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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
パラデイソポリスの迷い鹿

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3話 山林エリア 3

( 落ち葉が積もり、木々の枝が伸びる山肌を私は駆け上がる。ここの地形は榾火の山みたいで、足の馴染みが本当にいい。

 瞬く間に一〇〇バシス(100メートル)を駆け上がると、前方からいくつもの足音が耳に届き、いくつかの人影が視界に入る。


「何か…大丈夫ですか?!」

「ヒッポフォロスの子供!?」

「逃げろ逃げろ!!厄介なのに追いかけられてるんだ!!」

「危ない状況なんで逃げてください!!」


 人間種アントロポス系の冒険者三人は必死の形相で走りながら、私に退避を促す。

 それほどに危険な相手なのか、それとも私が頼りないと思われたのか。


 エラフォロスは、二足種族と比較し反転行動が苦手だ。彼らの言う通り、厄介な相手がいるというのなら逃げられるように準備をしておきたい。

 けれどそれでは、私が攻撃をするチャンスが失われてしまう。


 相反する考えがぶつかり合っていると、山林の木々を吹き飛ばしながら、体高二バシス(2メートル)、体長三バシス(3メートル)以上を誇る巨躯の大猪が姿を現した。


「なんですかアレ!!?」

「アイツはペトロボア!どっかの馬鹿冒険者がこっちのエリアまで誘っちまったみたいだ!」

「強いのですか!?強そうですけど!!」

「一つエリアを跨いだ向こう側のモンスターだ!!」


 その大猪ペトロボアは、全身に岩のような鎧を纏った風貌で、立ちはだかる木々などものともしない強靭な体躯を誇り、暴風雨のように突き進む存在だった。


 私は大急ぎで回頭をし、冒険者たちと並走できるように速度を調整する。


「猪の恨みを買うことでもしました?」

「してないしてない、山登った先のエリアで狩りをしてたら、いきなり襲いかかってきたんだ!」

「さっきも言ったが、ペトロボアは一つ跨いだ先のモンスターだ!本来はこんなところに来ないんだよ!」

「どこの誰か知らんが、こんなの誘引しやがって!!」


 この冒険者たちだけが狙いではない可能性がある。

 ルーシッド・エデンで山の道理が通じるかはわからないけど、猪は必要以上に人を襲うことはない。

 …農作物は漁るけど。

 この冒険者たちが何もしていないのなら、あれは気の立った猪だ。ここで逃げきっても、他の冒険者たちに被害が出るかもしれない。


「全員で同じ方向に逃げるのは悪手だと思うので、タイミングを見計らって散らばりませんか?私が矢を射掛けて気を引いてみますから、逃げられた人は休憩して戦いに備えてください」

「倒すってのか!?」

「倒さないと、他の人にも被害が出そうじゃないですか」

「それもそうか…」

「やるしかねえよ!」

「わかりましたよ!!」

「では、あの大きな木を目印にしましょう!」


 三人の冒険者は短く返事をし、力を振り絞って足を進めており、そんな姿を横目に、弓に矢を番えながら上半身だけを後ろに向ける。


 この体勢、上半身が捻れてちょっと呼吸が苦しいけれど、一射くらいなら問題ない。

 ペトロボアは大きいから、精密に狙う必要もないし、―――今だ!


 放たれた矢はペトロボアに向かってまっすぐ進み、大きな牙へと命中したものの、簡単に弾たかれた。

 しかし、弾かれ威力を失った矢は、ペトロボアの目蓋を軽く小突いていき、相手に苛立ちを募らせたようだ。

 黒い瞳は確かに私の方へと向いた気がして、背筋を冷や汗が伝っていく。

 あんな大きな猪に狙われて逃げることができるのか、不安が胸に積もっていくが、ここで投げ出したら何もつかめない気がした。


 前に向き直れば、大木まではあと少し。

 彼らには休んでもらって、私がペトロボアと持久力勝負をしよう。

 戦いはそれからだ。


「皆さん、散ってください!!」


 私は冒険者たちに指示を出しながら速度を緩め、足元の落ち葉を後ろ足で高く掻き上げてから、緩やかに方向を変える。


 大木を砕いたペトロボアは、狙い通りに私を狙い始めた。


―――


 白い“ヒッポフォロスの子供”が、ペトロボアの囮を買って斜面を登っていく。

 どう見ても、未成年の子供に大役を任せてしまったことに、罪悪感を抱かずにいられないが、俺たちには呼吸を整え、戦いに備える時間が必要だ。


 不意打ちを受けて二人が退出させられてしまったから、戦力はほぼ半減している状況だが、こんなところまで連れてきてしまった責任は取らなければならない。


「魔力は回復したか?」

「多少は。…はぁ、どちらかといえば、呼吸を整えて、集中力を取り戻したいです…ふぅ」

「この後はどうする?」

「ペトロボアを狩る以外あるか?」

「ねえよな」


 剣士、盾持ち、魔法使い。

 最低限の体裁は保ったパーティではあるが、本調子には程遠い。

 ヒッポフォロスの子供は弓を使っていたが、決定打はないだろう。


「彼女は、俺たちに休憩の時間を用意すると言っていた。それならばペトロボアも疲弊している可能性がある」

「んじゃ、いつも通りに。俺が盾で抑えて、お前たちでタコ殴りにする感じか。…やれっかなぁ、いや、やるしかねえんだが」

「やれるだけのことをしましょう」

「おう!」


 俺たちは水分補給をしながら息を整え、木々を破壊しながら山林を走り抜けるペトロボアと、軽い足運びで逃げ回る“ヒッポフォロスの子供”に視線を注いだ。)

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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