18話 閂区画 2
第二区画にてスケルトンの群れの対処を終えたので、私は高所に移動してから周囲を探る。
前区画と同じように第二波があるのなら、スケルトンの位置を把握しておきたいところ。
予想通りというべきか、第一波に反応しなかったスケルトンが区画内に点在している。
視認できる数は五体そこらなのだが、建物が多い影響で死角は多く、三〇体前後はいるのだろう。
スケルトンを呼び寄せるための道順を考えていると、ヒュンと風を切る音が聞こえ、足元の石レンガに朽ちた矢が当たって砕ける。
「えっ?」
私は驚きながらも、破片の飛び散った方向から射線を考えて、視線を向ける。
すると、革鎧を身に纏い、手に長弓を携えたスケルトンが物陰から姿を見せており、次の矢を番えようとしているではないか。
大急ぎで移動したところだが、足元の石レンガは安定性にやや欠けるところがあり、下手を打てば足手まといになってしまう。
スケルトン・アーチャーとの距離は…四〇バシスほどあり、私を狙う腕はプルプルと震えている。
距離と腕の不安定さから考えれば、さっきの射撃はまぐれであってほしいが、賭けるには分が悪い気がした。
私は箙から矢を引き抜き、“スケルトンを狙わずに”上方へと矢先を向けながら、弦を引く。
風向きも風速も大した影響はないから、向きと角度だけ調整すれば十分。
「捉え、駆けろ『征空矢』」
武技『征空矢』は普段と変わらない挙動で高度を上げていく。
しかし、ある条件を満たした瞬間、様相を一気に変え、強力な加速力を得て、スケルトンへと向かった。
条件は落下。
征空矢は高所から低所に向かう際、目にも留まらぬ速さで進んでいく武技なのだ。
その加速は落下する角度によって変わるのだが、垂直に落ちていく際が最大で、水平に近い挙動では微々たる加速しか生まない。
山なりの頂点を越えた征空矢は、目にも留まらぬ強烈な加速で落ちていき、私の狙い通りにスケルトン・アーチャーの首を貫いた。
カタカタ。カタカタカタ。というスケルトンの顎骨の音が第二区画で響き渡り、第二波の始まりだ。
「ノクサラさん!アザレアさん!次が来ます!」
「了解」
「それとスケルトン・アーチャーがいました!長弓持ちで射程が長そうなので、注意が必要かもしれません!」
「あー、シバいたから戦闘が始まった感じ?」
「はい、独断で動いちゃってすみません」
「いいよいいよ。上手い感じに射線切りつつ、対処できたら対処してくれ」
「はーい」
物陰から私を狙ってくる相手がいないかを確認しつつ、スケルトンを射ち下ろせる位置に移動していく。
―――
スケルトン・ウォリアーを十五体ほど討伐し、残りは半分程度。
頭蓋骨を潰す以外の解決策は依然としてない。
しかし、首骨を破壊することで身体が一定時間動かなくなる上、弱点たる頭蓋骨が地面を転がるので、初戦ほどの慌ただしさも苦労もない。
油断できない相手ではあるものの、スケルトン・アーチャーへの警戒ができる程度には余裕が生まれている。
ノクサラさんに向かっていくスケルトン・ウォリアーの首を破壊しつつ、周囲を一度見回してみると、首の座りが悪そうなスケルトン・アーチャーを発見した。
それは歩く度に首が揺れ、今にも落ちそうになっては頭を支え直しており、首骨を注視すれば砕かれた跡がある。
先ほど首を破壊したスケルトン・アーチャーだ。
相手はゆっくりと歩みを進め、近づきすぎない距離に立つと、弓を構えて矢を番える。
不安定な頭は、あらぬ方向を向いてしまっているが、矢先は私の方へと向いており、凹んだ眼窩でこちらを見ているわけではないらしい。
「アザレアさん、氷の壁をお願いできますか?」
「かしこまりました」
「ありがとうございます」
アザレアさんのフローズンブルワークで遮蔽物を作ってもらい、スケルトン・ウォリアーの対処を優先していく。
二体ほどの処理を終えると、フローズンブルワークに矢が命中し、矢が砕け散っていく音が聞こえる。
音の位置から考えると、やはり命中精度に難があるらしい。
それでも複数体が同時に現れることもあるだろうから、優先的に対処する選択肢も視野に入れたい。
その後、確実にスケルトン・ウォリアーを討伐していき、ノクサラさんに残りをお任せできるようになってから、私はフローズンブルワークの影から飛び出す。
狙いはもちろん、スケルトン・アーチャーだ。
相手は射線を通せるように移動をしており、少し動いただけでも姿を確認できた。
道中、地面に落ちていた矢を一本拾い上げ、走りながら狙いを定める。
長弓は長距離を狙えるけど、取り回しが悪いし、弦を引くにも時間と力が必要だ。
距離を詰めてしまえば、小回りの利く短弓のほうが有利。
狙いを定めさせないように、ジグザグな軌道を描いて進むと、スケルトン・アーチャーの矢は私を捉えることが出来ず、廃屋の壁に命中して砕け散る。
走りながらでも、細い首骨を狙える間合いに入った私は、一切の躊躇なく矢を放ち、一度砕けた首骨を再度破壊した。
首から再び離れてしなった頭蓋骨が地面に当たると、微細なヒビがクモの巣のように広がるのだが、それでも消滅する兆しは見られない。
頭がなくなり、動きのなくなった身体。その横を通り抜けた私は、見上げてくる頭蓋骨を両前足で踏み潰し、スケルトン・アーチャーを討伐した。
「よしっ!」
ノクサラさんとアザレアさんの方へと振り返れば、あちらも戦闘を終えたようだ。
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