21話 廃城塞の陽炎 3
私は急いで矢に駆け寄ってみる。
地面から出ている部分だけで、長さ二バシスと私の身長を軽々と超える大きさだ。
刺さっている角度から、この矢を射った相手の場所を探ってみると、区画の道をずっと進んだ先に大鎧をまとったなにかが、いるようにも思える。
その大鎧は、夏場に揺らめく陽炎のようでいて、追いかけても届かない逃げ水みたく、実体のない相手なのだと認識を刷り込んでくる。
「…そんなわけはないでしょ。矢は刺さってるんだし」
頭の中に広がっていく妙な感覚を振り払い、地面に突き刺さった矢を引き抜く。
鏃から筈巻までの長さは二五〇バシコン弱で、矢というよりは長槍のような印象を受ける。
鏃は金属製で、黒い色をしているため、黒鉄製だろうか。
こんな槍みたいな矢を射掛けるなんて、とんでもない大きさの弓と、それを扱うだけの巨大な身体が必要なはず。
この区画の相手は、大鎧を纏った巨大なスケルトンなのだろう。
私には二つの選択肢がある。
このまま尻尾を巻いて撤退するか、よくわからない相手に一人で挑むか、だ。
「…どうせなら、不明な相手を映像に収めちゃおうかな」
ファミリオグラフにウインクをした私は、建物の屋根に跳び乗って、大弓の射線を切りながら移動を開始する。
屋根という足場は、走るのに適していないだろう。
けれどこういった足場は、エラフォロスにとっては苦のない地形である。
木々の生い茂り、石の転がる山肌を駆け回ってきた私からすれば、なんの問題もない。
廃屋の屋根を駆け抜けていくと、大鎧のモンスターがいたと思われる場所で建物が粉砕される。
敵の攻撃が来たのだと判断した私は、即座に進行方向をズラして射線から逃れた。
すると、槍のような矢が私の横を抜けていく。
…反応がわずかに遅れていれば、身体に大きな風穴が空いていただろう。
建物で遮られて私が見ないはずなのに、確実な射撃で狙われている。
ならば屋根の上を進む理由もない。
私は、箙から矢を引き抜きながら大通りへと降り、相手が射撃してきたであろう場所を目指して進む。
距離が近づいて、相手をしっかりと視認できる距離にいるにも関わらず、その輪郭はぼんやりとしており、目が違和感を訴え続けてくる。
それでも、体格が三バシスから四バシスの巨体であることは認識でき、弓の大きさも体格と同等以上があることを確認できた。
「今までのスケルトンと同じなら、首を打ち抜ければ頭は落とせるはずだけど…」
大鎧は全身を覆っており、首骨を打ち抜くのは難しそうだ。
蹄で地面を掻きながら進んでいくと、大鎧のモンスターは弓に矢を番えて、私に狙いを定める。
距離を詰めていけばいくほど、矢の着弾までの時間が短くなり、避けるのは難しくなる。
…だが、あの大弓で小回りを利かせるのは難しいはずだ。
私は、進行方向に斜めの移動を加えて、狙いを左右に振らせることで時間稼ぎと、射撃への妨害を繰り返す。
そして何度か左右への斜め移動を行なった後、『私ならここで射つ』というタイミングで、以前に使った加速移動を試してみる。
高く跳ぶ際の勢いを、全て前方に向ける捨て身の加速で、失敗すればただじゃ済まない。
しかし今の私には必要な技だ。
「っ!」
着地に失敗しそうになったものの、私の予想は正しかったようで、相手の矢は尻尾の先を掠めた程度の被害に収めた。
もつれそうになる足を整え、勢いを殺さずに次の跳躍をした私は、空中で身体を捻って廃屋の壁を蹴り、大鎧のモンスターまでの距離を大きく縮めることに成功した。
「一方的な攻撃って、面白くないものだねっ!」
短弓に矢を番え、相手の頭部に向かって放ってみたものの、頭鎧を貫通することはできず弾かれてしまうのみ。
だが、その一撃の影響か、大鎧のモンスターを覆っていた陽炎が和らぎ、私は相手の全貌を捉えた。
全長は三六〇バシコン。
身体を覆う大鎧は炎を象った意匠が凝らしてあり、頭鎧は猪を模した構造をしている。
手に握られている大弓は四バシス以上の大物で、背中には薙刀のような長巻きまで背負っており、今まで戦ってきたスケルトンとの格の違いが表されているようだ。
「ボス級、かな?」
相手の姿と、相手の武器は映像に収められた。私の仕事としては十分だろう。
けれど、私の血が騒ぐ。
プライム・ヴァーダントトードのときも、エリート・スケルトン・キャバルリーのときもそうだ。
強そうな相手と対峙すると勝ち気が表面化してしまうのは、私の性であり、私の悪癖なのだろう。
私は弓を固く握りしめ、二の矢を構えながら足を動かし、大鎧のモンスターと対峙する。
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