2話 冒険者になる 2
「ところで、コハクさんの出身国に書かれている、『メイゼン』ってどのあたりにある国なんですか?」
「明蝉国は魔導力船で、東に三〇日くらいの場所にあります」
「そうなんですねぇ。随分な長旅だと思いますが、大変なこととかはありましたか?」
「船は一日中揺れているじゃないですか。なので、眠っている間に寝台から落ちちゃったり、普段とは違う生活様式に苦労しました」
私は船酔いはしなかったけど、最初の頃はあっちこっちにふらふらと足元がおぼつかなくて大変だった。
でも船乗りさんたちは優しく、立ち寄った港町での思い出話なんかも聞かせてくれて、本当に楽しかった。
話を盛っているかもしれないが、『飲み勝負の時に一人で樽いっぱいのお酒を飲み干して、次の日におしっこが止まらなかった』なんて、真剣に語るんだから笑わずにはいられない。
そんなことを思い出していると、アザレアさんはカウンターの下から小さめの冊子を取り出して、目を通していた。
「もう一つ。メイゼンではどういった種族が生活をしていますか?」
「狸人、狐人、熊人と、私みたいな人鹿の合計四種族です」
「ご回答ありがとうございます。…すみませんね、疑ってしまいまして。入国証明書を拾ったり奪ったりして、他人を装って登録しようとする“お客さん”もいらっしゃいます。そういった不正のないよう、外国人の登録者には色々と聞かせてもらっているんです」
「大変なんですね。もっとお話した方がいいですか?」
「いえ、大丈夫です。遠い異邦のことを、言い淀まずに語られておりましたし、問題ありません」
「それならよかったです」
疑われたなんて全然わからなかった。
けれど、明蝉国の出身だって証明できてよかった。手ぶらで帰ることなどできない。
「それでは冒険者登録を行いますが、冒険者というものに対する説明をいたしましょう」
アザレアさんは表情を緩めて、一枚の紙をカウンターに置く。
「パラデイソポリスにおける冒険者というのは、ルーシッド・エデンに潜行し、内部でモンスターを倒し、魔石の採掘を行う者を指します」
「『銀眼』のシュタールみたいな人ですよね、冒険映像を郷守様に見せてもらいました!」
「渋い趣味ですね。…けれど知っているのであれば話は早いです。そういったライブやムービーのように、迷宮でモンスターを倒すことで、冒険者は高純度魔石を回収できます」
「危険とかはないんですか?」
「一切ありません。ルーシッド・エデンに潜行すると、身体が魔導体という状態に置き換えられ、内部で死亡しても外へ排出されるだけで済みます」
「おー、挑み放題ってことですね」
「それは違います。内部で死亡し排出された場合は、再潜行までに一日の猶予があります」
「なるほど。活動を長くするには、しっかりと相手を選んで、被害を少なく挑んだ方がいい、と」
「はい、その通りです」
一人でできることは多くないから、パーティは組んでおきたい。
…ライバーじゃないクランとかを当たってみるべきなのだろうか?
「次は高純度魔石についてです。ルーシッド・エデンで獲得された高純度魔石は、獲得と同時にこちら側で回収され、冒険者の方々にはスコアという形で還元されます」
「持ち運ばなくていいのは楽ですね。…でも、それって何か意味があるんですか?」
「パラデイソポリスが魔導力社会において、優位性を確保するためであり、不当に高純度魔石を採掘されないための対策です」
政の話、…なんだか大変そうだ。
「最後に、冒険者の方々は基本的に武器を携帯します。モンスターを倒すのに必要ですし、パラデイソポリスでは認可を受けた対象となっております」
面接を受けるときに必要そうだったから、私も弓を持ち歩いている。
効果はイマイチだったが。
「それらで他者を傷つけた場合や、冒険者同士で戦闘を行った場合等、ルーシッド・エデン外で武器を振るった場合は、直ちに冒険者資格を取り消し、最悪の場合は退去処分となりますので、お気をつけくださいね。本当に」
「わかりました。…私、弓を使うんですけど、弦を張ったり準備をする場合は、この建物内でってことでいいですか?」
「はい。ロビーに入ってからならば、鞘やカバーを外しても問題ありません。…あとは、建物内やルーシッド・エデン内でも、冒険者同士の戦闘は御法度ですのでお気をつけください」
「はいっ!」
その後、私は書類に名前や宿泊場所、出身地などを記載し、冒険者証明書を受け取った。
入国証明書とは少し違う、私を私たらしめる新たな証は、面接を落ち続け、暗く曇っていた胸の中を箒で掃いたような心地よさが通り抜ける。
「再発行自体は難しくありませんが、頻繁に落とすと信用に関わりますので、お気をつけくださいねぇ」
「わかりました!えへへ、これで私も冒険者だ」
「今日は潜行なさりますか?」
「いえ、いい時間なので、明日からにします。冒険者の説明と、書類の書き方を丁寧に教えていただき、ありがとうございました」
「いえいえ、それがお仕事ですから。何かお困りごとございましたら、窓口で私、アザレアをお呼びください。手伝えることも多くあると思いますので」
私が深々と頭を下げると、アザレアさんは楽しそうに手を振り、建物を出るまで送ってくれた。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




