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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
烏銀に映るもの

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19話 罠 2

 コハクの真っ白な髪が風で揺れる。

 極上の絹糸のような柔らかな髪に触れたこと、そしてその手触りを思い出す。


 五つも年下の女の子(コハク)の反応に一喜一憂する今のアタシを、一昔前のアタシが見たら、どう思うんだろうか。

 …呆れて酒浸りになりそうだな。


「怒ったり、軽蔑したり、しないのか?」

「私は、ノクサラさんとアザレアさんに多くのことを教えてもらっている立場ですし、私自身もお二人と一緒にいたいって考えているんです。でも、大きな決断をするときは、しっかりと説明とか相談をしてほしいですね」

「そうする。…その、罠にかけるような真似をして、悪かったな」

「大丈夫ですよ」


 アタシは、アタシのことを全て打ち明けられるような人間じゃない。

 シュトラーレンゾンネのことも、家族のこともわだかまりが残ってるし、解決の目処はたってない。

 …だけどいつか、アタシの全部をコハクに知ってもらえるような、ノクサラ・シュタールになりたい。


「えへへ、それにしても意外でした。まさかノクサラさんが私と離れるのを寂しがって、こんなことをしてくるんですから」

「う、うるせぇよ…。いいだろ、別に」

「全然いいですよ!私の夢を叶えるまでは、一緒にいてもらうつもりなんで!」

「あっそ。…うっ、なんだよ」


 顔を見られているのが恥ずかしくなり、手を覆ってしまおうとしたのだが、コハクはそれを妨げるように手首を握って離さない。

 …なんか、思ったより力があるな。


「綺麗な瞳が見えなくなっちゃうじゃないですか。隠すの禁止です」

「はっ、なら目蓋まぶたを閉じてやるわ!」

「あーあ…」


 がっかりとした声色が耳に伝わってくるが、コハクの表情は笑顔なのだと確信を持てる。


「アタシもクランのライバーとして活躍して、祖父さんや親父を超えられるようになりたがった。その目標はまだ燻っているが……、まぁ今後はコハクのプロデュースをメインにしていこうと思うんだ」

「え?」

「前にコハクが言ったろ『私だけを見ていてください』って。だから、コハクがライバーとして活躍できるよう、裏方兼パーティメンバーで頑張ろうと考えたんだ」


 コハクは、アタシの提案を受け入れてくれる。

 そう思って目蓋を持ち上げてみると、コハクの眉間にシワが刻まれており、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。


―――


 私、恋白はノクサラさんの発言に腹が立った。

 それは、クランに所属できないよう誘導されたことではない。


「『私だけを見ていてください』と言ったのは、ノクサラさんを心ない言葉から守るためであり、私の見栄です。…それを、ノクサラさんが夢を諦めるための口実にされるのは嫌です」

「いやでも…」

「でも、じゃありません。なんで私の夢のために、ノクサラさんが夢を諦めないといけないんですか」

「一本に集中したほうが効率がいいし…」

「効率的かもしれませんが、誰かを理由に夢を諦めるのは、ノクサラさん自身にとっても無責任ですよ。……正直、軽蔑しちゃいます、その程度の人だったんだなって」


 私にとって夢は歩くための源で、故郷から離れて暮らすことすら厭わないほどの力だ。

 誰しもがそうとは限らないが、私を理由に諦めて欲しくない。


「なんで夢を諦めたくなったのか、本当の理由を教えてもらえますか?」

「……はぁ。祖父さん…初代『銀眼』も二代目『銀眼』も、両手に一本ずつ剣を持つ、双剣使いだ。けれどアタシは、剣を扱うのが得意じゃない、なんなら苦手で、色々模索して徒手空拳に辿り着いた」


 私の知る『銀眼』のシュタールは、剣を二刀流でモンスターと戦っていた。

 その姿が華やかで、戦っているというよりは、舞を踊っていると錯覚するほどだったのだ。


「けど、しっかりとした拳法でもない、喧嘩殺法みたいな戦い方で野蛮だの暴力的だの言われるようになって、……祖父さんたちの顔に泥を塗りたくなくってクランを抜けたんだ」

「もしかして、私の映像に悪評がつかないようにっていう配慮なんですか?」

「それもあるし、アタシ的にはコハクを見てほしいってのもある。…言い訳に使っちまったのは悪いと思ってるが、それだけ大切な言葉なんだと思ってくれ」


 ノクサラさんは、弱々しい雰囲気を纏いながら萎んでしまった。

 私のことをプロデュースしてくれるのは嬉しいことだし、彼女の選択を無碍にするのは良くないことだけど。


「一緒に、カッコいいライバー冒険者になりませんか?」

「だから悪評が」

「そんなの気にしないで、私だけを見ていてください。もしも悪評がつくことで、回り道になってしまうんだというのなら、そんなの今更すぎて笑えてきます。…うーーんと遠回りをしてでも、一緒に夢を叶えてみませんか?」


 私はノクサラさんの手を握り、銀の瞳を覗き込む。

 近道がどこにもないのなら、三人で遠回りをしよう。


「バカが…」


 今の悪態は、きっと肯定だ。

 握り返された手に熱が灯っており、私を見下ろす瞳には力が宿っている。

 私は夢を追ってパラデイソポリスにやってきたのだから、ノクサラさんにだけ諦めさせるわけにはいかないし、アザレアさんに夢があるのなら諦めてほしくない。

 『アローズ』は、自分たちの夢を射抜けるパーティにしたい。


「頑張りましょうか!」

「うっさ」

「いいんですか、そんなことを言っちゃって。…とりあえず明日は、ノクサラさんとアザレアさんのお説教からですね」

「マジか…」

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