2話 冒険者になる 1
私はルーシッド・エデンを攻略し、その活動を配信する『ライバー型冒険者』となるため、クランの面接を受けていた。
パラデイソポリスに到着してから、十五日間ずっと。
「コハク・ホタビノさんのアピールポイントに…弓での射撃と、鹿体を生かした走力と跳躍力とありますが、弓以外の戦闘はいかがなのでしょうか?」
「槍を扱うことができます」
「魔法は、お使いにならないのですか?」
「生活魔法なら使えます、『狐火』」
「……」
私の手のひらに現れた魔法の火を見て、面接官の口がへの字に変わっていく。
今後の展開は読めてしまう。
「うちも色んなライバーを集めて、配信活動や動画作成をしているんだけど、弓なんて古臭い武器と、足の速さだけじゃ魅力が全然ないの。わかるぅ?」
そう、私には魅力というのがないらしい。
村では誰よりも弓が上手だったし、大人よりも速く山林を駆けることができた。
だけれど、私が目指しているようなスター冒険者になるのは、こういった技能は評価されないらしい。
わかりやすく派手で、強力な上級魔法。
大きな武器を振り回し、一撃で相手を倒せる力。
そういうのが『配信映え』らしい。
私には、そのどれもない。
「というかさぁ、何の実績もない素人が来ても受かるわけないじゃない。もうちょっと頭使って考えなさいよ」
「『初心者、未経験者可』って募集に書いてあったので」
「はぁー…それはねぇ――」
大きなため息を吐き出した面接官は、私を小馬鹿にするような口調で、綺麗とは言い難い言葉を吐き出している。
夢を追いかけてやってきたパラデイソポリス。
吹雪の日みたいに息苦しい場所だと、私は思った。
―――
面接が終わり建物を出ていくと、街の雑踏が私を迎え入れ、面接官の小言を蹴散らすかのように感じられた。
いや、現実逃避なんてしている場合じゃない。
私に配信映えはないらしい。
さっきの面接官だけじゃなく、いくつかのクランで教えてくれたことだ。
じゃあどうするべきか、それもさっきの面接官が教えてくれた。
実績作りをしよう。
私は胸元に着けている、玉鈴の付いた真珠飾りを手に取り、これを贈ってくれた郷守様の言葉を思い出した。
『外国での暮らしは、恋白にとって大変な日々となると思います。人鹿に対する理解がない可能性も否定できませんし、悪い方法で恋白を利用しようという者が現れるかもしれません。…ですから、ちょっとしたお守りとしてこれを受け取ってください。少女巫の報酬の一つという名目ですが、郷守たる私からの…友誼の品です』
どんな悪いものも寄せ付けない、そういった強い意味を込めて、郷守様がくださった物。
煤にまみれても汚れることのない、と言われる氷下貝の真珠。これに恥じることがないように、私は頑張りたい。
今は十五時。
実際にルーシッド・エデンに行くのは難しそうだが、冒険者としての登録はしておこう。
―――
車道から歩道へと移った私は、背の高い建物を見上げて目を瞬かせる。
ここはルーシッド・エデンの第六ゲート。
ルーシッド・エデンというのは、かつての大魔導師が作り出した異界型ダンジョンだ。
「よしっ、冒険者登録をしよう」
クランに参加して、教えてもらいながら冒険者としての実績を積もうと思っていたのだけど、どうやら逆だったらしい。
扉を開き、建物に足を踏み入れると、まず目に入ったのは乳白色の水のような何かが揺らめく、浴槽のような場所。
色んな人が、その浴槽を出入りしてくる光景は不思議そのもので、立ち止まって見ていたら、後ろから咳払いが聞こえる。
「あっ、すみません、退きます」
武器を携えた五人組は、私を不思議そうに眺めてから、乳白色の水に入っていき、姿を消した。
あれがゲートなんだろうか。
周囲を見回し、登録受付と書かれた看板を見つけ、赤色が目を引く受付係さんに話しかけることにした。
「こんにちは。冒険者登録をしたいんですけど、今大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。…お嬢さんは、ヒッポフォロスの子供でしょうか?」
「エラフォロスの大人です。入国証明書にも十六歳と記されていますし」
「ほぉ」
髪に羽毛の混じる女性は、鳥系の二足獣人だったはず。
受付係さんは入国証明書を眺めた後、一度頷いてから笑顔を見せる。
「エラフォロスの方は初めて見ました。ヒッポフォロスの方々は皆大きく、そちらに見慣れておりましたので子供かと思ってしまいました。すみません」
「いえ、大丈夫です。もう慣れましたから」
「それでは冒険者登録を担当させていただく、アザレア・セルヴィーノと申します」
「コハク・ホタビノです、お願いします」
「それでは、窓口を移しましょうか。立ったままでは大変ですよね」
「ありがとうございます」
アザレアさんは席を立ち、ヒッポフォロス用の椅子のある窓口に移動し、私は冒険者登録を行うこととなる。
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