10話 三人パーティ 4
山を登りきり、稜線に到達した私とアザレアさんは、石林の端に佇むノクサラさんを見つける。
「それじゃあノクサラさんの許まで滑空していってください。私は陸路を進みますので、三人で合流しましょう」
「かしこまりました」
「そうそう、風が強いので気をつけてくださいね」
「うふふっ、それくらいなら問題ありませんよ」
アザレアさんはウインクをし、助走をつけて稜線を飛び越え、背中に空いた服の穴から、美しいガラスのような翼を広げて滑空していく。
てっきり鳥のように、身体を倒して飛ぶのかと思っていたのだが、身体は立てたままで両翼を広げ優雅に空を散歩するように進んでいった。
意外と速度がある。
前みたいにゆっくりと降りた場合、二人を待たせてしまうかもしれない。
山肌を降りるのは得意じゃないけど、…できないことではないし、さっさと下りちゃおう。
急ぐといっても、やはり真っすぐに下ることは難しい。
走りながら九十九折で高度を下げていく。
身体で風を切り、二つ割れの蹄で土と石を蹴散らす。誰にも構わず走り抜けるのはとても気持ちいい。
「きゃあっ!?」
私の背を押すほどの強風が吹き荒れると、頭上からアザレアさんの悲鳴が聞こえてくる。
急いで頭を上げて、空のアザレアさんを探してみれば、航行ルートから随分と離れた位置で、慌てふためいていた。
「アザレアさーん!!着地場所の調整ってできそうですか?!」
「わ、わわ、わかりません!?うわぁぁああ?!」
滑空のための翼が風の煽りを受け、アザレアさんの身体は右に左に揺れてしまっている。
…ルーシッド・エデンで死んでも退出させられるだけだ。丸一日の再入場制限はあるけど、明後日には合流できるだろう。
それでも私は、私の身体は自然と動いていた。
「ノクサラさーん!アザレアさんがピンチなので追いかけます!!着地点で合流しましょう!!」
返事はないが、ノクサラさんが走り出したことを確認し、私は視線をアザレアさんに戻す。
―――
アザレアさんの動きは風で遊ばれる布のようなものだ。矢の弾道と違って風の影響を測れない。
先回りできないもどかしさと、足元を確認し続けられない不安感を胸に、私は山肌を進み続ける。
「ああ、もう!クラッグホーンめ!」
前方には二匹のクラッグホーンが待ち構えており、それらの対処をしないままにはできない。
箙から二本の矢を取り出した私は、その一本を番えながら正面に射てるように身体を捻り、弦から指を離す。
一匹目のクラッグホーンの頭蓋を射抜けたものの、もう一匹の対処までに二の矢は間に合わない。
それほどに、私の足が速いのだ。
弓に矢を番えた私は、意図的に重心を前にずらしながら、後ろ足で強烈な跳躍力を放つ。
クラッグホーンの脇をすり抜けた私は、前足が地面に触れた瞬間にわずかばかりの溜めを作ってから、宙返りする。
天と地がひっくり返る視界。その中でクラッグホーンの頭蓋を射ち抜ける瞬間は一度あるかどうかだ。
それでも私にできないことではない。
…矢の道は、自然と見つけ出すことができた。
やはり、私にとってできないことではない。
弦が矢を押し出す音を聞きながら回転に身を任せ、私は再びアザレアさんを追っていく。
「あんなのの相手をしている間に、アザレアさんが!」
アザレアさんとの距離はもちろん離れていた。それに加えて、高度もずいぶんと落ちている。
このまま走って助けられるかどうかは分からないけど、助けられるのは私しかいない。
どうしたらいい。
距離を詰めるのなら速度は必須だ。
私の記憶に呼び起こされるのは、急加速を連続使用するノクサラさんの姿だ。
ルーシッド・エデンの外でも使えていたことを考慮すれば、武技ではないのだろう。
萌芽させる必要がないのなら、私にも使える可能性はある。
アントロポスとエラフォロスでは身体の構造が違いすぎる。見様見真似で同じことをするのは難しいはず。
だから私流に応用して作り出そう。
エラフォロスの足での跳躍は、高さと幅を確保するものだ。危険な敵から逃げるため、生き残るための力。
だけどそれはあくまで昔のもの。
今はアザレアさんのために使いたい。
今の私は放たれた矢だ。
高さを捨てた跳躍で、加速力と距離だけを確保しよう。
「いっけえ!!」
恐怖すら覚える加速移動を行えた私は、アザレアさんと地面の間に身体を割り込ませ、両腕で彼女を掴むことができた。
その代わりに体勢は崩れ、二人して地面を転がることになったが。
「あははー…大丈夫ですか、アザレアさん?」
「あ、ありがとうございます…。その、ここまでなさってもらわなくとも、二四時間の猶予を空けてから合流すればよかったのではありませんか?」
「自然と身体が動いちゃったんです、見捨てたくなくって」
「…っ!…ありがとうございます」
二度目のお礼は尻すぼみな声量で、最後までは聞き取れなかったが、私の胸にはアザレアさんを守れたという達成感が込み上げてくる。
「そのぉ…助けてもらった立場的に言い出しにくいのですが、わたしのお尻から顔を離してもらえませんか?…くすぐったくて」
「え?」
「あふんっ」
私は、寝そべる形のアザレアさんのお尻に頭を置いていたらしい。
「そこはお腹でっ、ちょっ」
「す、すみません!?」
急いで離れようとしたのだが、腕が彼女の下にあり、藻掻けば藻掻くほどに身体が触れ合ってしまい、お互いによくわからない動きを続け、呆れた表情のノクサラさんに助けてもらうことになった。
「何やってんだよ…マジで」
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。
26話と同じ内容を掲載しておりました。申し訳ございません。




