18話 閂区画 4
臨戦態勢の私たちが、スケルトン・キャバルリーとの距離を詰めていくと、一定の距離で反応を見せた。
それと同時に私は走り出し、鏑矢を射掛けて戦いの火蓋を落とす。
ヒォロロォォォ。と飛んでいった鏑矢に頭を向けたスケルトンだが、槍を高く掲げた後に私目掛けて走り出した。
スケルトン・キャバルリーの速力は、私よりもいくらか速いようで、時間が経てば追いつかれてしまう。
振り向きながらの奔射をしたところで妨害としては力不足であり、私の速度も落ちるので、得策とはいいがたい。
私一人なら相性が悪いと諦めていたかもしれないけど。
「フローズンブルワーク!!」
私は魔法の名前を叫ぶ。
けれどそれは詠唱じゃない。
アザレアさんに借りたベルトに納められているアーケイン・プロキシに光が宿る。
予定とはちょっと違うけど、直感が『できる』と告げていた。
逃げるために生成されるはずだったフローズンブルワーク。それに足を掛けてみれば、私の身体を持ち上げられる。
下から身体を押し上げられる勢いの中、弓に矢を番えた私は、回転する世界の中で相手の背骨を狙う。
「捉え、駆けろ『征空矢』!!」
征空矢は下を向けば向くほどに速くなるから、垂直に射ち下ろす瞬間が一番速い。
弦から指を離した。そう感じた瞬間、矢は既にスケルトンの背骨を貫通していき、全身が砕けるように分解されていった。
―――
アタシ、ノクサラ…いやアタシとアザレアは、フローズンブルワークを足掛かりに高所で後ろ宙返りをするコハクに目を奪われていた。
本来の作戦はコハクとスケルトン・キャバルリーの間に壁を作り、距離を維持しながら首を射抜くというもの。
コハクのことだから、アタシたちを騙していたわけではないんだろう。
この状況においての最善手をコハクは一瞬で見つけ出し、一切の躊躇なく実行しただけ。
自然と怒りはない。
…ただ、時折見せるイカれた身体能力と、向こう見ずな思い切りの良さに、アタシは胸に残っていた炭に火をつけられるような、…祖父さんや親父に抱いていた感情を思い起こさせられた。
「ハッ、勝手な判断で動きやがって!」
「合わせにいきましょうか」
「だな」
コハクに引っ張られるように、アタシたちは走り出す。
自分だけの道を一人だけで進もうとしていた、あの時にはもう帰れない気がしたが、もう戻る必要もないのかもしれない。
だからアタシは、伝えなくちゃいけないんだ。
―――
「うぐっ!」
私、恋白は着地時に伝わる強烈な痛みを我慢し、足を止めないように走り出す。
走れている以上、骨が折れていない。そう言い聞かせながら、地面に転がっていたスケルトンの頭を蹴飛ばし、ノクサラさんに対処を任せる。
「ノクサラさん!」
「任せろ!」
ぐるりと頭を回し、残ったスケルトン・ホースを確認すれば、高く前足を上げながら嘶いているように見える。
…ただ、スケルトンということで、その嘶き自体を聞くことはない。
スケルトンの前足が地面を叩けば、その振動が私の蹄にまで届き、空っぽの眼窩は私を睨みつけているかのようだった。
視線を前に戻し、射撃の準備を行うと、後方からカカンカカンと蹄鉄が地面に打ち付けられる音が響く。
「…?」
私は蹄鉄の音が迫りくる速度に疑問を覚えた。
先ほどのスケルトン・キャバルリーとして戦った時よりも圧倒的に速く、今すぐにでも追いつかれてしまいそうなのだ。
恐る恐る振り返ってみると、私ではどうにもできない速度で猛進しており、体毛が逆立つほどの恐怖があった。
「ひぃ!?フローズンブルワーク、フローズンブルワークお願いしますっ!!」
「はい!『フローズンブルワーク』!」
全速力で駆け出し、後方に迫りくるスケルトン・ホースとの間に氷の壁を作り出してもらった私は、速度を落としながら回頭し、弓を構える。
流石に壁があれば迂回してくるはず、そこを狙って首骨を射つ。
「コハクー!上!!」
「―――えっ?」
目の前にあるのは高さ四バシスの壁。
ノクサラさんの声を頼りに視線を上げてみれば、青空を背負ったスケルトン・ホースがおり、私を目掛けて落下してきていた。
「ひぃぃ!!――――うげッ!?」
大急ぎでその場を離れようと、スケルトン・ホースの下を潜り抜けるように駆け出した私は、相手の踏み潰しを紙一重で躱すことができた。
しかしながら着地と同時に繰り出された、相手の後ろ蹴りが臀部に命中し、氷の壁に叩きつけられてしまう。
身体がうまく動かせないものの、退出させられていないことを考えると、私はまだ戦えるらしい。
それでも立ち上がることができない状態では、次の一撃の対処は不可能だ。
戦いというのは一筋縄ではいかないようだ。
地面に横たわりながら弓に矢を番えてみるも、こういった体勢で使う武器ではないので、狙いをうまく定めることはできずにいた。
「しくじちゃった…かな」
矢を放ってしまおうとした瞬間、私の後ろに展開されていた氷の壁が消え去って、ノクサラさんが姿を見せる。
「カエルん時の借りは返させてもらうぞ。『ヴァッサーシュピーゲル』!」
両腕を交差させ、守りの構えをしたノクサラさんは、私とスケルトン・ホースの間に立ちはだかり、突進を受け流して見せた。
ノクサラさんに受け流されたスケルトン・ホースは、強烈な勢いのままバランスを崩し、地面を二度三度転がってから体勢を整える。
「『ライトニングストライク』!」
すかさずアザレアさんが追撃をしたのだが、雷魔法は効果が薄いらしく、スケルトン・ホースは軽く首を振るうのみ。
「やっぱり効きませんね…」
「アザレアさん、アーケイン・プロキシを」
「かしこまりました」
ベルトの固定具を外すと、青いアーケイン・プロキシは宙に浮いていき、アザレアさんの手に戻る。
「どうしますか、ノクサラ?」
「今すぐにフローズンフィールドを展開して、相手の機動力を奪え。後はアタシが何とかしてみせる」
「承知しました」
アザレアさんは地面を凍らせる魔法『フローズンフィールド』を使用し、相手の進行を阻害する。
けれど、あのスケルトン・ホースなら跳び越えかねない。
私は上半身を無理矢理に起こし、息の詰まりそうな体勢で弓を構えた。
スケルトン・ホースが走り出せば、アザレアさんが氷の壁をいくつか展開し、突進の方向を制限する。
確実にノクサラさんと戦えるように。
そういった行動の制限は、私にとっても有利に働く。
相手の動きを予想して、ノクサラさんの邪魔にならないように矢を放った。
首骨の隙間に鏃を差し込めば、異音とともにスケルトン・ホースの首が動きを止め、ノクサラさんが振るう拳の軌道線上に固定される。
『シュトゥルツフルート』と武技の名を叫べば、ノクサラさんの拳は凄まじい速さで相手の頭蓋骨を砕き、彼女自身も勢いのまま吹き飛ばされていった。
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