12話 段丘湿地エリア 3
私たちは段丘湿地エリアの草に隠れるよう、前方に佇んでいる相手を観察する。
それは小屋よりもしばらく先にいて、他のヴァーダントトードとは一線を画す存在感を放っていた。
「ボス級個体のキング・ヴァーダントトードか」
「そういうのもいるんですね」
「ボス級には、既存個体が巨大化したり、特殊な能力を得たりした特異種と、ボス級でしか存在し得ないユニーク種の、二種類がいるんだ」
「なるほど」
ヴァン・フェールの皆さんが討伐に向かった『ワールドノーアー』というボス級は、ユニーク種なのかもしれない。
改めてキング・ヴァーダントトードに視線を戻してみると、その身体は七バシスほどで、今まで戦ってきたどのモンスターよりも大きい。
その大きさからか、草に身を隠すようなことはせず、たまに喉を鳴らすことだけで、のんびりと佇んでいる。
「このまま倒してしまいますか?私の啄鎧矢が心臓に対して強い武技なら、あれくらいは倒せるかもしれませんよ?」
「うーん、キング・ヴァーダントトードは小屋から…一〇〇バシスは離れているし、一旦出直したい」
「わたしもノクサラの意見に同意します」
意外だった。
二人は強い冒険者なのだと理解できる。自惚れているわけではないけれど、私たちなら上手く立ち回ってボス級の対処ができると考えたからだ。
「意外って顔だな」
「はい、意外です」
「ボス級ってのは一筋縄じゃいかないことが多い。それこそ、心臓を潰されてもしばらく動くくらいにしぶとかったり、そういう可能性があるんだ」
「小屋から帰還しスタート地点を設定後、準備を整えて挑む方が無難でしょう」
「焦りは禁物ということですね」
「はい」
「そうだ」
特に私は、ボス級に挑んだことがない。
慎重な選択肢を取る方が、今後のためにもなるだろう。
「小屋から一〇〇バシスほど離れていますが、どうします?」
「どうって、しゃがみながら…あー」
「あー…」
ノクサラさんとアザレアさんは、私の身体の構造を見て納得する。
「私は身体を低くしながらの移動ができなくって」
「どうすっかなぁ」
「お二人が先に行ってもらって、私があとから全速力で追いかけるのは、どうですかね?」
「それだとコハクさんへの負担が大きくなってしまいますし、待っている間にダイブウィングが来たら大変ではありませんか?」
「まあ、草に隠れきれてないしな」
草の背丈が低く、鹿体は隠せても人体は飛び出ているのが現状だ。
隠れ潜むという行動に向いていないのがエラフォロスである。
「私が引きつけて、ノクサラさんが走り、アザレアさんが滑空するというのはどうでしょう?」
「ダイブウィングみたいなモンスターがいる場所で滑空はちょっと…怖いですね。走るのは遅いので、コハクさんへの負担がより大きくなってしまいます。…先の、コハクさんの案にするのが無難でしょうかねぇ」
「そうすっかぁ。…混成パーティって難しいんだな」
小さく呟いたノクサラさんだが、解散しようとは言わなかった。
種族的に不揃いなパーティだが、私的には色々と知れて楽しい部分も多いから、一緒に頑張ってきたい。
「それじゃ、ダイブウィングに見つからないようにな」
「わたしたちが小屋に近づいたら、駆け出してください。ギリギリまで援護いたしますから」
「はい、頑張りますっ!」
―――
ノクサラさんとアザレアさんが向かう小屋は、私の現在地より低い場所に位置している。
段丘ということもあり段々になった地形を、二人はゆっくりと下っている最中だ。
上空のダイブウィングも、私たちを襲ってくる様子もないし、無事に出られそう――。
「きゃあっ!?」
「ば、おま」
「泥で滑ってしまいまして…」
「静かにしろって」
「すみま――」
アザレアさんが謝罪を言い終える前に、キング・ヴァーダントトードは二人の方へと身体を向けて、足元の土や草を派手に散らかしながら跳躍をする。
「コハク!臨機応変に行くぞ!!」
ノクサラさんは、アザレアさんを脇に抱えながら、キング・ヴァーダントトードの攻撃を回避し、小屋に向かって走り出す。
私は急いで矢筒の矢を箙に移し替え、その一本を弓に番えてから、勢いよく飛び跳ねた。
着地したキング・ヴァーダントトードの周辺は、まるで地面が水のように柔らかくなっており、何度も波打つ様子が確認できる。
そしてその拍子に、ノクサラさんは高く打ち上げられてしまうのだが、アザレアさんが翼を展開して地面との直撃は回避した。
「ちょっと!翼には触らないでくださいよ!」
「触ってねえだろ!とやかく言うなっての!」
賑やかな二人に対し、キング・ヴァーダントトードは視線を向けた隙に、私は勢いよく段丘を下っていき、狙いやすい眼球に向かって矢を放つ。
「ゲゴァアアア!?」
カエルの飛び出た眼球は、背中を向けられていても狙いやすい。
私の放った矢は、キング・ヴァーダントトードの目蓋を貫き眼球に突き刺さると、耳をつんざく勢いの怒号を吐き出し、私を探そうと身体を回す。
しかし、私は目の潰れた側に陣取りながら移動し、小屋までの距離を稼ぐ。
地上での回頭や動きそのものは遅く、跳躍からの押し潰しを除けば、そこまで驚異的には感じられない。
今なら、もう片方の目を潰せる。
そして潰せたのなら、戦闘を有利に進められるはずだ。
目を狙える位置へと移動した私は、躊躇なく弦から指を離して矢を送り出したのだが、先ほどとは異なり、矢が眼球を貫くことはなかった。
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