12話 段丘湿地エリア 2
矢が風を切るような、それに近い音が耳に届く。
私は確認するより前に、箙から矢を三本引き抜き、弓に番えながら天を仰ぐ。
「上から来ますよ」
「アザレアは広めの範囲攻撃で軌道を狭め、コハクは抜けてきた相手の処理。できるな?」
「やってみます」
「かしこまりました」
「…『フレイムバースト』!!」
アザレアさんは赤いアーケイン・プロキシを宙に浮かせ、無数に飛び上がる火炎で花を咲かせるように、私たちに向かって急降下してくる鳥モンスターを阻害する。
翼を燃やされた一羽は火だるまになりながら消滅していくが、二羽が私たちを狙って急降下を続けている。
複数いるのならじっくりと構えている余裕なんてない。
雑に射った矢は、外れてしまった。
それでも軌道を乱されたモンスターは、私たちを狙うことはできず、遠ざかっていく。
残りは一羽。
だいぶ近づいているけど、まだ間に合う距離にいる。
…いや、さっきは逃げられてしまった。だからこそ相手が逃げられない距離で狙わなくちゃいけない。
鳥射ちなんて、キジくらいしかやったことがないんだけど、やるしかないよね。
ギリギリまで引きつけて…今だッ!
私が放った矢はモンスターの喉に突き刺さり、そのまま身体を貫き、羽毛を飛び散らせながら消滅していった。
「あともう一羽っ!」
「そちらは問題ありませんよ、わたしが対処いたします。…『アークシーカー』」
黄色いアーケイン・プロキシから放たれた雷光は、弧を描くような軌道で鳥モンスターを狙い、正確に貫いた。
「少し前まではソロの冒険者だったんですよ、わたし」
「…すごい、です」
私の課題は、はっきり見えていた。
地味だとか、乙張がないだとか。
けれど、多くの面接官が『魔法を使えないのか』と言っていた理由を理解できてしまった。
私の弓では、モンスターを一匹狙うだけでもギリギリだ。
もし魔法を使えれば、広い範囲を制圧することもできるうえ、一匹を狙い撃つこともできる。
「…魔法って…すごいんですね」
「どうかしましたか?」
「私は、自分が古代人みたいだなって思ってしまって」
「古代人って…根に持ってたのかよ」
「そういうわけじゃないです。…魔法と弓の大きな差を自覚しちゃいまして」
「チッ、諦めるのかよ?後ろに歩くのは苦手なんだろ?」
見上げたノクサラさんの瞳には、怒りの感情が宿っているのだと思った。
あの銀の瞳は私を見てくれているんだから、勝手に諦めるのは失礼だ。
「諦める、…わけないじゃないですか!ちょっと感傷に浸っていただけですよ!」
「バーカ」
「あっ、そういう物言いはよくないですよ!」
ノクサラさんに不服を伝えながら、私はアザレアさんに向き直る。
「…でも、アザレアさんのおかげで現実は知れました、ありがとうございます」
「えっ?お礼を言われるのですか?…ちょっと反応に困ってしまうのですけど」
「私は魔力を練るのが苦手です。…生活魔法がかろうじて使えるくらいで、走りながら魔法を使おうと思ったら暴発させかねません。…だから、魔法の道に移ることはできないんです。けれど、魔法を間近で見ることで、魔法にはない利点を見出すことはできるかもしれませんし、弓矢の新たな強みを作り出すことができるかもしれません!」
アザレアさんの瞳は橙色で、お日様のような雰囲気がある。
ほんのりと困惑の色が見えるけど、私の思いを伝えてしまおう。
「私はアザレアさんをよく見たいので、もっと見せてくださいね!」
「は、はいぃ〜…」
「そうと決まったら、ガンガン進んで、どんどん強いモンスターを倒しましょう!目指せスター冒険者です!」
「…心配して損した」
「…破壊力が、すごいですね…」
私は一足先に飛び出して、草に擬態しているヴァーダントトードを仕留める。
冒険の再開だ。
―――
上からのモンスター、名前はダイブウィングというらしい。
それらの対処をアザレアさんに任せられるなら、段丘湿地エリアも、さほど難しくは感じない。
基本的には私が離れすぎない程度に駆け回り、処理できる範囲のヴァーダントトードの対処を行って、ダイブウィングが迫り来たら、合流をしつつアザレアさんに協力をする。
石林エリアで行ったノクサラさんとの連携に近く、事前の経験が生かされている気がした。
一方ノクサラさんは、私の狩り残しや、アザレアさんに接近するヴァーダントトードの相手をしてくれており、私が自由に駆け回れる土台を作ってくれている。
アザレアさんがアークシーカーで一匹のダイブウィングを消滅させ、私が最後の一匹を撃ち落としたところで、戦闘は一旦終わりを見せる。
「小屋が見つかりませんね」
「そこそこ離れてたけど、見つからなかったのか?」
「はい。谷の左右に段丘地形ができているじゃないですか」
「そうだな」
「谷そのものが蛇行していて、視界が優れないんですよ。ちょっと先まで行ったら、二又に分かれちゃってますし」
「結構面倒なエリアに踏み入っちゃいましたね。今の時間は…十七時ですし、高山エリアに戻った場合は遅い時間の帰還になってしまいます。進むも戻るも悩みどころです」
「ゲートって丸一日開放されているんですか?」
「そうですよ。夜勤のときは大変でして」
出る前に閉じられてしまっては困るので、ゲートは一日中運営する必要があるのは当然かもしれないけれど、職員さんたちは大変だ。
「お勤めご苦労様でした」
「ありがとうございます」
私とアザレアさんが話をしていると、ノクサラさんは頷いてから口を開く。
「ここまでの道は一本道だった。正直、同じ道を何時間も通りたくないから、帰りが遅くなろうとも、進もう」
「はーい」
「かしこまりました」
歩き始めてから一時間ほど。
私たちは出入口である小屋を見つけたのだが、もう一つの発見をすることとなる。
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