15話 凱旋と
私たちが第六ゲートに戻ってくると、ヴァン・フェール第一から第三までの十五名全員が揃っており、歩く姿は凱旋そのものであった。
第六ゲート内の冒険者は、その姿に視線を奪われながらも、一つの話題を口にしながら賑やかさを保っている。
「やっほ、コハクっち」
「あっ、アコアさん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
私に声をかけてきたのは、ノクサラさんと同じくらいの身長をした、一九〇バシコンほどの女性冒険者のアコア・マカニさんだ。
彼女は上半身が人間種、下半身が虎の姿をしたティグリフォロス。だがしかし、頭頂部に虎っぽい耳が生えている。
「いやぁ、ヴァン・フェールはすごいッスね。あのワールドノーアーを倒しちゃったんスから」
「やっぱり倒せたんですね!」
「さっき報告してたッスよ」
アコアさんのサンゴのような赤い瞳は、ヴァン・フェールの方々に向けられており、小さく笑みを浮かべている。
「コハクっち、ここにいるってことは面接受かったんス?」
「いやぁ…恥ずかしながらの全落ちでして」
「そなんスか。…クランの面接官ってのは見る目がないんスねぇ、こんな…いや、なんでもないッス」
ほんの一瞬、苛立ちのような表情を露わにしたアコアさんは、優しげな表情を浮かべてから私の肩を叩き、乳白色の泉に姿を消していく。
「なあコハク」
「なんですか?」
「アコア・マカニと知り合いなのか?」
「はい。私たち四足獣人は数が多くありませんし、推奨地域自体も広くありませんから」
二本の刀剣と、薙刀のような槍を一本携えたアコアさんとは、宿屋の近くで何度か顔を合わせている。
真っ白な髪と体毛の私を見たアコアさんは、目をまん丸にしてから私に跪き、両手を合わせていた。
何やら信仰が関わっているらしいが、詳しくは聞いていない。
「というかノクサラさんもお知り合いですか?」
「いや、一方的に知ってるだけ」
「そこそこ有名ですよ、アコア・マカニさん。フリーの冒険者としての活躍なさっていて、配信に映り込むことが多くありますし」
「なるほど。…映り込むということは、アコアさんは配信者じゃないんですか?」
「違うみたいです。…いやぁでも、あのガーリーな見た目でバチバチに動けるんですからすごいですよね」
アコアさんの姿を思い出すと、フリルの多い可愛らしい衣装で袖も長かった。
剣と槍を振るうのに邪魔そうだ。
「ところで、この後はどうします?解散するにはちょっと早い気がするんですけど」
「そりゃあ、パーティで初めてボス級を倒したんだから、やることは一つだろ」
「なにか定番的なものがあるんですね!」
「そういうものもあるのですね」
「アザレアも知らねえのか」
「今までソロでしたので」
「そいや、そうだった。…ボス級を倒したんだし、そのスコアを変換しちまって、パーッと祝勝会をするんだよ。ははは、いい酒が飲めそうだ」
どうやら昼酒を飲みたいらしい。
「そういえばスコアって確認しました?」
「ああ。スコアは各二〇〇〇だったぞ」
「…あれ?あのボス級ってキング・ヴァーダントトードじゃなかったんですか?」
「プライム・ヴァーダントトード、キングよりは格上に扱われることが多い冠名ですね」
各二〇〇〇スコアということは、元は六〇〇〇だから、他のモンスターとは比べ物にならない。
プライム・ヴァーダントトードを安定して倒せるのなら、かなりの稼ぎになるはずだ。
「ボス級ってどれくらいの頻度で現れるんですか?」
「だいたい一〇日くらいに一度湧く程度だから、…待ち伏せは割に合わないな。日に二〇〇程度じゃちょっと、な?」
「ですねぇ〜。わたしも宿屋を追い出されてしまいます」
「都合よくはいきませんね」
「そういうもんだ」
私は右も左もわからない。
だからこそ、お二人の生活に負担がないようにしたいけれど、そのためには進むしかない。
…それに実績作りも必要だ。
「それなら祝勝会をしましょうか!」
「どこでやる?」
「ジェルブ・ドールですよ。きっと、ヴァン・フェールの皆さんもいて、とっても賑やかになりますから!」
「おぉー…。コハクって大胆だよな」
「驚かされるばかりです」
―――
お酒で少し眠い。
揺れる視界の先では、リーダーさんとノクサラさんが腕相撲をしている。
プライム・ヴァーダントトードを討伐したと知ったヴァン・フェールの皆さんは、盛大な拍手を私たちに向けてくれて、祝いという名目で飲み代の全てを出してくれた。
そのおかげか、ノクサラさんはヴァン・フェールの皆さんと飲み比べをしたり、どんちゃん騒ぎをしており、なんだかんだ上手く溶け込んでいる。
「やあミセス・ピルグリム」
「アルセルさん。どうも」
「酒の気に惑い、睡魔を纏っているようだね」
「ええ、ちょっと眠くなってきちゃいました」
「コハクさんはいいパーティメンバーに恵まれたようだ。これからも彼女たちと力を合わせ、ヴァン・フェールと名前を並べられるほどになるといい」
「できます、かね?」
「できるさ、必ずね」
そういえば、アルセルさんには聞きたいことがあった。
弓矢のこととか、アノマリーのこととか…。
「キミはたしか…アザレア・セルヴィーノ嬢だったね」
「あっはい、そうです」
「ミセス・ピルグリムは夢の国への櫂を握った。支えてあげてくれ」
「わかりました」
「それじゃあね」
目蓋が重くなり、その自重に耐えきれなくなった頃、アザレアさんが私の隣に腰掛け、支えてくれた。
「おやすみなさい、コハクさん。……なぜコハクさんを、ミセスと呼ばれたのでしょうか?」
おやすみなさい。その言葉を返す前に、私は微睡みの泉に沈んでいく。
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