、目の前には氷の壁が複数枚生成され、視界が遮られた。
「コハクさん、距離を置きましょう!」
「身体が、動かなくって」
「アタシが運んでやるよ!」
「ありがとうございます!…ではアザレアさんは地面を凍らせながら、氷の壁で相手の妨害を」
「はい!」
「ノクサラさんは私を遠くに置いたら、応戦をお願いします。私は無理やりにでも二の矢を射ちますので」
「おう。…失敗しろとは言わないが、気負わずにやれ。きっと次もある」
「はいっ」
私は失敗した。
それでも、この瞬間に敗北が決定しないのが、パーティなのだと私は思った。
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