14話 ヴァーダント・トード 4
口を不気味に動かしたキング・ヴァーダントトードは、首を横に振りながら口を開き、舌で薙ぎ払うように振るう。
「くっそ、『ヴァッサーシュピーゲル』!!」
ノクサラさんは、アザレアさんの隣に移動し、側面から迫りくる薙ぎ払いを受け流し、軌道を上方へ逸らす。
しかし打ち上げられた舌の軌道は、山なりを描いて私の方へと落下してきた。
一度地面にバウンドした舌は、土や草を巻き込みながらも、私を狙うように進んでくる。
「うわっ!?」
驚いた私は必死に足を動かし始めるのだが、咄嗟のことで回頭できず、舌に追われるような退路を選んでしまう。
舌の範囲は異常に広く、範囲の外縁へと逃げることは難しく、薙ぎ払いの速度は衰える様子がない。
このまま走って逃げたところで、いつかは痛手を負ってしまう。
私は背後へ視線を向けながら、舌を跳躍で回避できる瞬間を伺う。
「今、だァッ!!」
人体の重心を限界まで後ろに寄せ、後ろ足で地面を全力で蹴り、その場で後宙返りをする。
そして宙返りの最中に、ストックしていた矢を一本射ち出して、舌を射抜こうとしたのだが、掠ることすらなく通り過ぎていった。
「ぐっ!?」
後宙返りの衝撃が全てに足に痺れが走る。
しかし、こういった技がある以上は足を止めるのは悪手なうえ、舌に土や草が付着している以上、次の攻撃は拡散する礫弾だ。
私は走り続けないといけない。
ストックした三本目の矢と、左手の弓に持ち替えつつ、右側面にいるキング・ヴァーダントトードを狙おうと構えるも、見透かされていたかのように水膜が張られてしまう。
「礫弾まで余裕がある、アザレア!」
「わかってます!『フレイムバー―――」
「なっ―――!?」
私への攻撃を外したキング・ヴァーダントトードは、舌を巻き取りながらも回転を続け、お二人目掛けて体当たりを仕掛けた。
七バシスもある巨大なカエルだ。体重も多いだろう。
そんな相手の、回転力に後押しされた体当たりをまともに受けられるはずもない。
「間に合えぇぇ!!」
何ができるでもない私だが、駆ける足を止めることは出来ず、お二人の元へと向かおうとする。
「『フローズンブルワーク』!」
間に合わない。
そう思った瞬間、ノクサラさんとアザレアさんの足元から氷の塔が生えてきて、お二人を空中に押しやった。
氷の塔に体当たりをしたキング・ヴァーダントトードは、塔に押し返されるように地面を転がるが、すぐさま体勢を立て直して口を動かす。
「アザレア、翼を閉じろ!礫弾が来るぞ!」
「この距離から落ちたら無事じゃ」
「いいから早く!」
「かしこまりました、うわぁぁぁああ!!?」
落下の勢いを和らげるために展開されていた翼を消し去れば、お二人は自由落下していくのみ。
下で受け止めたい気持ちはあるものの、それをしたら私は間違いなく動けなくなる。
ノクサラさんの決定を信じ、私はキング・ヴァーダントトードの許へと走っていく。
今にも礫弾を吐き出しそうな口を見据える。
前回の範囲を考えれば、落下中のお二人が安全とは言えず、助けに駆けつけたい気持ちはある。
…けれど私にできることは、瘴動である礫弾の妨害だ。
昨日の感覚は忘れていない。
…纏う空気が変わった。
キング・ヴァーダントトードに肉薄する距離にいた私は、足を畳みながら鹿体でスライディングをし、相手の顎下に到達した瞬間、氷が張り付いている顎を目掛けて矢を放つ。
放たれるはずの礫弾は、矢に縫い付けられ無理やりに閉じられた口中で暴発し、いくつかが鼻や顎を貫くようにして発射され、私の顔を掠めていく。
しかしながら、ノクサラさんたちに届いたものは一切ない。
それを確認した私はすぐさま立ち上がり、相手の懐から逃げ出していく。
無理なスライディングをした影響で、私の鹿体に装着されていた矢筒は落ちてしまい、箙の矢も撒かれてしまった。
残る矢は二本だけ。
…無駄打ちはできなくなってしまった。
キング・ヴァーダントトードへの注意も向けつつ、ノクサラさんたちに視線を向けてみれば、お二人は無事なようだが、鎧に付与された水属性は解除されてしまったことが伺える。
「そっちは大丈夫そうですかっ!?」
「大丈夫、とは言い難い。…もう武技を使えるだけのスタミナはない!」
衝撃の受け流しや転用には疲労を伴い、そのうえで防御用の武技も使用していた。
ボス級の相手とは、それほどに消耗するものなのだろう。
弓を左手に構え直しながら、キング・ヴァーダントトードに意識を向け直すと、ノクサラさんたち目掛けて跳躍をする直前段階にあった。
事前の打ち合わせ的に対処が可能だと考えた私は、箙に残る二本の矢を抜き取り、着地点へと駆け出す。
高い跳躍からの地面の変化。
ノクサラさんは、アザレアさんを抱えて直撃を回避。
空中に投げ出された際は、アザレアさんの翼での緩やかな落下。
対応は十分だったのだが、お二人が着地するのと同時に、キング・ヴァーダントトードの口が開き、勢いよく舌が飛び出したのは、想定外だった。
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