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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
夢を育む翼

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22話 逃げ水の後に 4

 急なお休みとなってしまった私は、ジェルブ・ドールのお仕事を手伝っていた。

 基本的には掃除と洗濯が中心だが、最近は炊事もできるようになってきて、ジェルブ・ドールと女将さんのお役に立てていると自負している。

 従業員さんもしっかりといるので、私が必須というわけではないのだが、妊婦の女将さんを手伝うのは、安い宿賃で泊めてもらっているお礼だ。


 ノクサラさんとアザレアさんのおかげもあり、ここ最近はそこそこ稼げるようになってきたので、『そろそろ正規の宿泊費に』と提案してきたものの、『今の価格が正規だ』と断られてしまっている。

 二足種族向けの宿に泊まったことがあるので、今の価格が破格なのは理解できる。

 恩をしっかりと返さないと、ジェルブ・ドールやスフル・デュ・クラージュの皆さんの負担になってしまうはずだ。

 いつまでも気を使わせないよう、一人前にならなくては。


「おーい、コハクー。お客さんが来てるよー」

「お客さんですか?」

「そー」


 一仕事を終えた私の許に、従業員さんの一人がやって来て、お客さんが来たことを知らせてくれたのだが、そんな約束をした覚えはない。

 ノクサラさんでも遊びに来てくれたのだろうか。

 いや、それならノクサラさんだと教えてくれるだろう。彼女は私の部屋に泊まった経験があり、従業員さんとも顔を合わせているはずだ。


 相手が誰かはわからないが、身だしなみを整えてから食堂に向かうと、見知らぬ狐の二足獣人である狐人こじんの男性が椅子に腰を下ろしていた。

 パラデイソポリスではほとんど見かけない、明蝉国に多い種族だ。


「どうもお初にお目にかかります、恋白様。わしは福兎鈴ふうり商会のパラデイソポリス支店を任されとる、はる千里せんりと申します」

「どうもはじめまして。…福兎鈴商会というと、六辺香郷ろくへんこうのさとの大きな商会でしたっけ?」

「ご存じでしたか!わしは貿易担当をやっとりまして、同じ明蝉国出身者として、ご挨拶に参った次第にございます。お近づきの印にこちらをどうぞ」


 晴千里さんは、油揚げに酢飯を詰めたお寿司である『御揚寿司おあげずし』の詰まった弁当箱を、私に手渡してくれた。


「おぉ、御揚寿司っ!もらっちゃっていいんですか?」

「ぜひぜひ、娘が丹精込めて拵えた揚寿司ですから」

「では、いただきます」


 御揚寿司を一つ食べると、油揚げに染み込んだ甘じょっぱい煮汁が溢れ出し、懐かしさが広がる。

 そして酢飯の方にはゴマが混ぜられており、プチプチとした食感が心地よく、お米を久々に食べられた感動が胸に込み上げてくる。


「…故郷を思い出す味です。娘さんにとても美味しかったとお伝えください」

「お口に合ったようで何より。しっかりと娘に伝えときます」


 一つを食べ終えて、もう一つ食べたいところではあるが、晴千里さんには何か用事があるのだろう。

 食欲を一旦抑えてから居住まいを正す。


「ところで、今日はどういったご用件なんですか?」

「一つは挨拶。もう一つは宣伝にと参りました」

「宣伝ですか?」

「はい。福兎鈴商会は、明蝉国との貿易をしとる商会でして、自然と向こうの品も手に入るんです。必要であれば、特定の品を輸入することもできますし、ご活用いただければと思った次第にございます」

「おぉ!」


 私の手元にある御揚寿司も、油揚げやお米、各種調味料が必要となるのだが、それらをパラデイソポリスで揃えるのは難しい。


「明蝉国で購入するより、値段は嵩んでしまうんですがね…」

「あ〜、それは仕方ないですね。私の船賃だけでも莫大でしたし…」

「ちなみに参考価格は―――」


 晴千里さんが教えてくれた価格は高額のそれであり、今の収入では、たまに楽しむ程度が精々だろう。

 ノクサラさんとアザレアさん、それにジェルブ・ドールの皆さんに、私の故郷の味を振る舞うのは…少し難しいかもしれない。


「気が向いたらで構いませんので、福兎鈴商会をよろしくお願いします」

「はい、お金に余裕ができたら伺いますね」

「お待ちしとります。…ところで恋白様は、少女巫おとめみこをしていた恋白様でよろしいのでしょうか?」

「はい、そうです」


 晴千里さんは目を丸くして私を見つめる。


「ほぉー。実は二度ほど神事を見に行ったことがありまして、もしやと思っとったんですわ」

「十六歳になって任期が終わり、郷守さともり様と祖父ちゃんの支援でパラデイソポリスに来ました。今はライバー冒険者として活躍するため、ルーシッド・エデンの攻略をしてます」

「少女巫からライバー冒険者になるとは面白い。チャンネル名を教えてもらってもよろしいですか?」

「『アローズ』という名前で登録してますよ」

「家族と観させていただきます」

「ありがとうございますっ」


 郷は違うものの、お互いに出身は明蝉国だ。

 故郷の話に花を咲かせて、ゆったりとした時間を過ごすことができた。

 お金に余裕ができたら、福兎鈴商会にも行ってみよう。

 …いや、女将さんが出産する頃に、なにかお祝いはできないだろうか。それこそ縁起のいい食事とか。


 私はあれこれ考えながら、ジェルブ・ドールのお手伝いに戻る。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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