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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
烏銀に映るもの

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12話 段丘湿地エリア 1

 段丘湿地だんきゅうしっちエリア。

 初めて足を踏み入れた感想は、水田の畦道あぜみちを歩いている時の気分であった。

 点在する池や水溜りさえ避けてしまえば、鹿体の腹を撫でるか撫でない程度の草が生えているだけの、少し足元が緩やかな草原のようだ。


「思ったよりも動けそうですね」

「ああ、動く分には問題ない。…ただ現在時刻は十四時ちょっと、あまり長時間の活動をしたくないが、小屋を探すのは一苦労しそうだ」

「私が走り回って確認しましょうか?」

「おすすめはできませんよ。段丘湿地エリアに関する知識の蓄積が、わたしとノクサラにありませんから、慎重に歩みを進めましょう」


 冒険者の多くは、歩きやすい場所や戦いやすい場所を選んで歩みを進めるらしい。

 段丘湿地エリアは、足場の悪い湿地に加えて、高低差のある段丘が重なった地形である。

 多くの冒険者が不得意とする場所のようだ。


「どちらかといえば問題は、頭上の方々でしょうか?」


 アザレアさんが指摘したのは、高所を高速で飛び回っている鳥系のモンスターだ。

 かなりの飛行速度を維持しており、地上からの射撃で倒すことは難しい。


「尾の形的にツバメでしょうか?」

「知ってる鳥か?」

「はい。ものすごい速さで飛び回っている鳥が故郷にいまして、尾の形がそっくりなんですよ。あれらはモンスターですので、特性が当てはまるかはわかりませんが―――うわっ、何か来ますよ!」


 のんびりとツバメについて話していると、視界の端で草の塊が動き、私たちに向かって飛んでくる。


 油断をしていた、矢は手になく箙から引き抜く余裕もない。

 咄嗟の判断で、飛び掛かってきたモンスターに背中を向けた私は、後ろ蹴りを繰り出そうと試みたのだが、それが何かを捉えることはなかった。


「チッ、いきなり出てきやがって」

「『フレイムバースト』!!」


 何が起こったのかは分からなかったが、ゆっくり振り返ると離れた場所で大きなカエルが消滅し始めている。

 どうやらノクサラさんとアザレアさんが対処してくれたようだ。


「大丈夫かコハク」

「はい、後ろ足が空振っただけですし。いやぁ…油断してました、すみません」

「いいよ別に」

「お互いに補い合えるのがパーティですよ、コハクさん」

「…ありがとうございます」


 それにしても恥ずかしい。

 咄嗟のこととはいえ、後ろ蹴りをしようだなんて、…驚いた子供みたいだ。ノクサラさんとアザレアさんから幻滅されてないといいんだけど。


 表情を伺ってみると、二人とも不思議そうに首を傾げているだけで、幻滅しているようには見えない。


「顔真っ赤にして、どうした?」

「助けられることは恥ずかしいことではありませんよ?」


 種族や文化の違いからか、二人はよくわかっていないらしい。

 このまま何もなかったかのように振る舞っても、二人は何も言わない気がするけど、隠し事というのは面白くないし、公平じゃない気がする。

 恥ずかしいけど、しっかりと伝えておこう。


「その…驚いて後ろ蹴りをしちゃうのは、子供っぽいことなので、恥ずかしくって。しかも当たりもしませんでしたし」

「あー、エラフォロスってそういうのが恥ずかしい感じ?」

「そうなります…」

「感覚がよくわかんねえが、よく見えなかったしいいんじゃねえの?」

「わたしは敵の方に集中しておりまして、残念ながら見えていません。……残念ながら」


 フォローされたことで余計に恥ずかしくなってしまい、私は草に身を隠そうとしゃがみ込む。


―――


「さあ、気を取り直しましょうか」

「…お、おう」

「そうですね」


 顔の熱が引いた私は、一つの事実に気がつく。


「モンスターが二種類もいるエリアなんて、あるんですね」

「エリアいちからほど近い場所だって考えりゃ珍しいかもしれないが、一つ先のエリアからはそれが普通になってくるんだ。一足先に経験できた感じだな」

「そうだったんですね。となると…上空の鳥モンスターと、草に擬態している大カエルの両方を意識して進まないといけないということですか」

「そうなります。モンスターの種類が増えてくると、それだけ対処の数が必要となりますから、パーティを組む理由が自然と生まれてくるわけですね」

「なるほどー」


 今後は、いくつかの相手を同時に理解して戦う必要があるようだ。

 得意なモンスターだけなら私一人でも対処できるかもしれない。だけど、苦手な相手が交じり始めたら、得意な相手にも苦戦する可能性がある。


「とりあえず…上の奴らがどういうのか分かるまでは、ヴァーダントトードを蹴散らしながら進むぞ」

「はーい」


 あの大カエルはヴァーダントトードというらしい。

 湿地のあちこちに視線を向けながら、ヴァーダントトードを探してみれば、ひょっこりと顔を出している姿が確認できる。

 いると分かれば簡単だが、そうなる前に、不意打ちで退場させられることもあるのだろう。厄介な相手だ。


 動き自体は少なく、潜んでいる性質のため、見つけ出せれば確実な処理ができる。

 近づかれても、ノクサラさんの徒手空拳や、アザレアさんの魔法がある。

 私たちは、安定した立ち回りで進んでいく。


 そんな折、風を切り裂くような音と共に、上空のモンスターが動き出した。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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