3話 山林エリア 1
翌日。私、恋白は第六ゲートに来ていた。
目的はもちろん、ルーシッド・エデンでの実績を積み、未来のスター冒険者になるためだ。
短弓に弦を張り、鹿体に装着した矢筒の蓋を上げる。
軽いものを抜き取り、すぐ使う分だけを腰の箙へと差し替えた。
走りながらだと、矢筒から矢を抜くのは大変だ。
それじゃあ、出発しよう。
カウンターの方に視線を向けると、アザレアさんが手を振っているので、笑顔で手を振り返すと、彼女は楽しそうに笑っている。
「アザレアさん、行ってきますね」
「いってらっしゃいませ、コハクさん。初潜行は大変かもしれませんが、頑張ってください」
「はいっ!」
「それと、最初の潜行地点から遠ざかれば遠ざかるほど、モンスターは強くなります。気をつけてくださいね」
「わかりました」
胸元に着けた玉鈴の真珠飾りに触れると、新しいことに挑戦する勇気が湧いてくる。
乳白色の液体が揺らめくゲートに足を踏み入れると、身体が自然と進んでいき、視界が白く覆われていく。
―――
わたし、アザレアは新米冒険者のコハクさんを見送る。
真っ白な髪と鹿体の体毛を見た瞬間、白化病かと思いましたが、ダークブラウンの瞳から推察すると、そういう種族なのでしょう。
病気のヒッポフォロスの子供が迷い込んできた、そう思ってしまったのは、私の浅慮でした。
「異国情緒ある服装の小さいヒッポフォロスは知り合いって感じ?」
「昨日、冒険者登録したのですが、種族はエラフォロスというそうで、あの大きさですが、大人のようです」
「へぇ〜。でも珍しいよね、弓なんて。矢の管理をしなくちゃいけないのに、射程も威力も魔法でいいんだから」
「そうかもしれませんが、少し期待している私がいます」
わたしの胸は高鳴っていた。
世間受けしない武器で、小柄なコハクさんがどれほどの活躍をするのかが、心の底から楽しみです。
「そういえばアザレアってさ、もう冒険者はやらないの?」
「どうでしょう。気が向いたら再開するのもいいかなと、考えてはいるのですがね」
―――
真っ白に覆われていた視界が色を取り戻していくと、私はどうやら部屋にいるのだと理解できる。
窓に近づいて外の景色を眺めてみると、手入れが行き届いた夏の山林のような、私にも馴染みのある風景であった。
チリン、チリン。と音が鳴り、音の方へと身体を向けると、そこには若い男性が立っていた。
「キミは初めてのお客さんだね?」
「はい、ルーシッド・エデンには初めて潜行しました。…こんにちは?」
「これは丁寧どうも、こんにちは」
男性は軽く頭を下げてから椅子に腰を下ろした。
「オレはテメーリス。この人造ダンジョンを作り出した自称大魔導師で、ルーキーに簡単な案内をするために残した記録映像のような存在だ」
「本人ではないんですか?」
「あくまで会話ができる魔導体に過ぎないが、これを作ったのがオレ本人だと考えれば、この魔導体もオレなのかもしれないな、ハッハッハ」
テメーリスさんは難しいことを言っている気がする。
「さて。外で大まかな説明を受けていると思うが、どうかな?」
「はい。ルーシッド・エデンの内部でモンスターを倒すと高純度魔石が手に入って、それがスコアに変換され、換金できるって教わりました。…それと、中では魔導体に身体が置き換わるから、死の心配はないとも」
「上出来だ。オレの世界の全てを知っているといっても過言ではないな!」
「多分ですけど…過言です」
大きな声で笑うテメーリスさんは、表情を真面目なそれに切り替えて、剣を取り出した。
「オレは退屈が嫌いだったから、楽しく資源採取のできる場所を思い描いた。その一環としてモンスターが現れ、倒すことで高純度魔石に変換されるという仕組みを作った。…だから、こんなこともできる」
テメーリスさんが振り返りながら剣を振るうと、剣先が届いていないのにも関わらず、小屋の壁が斬り裂かれ大きな風穴を空けてしまった。
「武技でしたっけ?あんまり詳しくはないのですが、『銀眼』のシュタールが使っていたカッコいい技だなぁって」
「武技というのは、剣やら槍を魔法と同等に戦わせることができる技術だ。ここに潜り続ければ自然と身体が適応し、得意な武器の武技が使えるようになるだろう」
「弓でもいけますか?」
「もちろん、武技が芽生えるその時まで、カッコいい技をイメージし続けるんだな、ルーキーちゃん」
「はい!私は故郷にまで名前の届く、スター冒険者になるため、パラデイソポリスに来ました!」
「ハハハッ、ならば扉を蹴破り、進むがいい。未来のスター冒険者よ!」
その言葉を言い終えるとテメーリスさんは消えていなくなった。説明をするための存在だったのだろう。
弓を固く握りしめ、小屋の扉を慎重に開けてみると、湿った落ち葉の匂いを風が運んできて、故郷の山を思い出した。
そう、榾火の村まで名前が届くスター冒険者が、私の目標なんだ。
―――
小屋を出てみると、山林の斜面には他の冒険者の姿が見られる。
彼らは小柄な犬のようなモンスターと対峙しており、倒した瞬間に死体が消え去っていく。
その場で足踏みをして、身体の調子と、地面の状態を確かめてみる。
しかし、身体が魔導体に置き換わったかどうかも理解できないし、ここが人工的に作り出された異界だと実感も湧かないほどに、現実とそっくりの場所だ。
地面の状態も悪くないし、斜面もそこまでキツくない。これなら全然走れそうだ。
私はピョンと飛び跳ねてから、近くを歩いていた犬型のモンスターに狙いを定めて走り出す。
箙から抜き取った矢を弓に番え、大まかに狙いを定めながら足を進める。
音でこっちに気がついたようだけれど、もう遅い。
前足で着地した瞬間、振動が腕に伝わりきる前に矢を放つと、犬の眉間を貫いた矢は、矢羽根を揺らしていた。
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