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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
烏銀に映るもの

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16話 廃城塞エリア 1

 祝勝会から五日の時が流れた。

 私、恋白こはくが自室のベッドを整えていると、祝勝会の夜を思い出す。


 先に眠っていた時のこと。目の前にノクサラさんが横たわったようで、私は目を覚ます。

 その際、ノクサラさんは泉に揺れる銀の月のような瞳で私を見つめて、とある言葉を漏らした。


『コハクはさ…クランに入る必要なんてねえよ。……アタシが、アタシとアザレアで目立てるライバー冒険者にしてやるから、…アタシたちと一緒にいてくれ』


 その弱々しさのある言葉を再び聞くことは、今のところない。

 もし、尋ねる言葉を吐き出してしまえば、関係が終わってしまいそうで、…精緻なガラス細工を触れてしまうことに、少しの躊躇を覚えた。


 出発の準備を終えた私は、胸元に着けている玉鈴の真珠飾りに一度触れてから部屋を出る。

 何にしても生活費を稼ぎながら、実績作りをしないとね。


―――


 アタシ、ノクサラが目を覚ますと、集合の時間まで少し余裕があった。


 決まった時間に集まり、コハクたちと多くはない日銭を稼ぐ。

 ここ数日で私の生活に刻まれたルーティンが、正しい生活リズムを構築し、自然と目が覚めるようになった。


 古巣である『シュトラーレンゾンネ』を辞めてしばらく。

 貯金を切り崩しながらの酒浸り生活は、もう終わってしまったらしい。

 いいことなんだろうな。


 …アタシは周囲が望んだ、祖父さんや親父みたいなライバーにはなれなかった。

 自分で戦い方を考えて、武技を発芽させたが、野蛮で粗野な戦闘スタイルだと周囲は言う。

 嘲る言葉が脳裏を駆け抜けていく中で、コハクが言ってくれた『カッコいい』『カッコよくなろう』が思い出される。

 おべんちゃらだったかもしれないあの言葉は、少しばかり私の荷を軽くしてくれた気がした。


 無愛想で、戦闘に華のないアタシだが、シュタール家の人間として培った知識は役立てることができるはずだ。

 …祝勝会で伝えてしまった言葉を、コハクが覚えているかはわからないが、アタシはアタシなりの道を進みたい。


「はぁ…たまには、身なりを整えてみるかな」


 鏡の前には、ボサボサの髪をしたアタシの姿がある。

 アントロポスの女の中でも異様に高い背丈で、筋肉も多めで可愛げなんて微塵もない。

 雑に髪を整えてみるとシュトラーレンゾンネに属していた頃を思い出し、その姿に辟易する。


 とはいえ選択肢も多くない。

 私は空き瓶の詰められた木箱を持ち上げて、部屋を振り返る。


「なんか…小綺麗になったもんだな」


―――


 私が第六ゲートのロビーで、ノクサラさんとアザレアさんを待っていると、見慣れない五人のアントロポスが私に視線を向けて歩いてくる。


「よっ、久しぶり」


 その中の一人が、手を挙げながら私に挨拶をしたのだが、どうにも覚えがない。


「どちら様でしょうか?」

「え!?いやほら、山林エリアでペトロボアと一緒に戦っただろ?」

「あ〜…、あの時の冒険者さんでしたか。お久しぶりです」


 初日に協力した冒険者さんたち。

 啄鎧矢きつつきを発芽させるきっかけとなった戦いであり、私にとって重要な初日を運んできてくれた人たちでもある。

 …結果的に別エリアにモンスターを誘ってしまったことは、あまり良いこととは言えないのだろうが、彼らからは悪意を感じることはなかった。


「あの後はご無事でしたか?」

「お嬢ちゃんの武技のおかげで、俺たちは無事だったぜ」

「そのお礼といいますか。少額にはなってしまいますが、僕たちが獲得したスコアを折半しようと探していたんです」

「そうだったんですか。これはご丁寧にどうも」


 他に被害がなかったのなら、私はあれこれ言うつもりはない。

 そして、渡された金額は一〇カルタ。

 わざわざこのために私を探してくれたのだから、彼らは非常に律儀な冒険者さんなのだろう。


「あの時、助けてくれてありがとうな、“エラフォロス”の冒険者どうぎょうしゃさん」

「どういたしまして」


 私たちが握手をしていると、冒険者さんたちの後ろから、ノクサラさんとアザレアさんが顔を見せる。


「…うちのコハクになんか用か?」

「え?」


 冒険者さんたちが振り返り、ノクサラさんを見ると少しばかり顔を引きつらせ、たじろいだ雰囲気を醸し出している。


「この方々は、初日に協力した冒険者さんたちで、私が受け取れなかったスコアを返還してくれたんです。悪い人じゃないですよ」

「あー、そうなの。悪かったな」

「何もなくて良かったです」


 ノクサラさんは同じアントロポスの男性よりも背丈が大きいらしく、彼らからしたら威圧感があったのだろう。

 …アザレアさんも一七五バシコン(175センチ)ほどの背丈があり、そこそこの身長のようだ。


 …ヒッポフォロスを見慣れている弊害だろうか。


「このお二人は、私とパーティを組んでくれている冒険者でして、色々と教えてもらっている最中なんですよ」

「そっか。あの時は一人だったし、いい感じのパーティが組めてて良かったよ。それじゃ、またルーシッド・エデン内で会ったらよろしくな」

「はい、またどこかでお会いしましょう」


 冒険者さんたちは、私に手を振り第六ゲートを出ていった。

 朝から私に会うためだけに来てくれたと考えると、本当に律儀な方々だ。


 少し不機嫌そうに彼らを見送るノクサラさんと、興味がなさげな態度のアザレアさんに視線を戻し、冒険者としての一日を始めよう。


「おはようございます」

「おう、おはよう」

「おはようございます」

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