14話 ヴァーダント・トード 2
エリア七四の小屋に入ると、ノクサラさんがファミリオグラフを取り出した。
ゲートに向かう道中で、ノクサラさんの家に寄ったのだが、これを取りに戻っていたらしい。
「キング・ヴァーダントトードとの戦闘を撮影するんですか?」
「そう、実績作りの第一歩ってところだ。アザレア、操作とか設定とかできるか?」
「できると思いますけど、結構古い型番じゃないですか?」
「そりゃまあ…冒険者の稼ぎを貯めて、初めて自分で買ったやつだし」
「おぉ、思い出の品ってやつですね!」
「そんなんじゃねえよ。ただ捨てられなかっただけのもんだ」
「ちょっと設定をいじりましたけど、無事に動かせそうです。手動操作と自動追尾、定点撮影、それらの複合撮影も可能にしましたが、今回はどうしますか?」
「なんとなくいい感じの画角とかはわからなくないんだが、撮影に関しちゃやったことがないし、どう映るのかもわからない。基本はアザレアが操作して、忙しくなったら追尾にしといてくれ」
「かしこまりました」
アザレアさんはファミリオグラフを宙に浮かべ、私の周りをぐるりと回してから、目の前で止める。
「ではリーダーのコハクさん、キング・ヴァーダントトードに挑むための挨拶をお願いします」
「私ってリーダーなんですか?」
「アタシのことはコハクが誘っただろ」
「わたしはコハクさんのパーティに加わったのですよ」
「リーダーみたいなことはできないと思いますが」
「これから学んでけばいいし、…いつか役立つかもしれないだろ」
その言葉には、『ここではないどこか』という意味が感じられ、ほんの少しの寂しさと、スターを目指すために突き進んでいいのか、という葛藤が芽生え、胸の奥がざわつく。
ノクサラさんは…私と一緒に大手クランに所属するというのが難しそうな立場だ。
初めてパーティを組んだ人で、色々と教えてくれている人だから、長く一緒にいたいけど、どうしたらいいんだろうか。
「…それじゃあ!ご視聴にいらしてくれた皆様、こんにちは!私たちは本日、エリア七四のキング・ヴァーダントトードに挑みます。メンバーは散開射手の恋白、ガーディアン・ブロウラーのノクサラ、プロキシ・キャスターのアザレアの三人です」
紹介されたノクサラさんは面倒くさそうにしながらも『どうも』と挨拶をし、アザレアさんは言葉を発することなく手を振っていた。
「結成したてのパーティではありますが、これから頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします!」
最後に私が礼をすると、もう撮影は十分なのかファミリオグラフはアザレアさんの手の中に収まる。
「素人感があっていいか」
「挨拶を噛まずに言えてますし、緊張している様子もありませんから十分すぎますよ」
「まあそうか」
お二人からの評価は悪くないらしい。
「では挑みましょうか!キング・ヴァーダントトードに!」
「はい、頑張りましょうね」
「おう」
小屋を出る寸前に、ノクサラさんが思い出したかのようにひと言を呟く。
「コハク」
「なんでしょう?」
「目を潰すなら片方だけにしとけ、両目を潰すと暴れだす奴もいる」
「わかりましたっ!」
小屋から出た私は、最初から速度を出しながらキング・ヴァーダントトードの居場所を探れば、小屋から三〇バシスほどの位置に佇んでいる。
昨日に射ち抜いた眼球には、突き刺さっているはずの矢はない。
倒しきれなかったモンスターは、元に戻ってしまうのだろうか。
エリアを駆け始めると、キング・ヴァーダントトードの視線が私に向く。
矢筒に一本だけ仕込んでいた鏑矢を抜き取り弓に番えると、狙いを上空に向けて躊躇なく放った。
ピョロォォウウウ。と鳴いた鏑矢は私なりの狼煙だ。
そしてその鏑矢は、キング・ヴァーダントトードの注意を引くには十分だったようで、視線を釘付けにできた。
私はノクサラさんたちから離れすぎない場所に跳躍を誘導するため、走り続ける。
前回と同じく高く跳び上がったキング・ヴァーダントトードは、山なりの弧を描くように私の方へと飛んでくる。
あの軌道なら直撃は当たらない。
けれど、地面の変化がどれくらいまで広がるかはわからないから…私は、跳ぶっ!
「ッ!!」
キング・ヴァーダントトードが着地した瞬間、私は全力で地面を蹴って跳び上がる。
少しばかり緩んだ地面に足が取られぬよう跳んだ私は、地面の影響を受けることなくやり過ごし、地面に足を付けた瞬間に駆け出した。
「範囲は四バシス以内です!」
「おう!アタシたちが注意を引くから、一旦距離を取れ!」
「はいっ!」
入れ替わるように近づいたノクサラさんは、『ヴァッサーフェアツァウベルン』を使用し、腕と脚の鎧に水属性を付与してから、キング・ヴァーダントトードの鼻先を殴った。
ノクサラさんからの打撃を受けたキング・ヴァーダントトードは、体表に水の膜を作り出す。
「『フレイムバースト』!」
赤いアーケイン・プロキシは、頭ほどの高さを維持しながら、火花の雨を降らせることでキング・ヴァーダントトードの水膜を焼き消していく。
お二人は昨日出会ったばかりなのにも関わらず、自然に連携できている。
なんとなく、ノクサラさんの位置取りが上手いんだと私は思った。
それが何故なのか。どういう経緯で身につけた立ち回りなのか。過去には踏み込めないけど、少しずつ知りたい気持ちが高まってくる。
けれど、それは今じゃない。
私は回頭しつつ二の矢を整え、確実に眼球を貫ける距離で矢を弦から解き放つ。
今回は負けない。
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