18話 閂区画 5
「いやはや、強敵でしたね〜」
「…まだ、余裕のある相手だとわたしは思います」
「どういうことでしょうか?」
スケルトン・キャバルリーとの戦闘が終わり、安易な感想を呟いた私は、アザレアさんに疑問を投げかける。
「いてて…相手の耐久が低かったからだろ?」
「はい」
攻撃の勢いで吹き飛んでいたノクサラさんは、身体の汚れを落としながら戻ってくる。
「耐久ですか?…どちらも頭蓋骨を砕くことで倒せたようですが、それはスケルトン特有の…あー」
「わかったか?」
「はい。頭を潰せばそのまま倒せる相手だから、ボス級モンスターじゃないってことですよね?」
「そういうこった」
私が冒険者証明書を取り出し、討伐記録を確認してみれば、『エリート・スケルトン・キャバルリー』となっていた。
「ちょい強な個体ってこった。閂を掛けられてる部屋は、こういったエリートやボス級がいるってことだろうな」
「なるほど。…数が多くなってきたら大変そうですね」
「なんだ泣き言でも言いたくなったか?」
「そんなんじゃないんですけど…今回は勝手に動いて、この為体といいますか」
ノクサラさんとアザレアさんが手を差し伸べてくれたのだが、左後ろ足が完全に動かなくなってしまった。
魔導体のおかげで痛みが既にないのが救いだ。
「戦闘中のコハクって本能に身を任せまくってるよな」
「お恥ずかしい限りです」
「別に責めてるわけじゃない。今回の戦闘を振り返れば、アザレアの魔力がかなり節約できた」
「もともと戦闘続きで残存魔力量は気になっていましたし、持久戦になっていたら、もっと大変だった可能性はありますね」
「そういうことだ。選択自体は間違っちゃいない、…まあ今回の反省を活かすなら、アタシたちの近くまで相手を寄せるべきだったな」
「はいっ」
私たちは、お互いに歩幅が違う。
他者を補い合うだけがパーティではない。と理解を一つ進めることができた。
「その…手を差し伸べてもらっているところ悪いんですけど、身体を起こせなくなっちゃってまして」
左後ろ足が動かないことを説明すると、お二人は私の身体を持ち上げてくれた。
…一人でこの状況になったら、どうしたらいいのだろうか?
―――
小屋に戻る最中、ノクサラさんは私を見ながら首を傾げていた。
「今更なんだけど、エラフォロス自体がコハクみたいに動けるのか?」
「それ気になってました。コハクさんって、二足種族や他の四足獣人と比べても運動神経抜群ですよね」
「私は走って、ジャンプして、弓を扱うことなら、榾火村でも一番でしたよ。叔母さんからも『何も教えることないわ』と免許皆伝を貰いましたから。…まあでも、宙返りとかしているエラフォロスは、他に見たことがありませんね」
小さい頃に、面白がって後ろ宙返りをしたところ、温厚な祖父ちゃんがものすごい剣幕で怒ってきた。
「そもそも、二足種族ですらバックフリップは難しいのに、なんでエラフォロスができるんだよって話だもんな」
「ノクサラさんはできないんですか?」
「はっ!?できるが???」
「無理しないほうがいいですよ、ノクサラ。武技使って吹き飛んでいたではありませんか」
「あのくらい何でもねえっての!」
どうやら失言だったらしい。
腕と脚の鎧を外したノクサラさんは、『見てろよ!』と私たちに釘を刺し、その場で後ろ宙返りを成功させた。
私と比べて大きな身体が空中をぐるりと回る姿は、息を呑むほどの迫力があり、ノクサラさんがしっかりと鍛えられていることを理解できる。
「おお!」
「うまくいったぁ…。ふぅ、これくらい余裕だっての。つーかなんでコハクができるんだよ…」
「山で鍛えられたんですよ、きっと。暇さえあれば山で駆け回って遊んでましたから!」
「そういうもんかね」
「私にはわかりませんけどね。えへへ」
私は、自然の中で身体を動かすことが好きだ
「いつか一区切りをつけられるときが来て、お金が貯まっていたら、榾火村や郷守様に顔見せするのも良いかもしれません」
「往復は、どれくらいの日数が必要なのですか?」
「村から港までが五日で、明蝉国からパラデイソポリスまでが三〇日だったんで、まぁ…七〇日くらいでしょうか?」
「うわぁ…」
「マジか…」
「気軽には戻れないんですよね」
遊び回った故郷の山々は、もう遠く彼方だ。
もしものための片道分の船賃は残っている。
ただ、あくまで片道の船賃であり、同額を榾火村で稼ぐのは難しく、再びパラデイソポリスに戻ることは叶わない。
私が今、パラデイソポリスにいるのは人生で一度きりのチャンスだ。
だから榾火村に戻るのは、ライバー冒険者として活躍し、十分にお金が稼げるようになってからで、まだまだ先の話だ。
「片道で一〇〇万カルタもするんですよ」
お二人は絶妙な表情で、ただ遠くを見つめていた。
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