25話 ヒートヘイズ 1
私たちの目の前にあるのは、今までの大扉とは比べ物にならないほど大きな扉で、郷守様の住まうお城の城門のようであった。
胸に着けている玉鈴の真珠飾りに触れると、ちょっとくらい大きな扉なんて、全く気にならなくなってくる。
「コハクのそれって、大事なものなの?」
「大切ですよ、とっても。…パラデイソポリスに渡るお金の多くを出してくれたのが、不語仙郷の郷守様なんですが、一緒に贈ってくれた友誼の品なんです。煤に塗れても輝きを失わない、氷下貝の真珠で拵えた貴重な品なんです」
「へぇ〜…サトモリ様って男?」
「いえ女性です。本名は八百八不語仙守桃風学良と仰りまして、よく八百八様って呼ばれてますね」
「すごいお名前ですね…」
「異文化って感じだ」
「明蝉国でもなが〜い名前なんですよ」
ボス級がいるかもしれない区画の前で、こんな呑気に過ごしていていいのだろうか。
まあ、いつも通りかな。
「行きましょうか」
「撮影を開始しますね」
「はい。……こほん。今回は、廃城塞エリアにあるお城までやってきました。まだ内部を確かめてはいませんが、ボス級がいるんじゃないかと考えています」
私は扉の前を一周し、その扉の大きさを示してみる。
「それではノクサラさん、お願いします」
「おう」
ノクサラさんが扉を開いた、その隙間を縫うように私が突入する。
相手がなにか、どれくらいの数かが不透明な状況だ。危険を伴う行動は私が対処したい。
城内に突入すると、そこは石造りの大講堂といった印象の大部屋なのだが、お城の上がないことから室内というのは難しい状態だ。
しかし、崩壊したというわけではないのか、瓦礫のようなものは見つけられず、小綺麗な印象だ。
鏑矢を構えながら城内を走っていると、チリッと首筋が焦がされるような感覚が走り抜けていき、私の胸から僅かばかりの焦りと不安が滲み出る。
太陽に見つめられているような感覚を、私は以前にも浴びていた。
順繰りと視線を回してみれば、十九区画で戦った女の巨人が座り込んでおり、私と目が合うなり立ち上がり、薙刀を拾い上げた。
私は鏑矢を弓に番え、狙いを定める前に射掛けた。
一応、鏑矢は巨人に向かっていったものの、片腕で払われてしまうほどの威力しかない。
けれど、その大きな音は確かに区画全体に響いており、ノクサラさんとアザレアさんが動き出す。
「さあ再戦ですよ、巨人さんっ!」
身長は三バシスほどで、鎧と弓は既にない。そして身長よりも大きな薙刀を携えており、身体の表面には炎のような模様が揺らめいている。
弓に矢を番えて出方を窺っていると、相手は一歩であり得ないほどの距離を移動するのだが、それは前回も見ているし、同じような技である『縮地』をノクサラさんが使っている。
まずは慌てずに加速移動で距離を空け、巨人が再度踏み込んだ瞬間に、方向転換がてらの跳躍を行う。
『縮地』という技は、一歩でたくさんの距離を進むことができる、瞬間的に魔力で肉体を強化する技術らしい。
それはさておき、縮地には一つ弱点がある。
私が方向転換をしてから跳躍で空に逃げると、巨人は的外れな場所まで進んでいき、振り返って私を見た。
そう、縮地は一度使ってしまえば、止まるまでの間に方向転換ができないのだ。
私は空中から巨人に狙いを定め、弦から指を離す。
「捉え、駆けろ『征空矢』!」
最大加速はできないものの、矢を加速させるには十分な落下角。
目で捉えられるギリギリの速度まで加速した征空矢は、巨人に向かって突き進んでいくのだが、薙刀によって簡単に斬り落とされてしまう。
「足の次は征空矢を切られちゃうとはねっ。…でも!今回は一人じゃないんですよ!」
「前回の借りは、利息をつけて返してやらァ。『シュトゥルツフルート』!」
縮地で距離を詰めていたノクサラさんは、縮地の速度のままに拳を振るい、巨人の脇腹に重たい一撃をねじ込むと、武技の反動で吹き飛んでいく。
シュトゥルツフルートは威力と引き換えに、強烈な反動を有する武技で、直撃を受けた巨人は、苦しそうに顔をしかめている。
巨人の様子を伺いながら着地をすれば、攻撃の対象をノクサラさんに移したようで、私への視線は完全に外された。
背中を射つのも選択肢にはあるが、縮地を使われたら射程外になってしまうだろう。
至近距離での戦闘ならノクサラさんが得意だし、アザレアさんのサポートもある。なら私は、相手の戦い方の理解に努めたほうがいいはずだ。
私は警戒を一切解かずに、巨人の動向に注視する。
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