16話 廃城塞エリア 2
「ところでノクサラさん」
「…なんだよ」
「髪を整えたんですね。身綺麗なノクサラさんは素敵ですよ」
「うるせーよ」
ノクサラさんは顔を背けてしまうが、こういった態度にも慣れてきた。意外とノクサラさんは恥ずかしがり屋さんなのだ。
「コハクさん、なんとですね、映像の編集が終わりましたよ〜」
「おぉ!お疲れさまです!」
「ありがとうございます。お昼に戻ってきたら、三人で確認しましょうか」
「はい!」
「編集は大変だったか?」
「ええ、普段は行わない作業でしたので、少しばかり」
「悪いな、任せちまって」
「いえいえ、魔導具の扱いには慣れていますので。一応ですが、人気上位のパーティを参考にしつつの編集ですので、ダメだしがあったらお願いします」
「おう。…偉いこと言える立場でもないがな」
私たちの活躍が映像となって残った。それだけでも心が躍り出すのに、編集という形で手が加わり、世間で流行っている姿に変化しているらしい。
「アザレアさん」
「なんでしょう?」
「ありがとうございますっ」
「お安い御用ですよ」
私はヒッポフォロス用の椅子を降り、お二人と一緒にゲートを潜る。
―――
私たちが小屋を出ると、そこは巨大な城塞の入り口だ。
段丘湿地エリアを彷徨った私たちは、先のエリアに向かうために五日間を要しており、ようやく次に進むことができる。
…小屋の場所から次のエリアまでの道が非常に遠く、二度の探索で最短ルートは見つけたが、それでも早朝から潜り、戻る頃には日が落ちていた。
「ここはエリア四一、廃城塞。親切なことにエリアの入り口に出入小屋があるタイプの、めんどーい場所だ」
「面倒なんですか?」
「広いし、入り組んでそうだからな」
「なるほど」
エリア一から円状に広がるエリアは、遠くなれば遠くなるほどにモンスターが強くなり、そのエリア自体も高台になっていくらしい。
現在は第四円。先の段丘湿地よりも広いとなれば、探索も大変になるだろう。
「軽く情報を眺めてきましたけど、右隣のエリア三二の隣接地点にある小屋から踏破報酬を受け取ったのみで、内部の情報はありませんでした」
「事前に調べてきてくれたんですね、ありがとうございます」
「いえいえ」
アザレアさんは嬉しそうに手を振る。
「じゃあ実質的には未知のエリアってことですね!」
「なんで嬉しそうなんだよ…」
「自分たちで探索して進む方が面白くないですか?」
「そういうもんかね」
ノクサラさんは『まいっか』と呟き、廃城塞の大きな門を進んでいく。
数歩進んだ先で現れたのは、戦斧と盾を手に持った鎧姿の人。
アザレアさんの情報によれば、内部情報がないとのことだったけれど、どうやら冒険者さんはいるらしい。
「あっちに冒険者さんがいますし、ちょっと寄り道してモンスターを倒します?」
「まあそうすっか」
私たちが方向を変えようとした時、冒険者さんがこちらを向くと、頭鎧の内側には頭部が存在せず、黄ばんだ色合いのしゃれこうべが収まっている。
目が合った。というのもおかしな話だが、空洞の眼窩がこちらを見つめているようで、私の心から熱が奪われていく。
…なにかの見間違いかと思い、二度ほど瞬きをしたのだが、こちらを見つめているしゃれこうべは、カタカタと顎骨を鳴らして走り出した。
「の、ノクサラさん!アザレアさん!冒険者じゃないです、あの人!しゃれこうべです、しゃれこうべ!」
鹿体の毛を逆立てながら呼びかけると、ノクサラさんはため息を吐き出し、アザレアさんは眉間を寄せてしわを露わにしていた。
「チッ、鎧付きスケルトンかよ」
「ちょっと厄介な相手ですね」
お二人は得物を構えて、しゃれこうべを迎え撃つらしい。
「え?!相手は死者ですよ!?攻撃しちゃっていいんですか??」
「スケルトンは骨のモンスターだし、…そもそもルーシッド・エデンじゃ人は死なねえだろ?」
「………あー、そうでした。取り乱してしまって、すみません」
死者は丁重に弔わなくてはならない。
そう思っていた私は、やや気が重くなりながらも弓を構える。
「スケルトンは頭蓋骨を砕くまでは動き続ける」
「その…彼らは魔法に耐性がありまして、わたしはあまり役に立てないと思います」
「なるほど」
じゃあ二人への指示は…。
「アザレアさんは数が多くなってきた場合に、氷の壁を形成し進行方向の制限、地面を凍らせての遅延をお願いします」
「かしこまりました」
「ノクサラさんは、アザレアさんの護衛をしつつ、頭蓋骨の破壊をお願いします」
「おう」
「私は動きながら敵の弱点を狙ってみます」
私はお二人からリーダーを任されている。
司令塔はノクサラさんがやってもいいと言っていたが、余裕のあるうちにできることをやっておきたい。
スケルトン。
どういう相手かはわからないけど、人型をしてるのなら頭が弱点だと思いたい。
「いきます!」
「おう」
「はい」
私はこちらへ向かってくるスケルトンに向かって走り出し、矢を頭蓋骨に命中させたのだが、倒せた感覚は一切なく、そのまま走り続けて来るではないか。
大急ぎでもう一本、二本と射ち続けるのだが、頭鎧の隙間を縫うように射った矢は、頭蓋骨へ確かに突き刺さっているのだが、ただ矢羽を揺らすばかりで手応えが感じられない。
振り回された戦斧を避けることはできた。
しかし安定して射撃できる間合いより内側に入られてしまい、私は跳躍をしながら距離をとる。
「特異性質が…効いていない?…うひっ?!」
エリア内を走っていると、建物の陰に複数のスケルトンが潜んでおり、私を確認すると動き出す。
カラカラと乾いた骨の音が響き渡り、ヤスリで心臓を撫でられるような不安感から、私はノクサラさんたちの方へと踵を返す。
「頭、全然効かないんですけど!?」
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