22話 逃げ水の後に 2
巨人のボス級モンスターを見失ってから一〇日が経過し、攻略し終えた区画にスケルトンたちが再出現し始めていた。
そんな中で、私たち三人が第十九区画に向かったのだが。
「やっぱりいませんね」
「逃したにしては大きすぎる相手だったな」
第十九区画にはスケルトンすらおらず、通路のような区画と化していた。
「まさかモンスターに勝ち逃げされるなんて、思ってもみませんでしたよ」
「運が巡ればまた会うこともあるだろ」
「そうですよ、コハクさん。次に戦えるときまで、わたしたちは牙を研いで待っていましょう」
「わかりましたっ。再戦を楽しみにしましょう!」
気持ちを切り替えた私は、アザレアさんからお借りしているアーケイン・パネルを取り出して、周辺区画の記録を確認する。
「ここ数日は周辺区画での捜索に時間を使っていましたし、崩れたお城への距離があまり縮まっていないのですが、とりあえずで良さそうな道順は決めてきました」
私がアーケイン・パネルに映し出された地図を元に、最適そうな道順をなぞって示せば、お二人は頷いてくれた。
「問題は無さそうだな。しかし…」
「コハクさん、とてもしっかりと情報を書き込んでいるのですね」
「なんか、魔導具を扱えるようになったのが楽しくって。冒険中に知った情報を、寝る前に書き込んでいたんです。最初は簡単な情報だけに留めてたんですが、ついつい色々と書き足してしまいまして、えへへ」
一般区画と閂区画の分別。
同じ一般区画でも、スケルトンの種類と数の記載。
閂区画であれば、どういったエリートモンスターが出てきたかの記録。
ちまちまと書き足していくのが楽しくなってしまっていたのだ。
「コハクってこういうの得意なのな」
「冒険中に記録を取っていましたっけ?」
「いえ、覚えていたのを書いただけですよ。この辺りとかは、すっかり忘れちゃってますし」
「十分すぎる記録ですよ」
「こんだけの情報がありゃあ、事前の作戦立ても楽だしな。ナイスだ、コハク」
「書き込みお疲れ様です、コハクさん」
「えへへ〜、照れちゃいますね。戦うこと以外でもお役に立てるよう頑張ります!」
ノクサラさんの手が私に向かってきたので、頭を差し出してみれば、わしわしと髪が撫でられる。
なんとなく、人を撫でることに慣れてない手つきといった感じだ。
「あっ!わたしもコハクさんを撫でたいです!」
「…声うっさ」
「私の頭でいいならどうぞ?」
アザレアさんの撫でる手つきは、お母さんのものにちょっと似ていて少し懐かしい思いができた。
よく考えたら、とても子供っぽい扱いをされているのではないだろうか。
自分から頭を差し出したのも、なんというか子供っぽいかもしれない。
…でも、ノクサラさんとアザレアさんが嬉しそうにしているから、こういうのもいいのかもしれない。
―――
コハクさんが作成した地図を元に、わたしたちは区画の攻略を進める。
廃城塞エリアを攻略し始めて、二〇日程の時間が経ちましたが、コハクさんの動きは目に見えて良くなっています。
元々高い機動力を十分に活かしながら、スケルトンの首を射ち抜き、地面に転がる頭蓋骨を量産している。
スケルトンの頭蓋骨への追撃は、わたしとノクサラに一任し、自在に駆け回ることで相手を撹乱し、こちらへの被害を軽減しているようで、非常に戦いやすい戦場となりました。
コハクさんと活動するうえで、四足種族への知見を深めようと、ヒッポフォロスのライバーパーティであるヴァン・フェール第一の映像を眺めてみました。
やはりといいますか、機動力を活かした戦闘は、相手を翻弄し自分たちの土台を作り出せるだけの力があるのでしょう。
そういった映像を眺めている際に、一つの疑問を思い浮かべました。
『わたしはコハクさんの荷物になってしまうのではないか』と。
現状のわたしでは、コハクさんを追いかけながら魔法を行使することは叶いません。
魔導具『アーケイン・プロキシ』を広域に飛ばすことはできますが、飛行速度がコハクさんに及ぶことは難しいでしょう。
…わたしは、いつソロに戻っても良いように、アーケイン・プロキシを赤黄青の汎用構築にしていましたが、そろそろ覚悟を決めるときでしょうか。
幸いなことに、セルヴィーノ家からの圧力や、露骨な接触はありません。
わたし、アザレア・セルヴィーノに夢はありませんが、コハクさんの夢を追いかける手助けをするため、力の限りを振るいましょう。
ノクサラが、スケルトンの頭蓋骨を踏み砕き、第二一区画は一掃できました。
ボス級との再戦が叶わず、肩透かしな状況ではありますが、色々と準備をするための時間をもらわなければなりません。
…急なお休みを提案するのは、緊張しますね。
「あのぉ〜、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
「実は明日、お休みをしたいと思いまして」
「わかりました。じゃあ明日はお休みして、明後日から冒険を再開しましょうか!」
「了解」
「助かります」
わたしが急なお休みを提案しても、コハクさんはその理由を尋ねてこない。あれこれと踏み込んでこないのが、彼女の素晴らしいところです。
ゲートが悪い勤め先かと問われれば、そんなことはないのだが、お喋りな方々から色々と尋ねられるのは面倒でした。
ですがきっと、わたしの事情や家系をコハクさんが知ったとて、関係が変わることはないのでしょう。
なんとなく、そういう確信が持てる方です。
「コハクさん。わたし、パワーアップしてきますね」
「パワーアップですか!?」
「楽しみにしててください」
「わかりました!…というか一日でいいんですか?必要なら数日くらいのお休みでも問題ないですよ?」
「閂区画に行かないなら、アタシとコハクの二人っきりでもいいしな、くくっ」
「二人っきりになんてさせません。アーケイン・プロキシを新調するわけではありませんから、一日で十分ですよ」
「それじゃあ、パワーアップを楽しみにしてますね!」
「はい」
コハクさんの可愛らしい笑顔を脳裏に焼き付け、わたしはアーケイン・プロキシの調整案を組み立てていく。
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