14話 ヴァーダント・トード 3
私の放った矢は、キング・ヴァーダントトードの右目を貫き視界を奪う。
苦しみの声を上げ、私の方へと振り返ろうとした瞬間、ノクサラさんとアザレアさんの攻撃が繰り出されて、注意がお二人の方へと向き直り、水膜が再形成される。
あの水膜は攻撃を受ける度に形成される可能性が高い。
それなら、アザレアさんが魔法で水膜を焼いた直後に、私とノクサラさんで攻撃を重ねる方がいいはずだ。
「ノクサラさん!」
「おう!」
伝わったかはわからない。けれど、冒険者としての経験があるノクサラさんなら、私に合わせてくれるはず。
啄鎧矢は止めに残すとして、できる限りの矢を射ちこんで、キング・ヴァーダントトードを倒そう。
そうなると狙う場所を考えないといけない。
アノマリーか、弓矢かはわからないが、私の攻撃は弱点を狙うことで有効打となる。
キング・ヴァーダントトードは、背中に湿地の草を背負っている、巨大なヒキガエルのようなモンスターだ。
頭を狙う場合は側面の頬を貫通させるか、高く跳んで打ち下ろす必要がある。
…どちらも難しい。
首はどうだろう。
視界に入らないように意識しながら、キング・ヴァーダントトードの身体を改めて確認してみるも、首と腹の区別が難しいうえ、弱点のようにも思えなかった。
このルーシッド・エデンは現実と異なり、頭や首、心臓を狙わなくても、相手を狩ることができる。
けれど、私の場合は話が別だ。
相手の急所を狙わなくては、大した結果は得られない。
いや、私が射ち抜いた眼球には、しっかりと矢が刺さり失明させている。
弱点なら有効になる可能性が浮かんできた。
アザレアさんがキング・ヴァーダントトードの水膜を焼き切ると、私は弓に矢を番えてノクサラさんに目配せをする。
矢が弓を離れてから、着弾までには時間がある。
前足が地面に触れると同時、振動が腕に伝わるより前に矢を放ち、私はキング・ヴァーダントトードの右目を、再び射ち抜く。
射撃に合わせる形で、ノクサラさんが相手の顎にアッパーを繰り出すことで、再び水膜が生成されるのだが、少し間をおいて炎魔法がそれらを焼く。
キング・ヴァーダントトードは、再び右の眼球に攻撃を受けたことで、右へ回頭しようとするのだが、ノクサラさんが懐に飛び込み腹部を攻撃する。
反撃とばかりに振り回された前足は、彼女に当たることはなく、ただ地面を掻くだけだ。
今の攻撃でまた水膜が張られるが、アザレアさんは魔法の使用を止めてから、私の方へと視線を向ける。
合わせてくれるということだろうか。
箙から矢を抜き取り、次の射撃の準備をするとキング・ヴァーダントトードの口がモゴモゴと動き、舌撃の予備動作が確認できる。
「舌、来ますよ!」
「見えてる!アザレアは後ろに隠れてろ!」
「えっ、はい!」
口が開き、舌先が見えた瞬間、目にも留まらぬ舌撃が繰り出される。
避けても受けても次の攻撃がある厄介な攻撃は、ノクサラさん目掛けて放たれたのだが、舌が彼女を捕らえることはなく、腕鎧に弾かれて明後日の方へと進んでいった。
「『ヴァッサーシュピーゲル』。カエルと似た技があるのは癪だが、受け流しはお前だけの特権じゃねえんだよ」
舌を受け流した腕鎧は、薄い水膜が凪いだ湖のように周囲を写す鏡のようで、似た技というにはいささか綺麗すぎると私は思った。
舌撃が空振ったキング・ヴァーダントトードは、すぐさまに舌を引き戻してから上体を起こし、お二人を押しつぶそうとする。
ノクサラさんは瞬時に一歩退き、アザレアさんを脇に抱えて距離を取った。
「コハクさん!次の攻撃の準備を!」
「こいつの動きはだいたいわかった。サクッと削り切って終わらせんぞ!」
「はい、わかりました!」
私が弓に矢を番えるのとほぼ同時で、アザレアさんがフレイムバーストを発動。体表の水膜を無効化し、私とノクサラさんで攻撃を繰り出す。
そして水膜が展開され始めると、今度はアザレアさんが青いアーケイン・プロキシを操作し、霧のようなものを噴出させる。
それを受けたキング・ヴァーダントトードの体表面には、薄っすらとした氷が張っていき、水膜の展開と相手の動きそのものを阻害した。
「頭を狙うんで、追い込みをお願いします!」
「え!?!」
ノクサラさんが吐き出した疑問交じりの声は無視し、矢を三本抜き取り、一本を脳天へ曲射すると、飛び出るような目と目の間に突き刺さる。
ただそれでは威力が足りず、頭蓋骨を貫通することは出来ない。
けれど、ノクサラさんが追撃を加えられるなら、それは意味のある一手になるはずだ。
ノクサラさんは相手の巨体を踏み台に駆け上がり、刺さった矢に口元を歪める。…もしかしたら悪態でもついているのかもしれない。
高く振り上げられた長い脚は、キング・ヴァーダントトードに刺さった矢に向けて振り下ろされる。
その踵が矢と頭を打ち、衝撃がキング・ヴァーダントトードの全身に伝わり、ぶるんと皮膚が揺れた。
体表を覆っていた薄氷が吹き飛び、粉雪のように舞い散っていく。
「ゲゴオォウアァァア!!」
巨体をやたらめったらに動かして悶え苦しんでいることから、キング・ヴァーダントトードを倒しきれたのではないかと私は考えたのだが、ボス級はそう甘いものではないらしい。
身体を震わせた後、潰したはずの右目をギョロギョロと動かすと、刺さっていた矢は抜け落ち、眼球が再生されていく。
その後、両方の瞳で私たち三人を捉えたキング・ヴァーダントトードは、口内に収まった舌を不気味に動かす。
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