9話 追うもの 3
石鎧の剥がれた胴体に矢を当てた場合、私はペトロボアを倒し切ることができなかった。
しかし、その後に石鎧の剥がれた頭部のみを狙った場合は、六射で倒し切ることができた。
あくまで、矢で矢を狙わない、頭部のみに当てる射撃でだ。
「うーん…弓矢って圧倒的に使い手が少ないからよくわからないんだが、もしかしたら弓矢の特徴なのかもしれん」
「ノクサラさんでも、わからないことってあるんですね」
「アタシは万能じゃねえよ。まぁ…それか、いやないか」
「?」
「ルーシッド・エデンっていうのは特殊な環境だ。その代表格は武技だろ?」
「そうですね、外では使えませんし」
「んでな、たまにだが変な力を得る冒険者もいる。特殊な感覚を発現させたり、魔法でも武技でもない力を発現させたり。異能やアノマリーとかいう代物だ」
「おぉ、カッコいいですね」
「…ただまあ、三日そこらで現れるとは思えないし、弓と矢の特性かもしれないな」
「そういうものなんですね」
アノマリー。
そういった力があるのなら、私のアピールに繋がるかもしれないけど、『頭に命中させると倒しやすい』なんて力じゃ地味だ。
「ペトロボア以外でも試していいですか?」
「そうしろ。今後の動き方にも関わってくる」
頭を狙うのは得意だ、犬追物の的を狙うのとさほど変わらないから。
けれど頭だけとなると話は別だ。
せめて首とかも有効ならいいんだけど。
それから私たちは石林エリアの探索をしながら次のエリアを目指したが、エリアそのものが広大で、結局引き返すことになってしまった。
―――
私たちは第六ゲートのエントランスで一息つく。
エントランスに戻ってきたノクサラさんは、周囲を窺うようにしていて、少し落ち着きがない。
理由はわからないけど、雑談でもすれば少しは気が紛れるだろうか。
「いやぁ、広かったですね」
「基本的にエリア一から遠ざかるほど、エリアは広くて、数が多くなる。真ん中に点を置いて、いくつかの円を描いてみろ」
「こうですか」
「そう。一、五、十八って外に向かうルートを進んでるんだが、この第三円あたりからはエリアの広さが顕著になるんだ」
「なるほど。数字はどういう基準なんですか?」
「出入口の小屋が発見された順番だ。アタシたちのルートは他の冒険者が行きたがらない面倒な場所でな、未踏破の可能性すらある」
「おぉ!名前を上げるチャンスってことですね!」
「スコア効率が良くっても、道中が面倒なら人は行かない。あんまり期待しすぎないことだ」
「そうですか」
私は冒険者証明書を取り出し、スコアを確認する。
ペトロボアのスコアは四〇。
ノクサラさんと一緒に対処しているから、半分ずつ加算されていき、今日の累計は三〇〇ほど。
初日や二日目と比べたら多めの金額だ。
それでも一日の生活費としては少ないのかもしれない。
私は宿代も食費も、宿屋『ジェルブ・ドール』のご厚意で安くしてもらっているけど、ノクサラさんにはノクサラさんの生活がある。
「明日には次のエリアに行きたいですね」
「んだな。ボス級なんかがいれば実入りもよくなるし、コハクも色々と学べるだろ」
ノクサラさんはすっごい親切だ。
冒険者を初めて三日の新米で、嫌っている『銀眼』のシュタールに憧れているような、本来は反りの合わない相手のはず。
「昨日今日とありがとうございます」
「…何だよ急に」
「お礼はしっかりとお伝えしたいなって思いまして。それで―――」
なんで親切にしてくれるのか、そう問おうとしたとき、私の背後から声が投げつけられる。
「よう、『落ち目』のシュタール。『シュトラーレンゾンネ』を飛び出したと思ったら、こんなところにいるとはな」
「…チッ」
それは悪意のある言葉だとすぐに理解できた。
そして、『落ち目』のシュタールと呼ばれたのが、ノクサラさんだとも理解できてしまった。
見上げたノクサラさんの表情はひどく曇ったもので、眉間にシワを寄せて怒りをも露わにしている。
私はノクサラさんと出会ってまだ時間が経っていないが、誹りを受けたことを黙っていることなどできない。
身体が自然と動き、ノクサラさんとの間に立ちはだかって睨みつける。
「…ノクサラさんになんの用ですか?」
「あ?ヒッポフォロスのガキはお呼びじゃねえよ。…いや、ノクサラって名前を知ってるってことは、パーティでも組んでんのか?」
「そうです、ノクサラさんは私のパーティメンバーですから、誹謗するつもりなら許しません!」
「ハッ!こんなチビガキと組むなんて、本当に落ち目じゃねえの!アッハッハッハ!!」
意地の悪い人間種は、私を見下して手を打ち鳴らしながら大笑いする。
全身に豪奢な装飾品をやたらめったらに身にまとった、キンキラの男。成金というやつだろうか。
「一人娘がこんなんじゃクランリーダーも可哀想ってもんだろう。ライバーに向いてなかったからって、ガキに太鼓持ちさせてただの冒険者なんてさ!『銀眼』は三代目にして、曇っちまっ―――」
「―――黙れ」
腕鎧を脱ぎ捨てたノクサラさんは、目にも留まらぬ速さでキンキラ男の顔を鷲掴みにし、逃げる間もなく足が浮くほど持ち上げてしまう。
「アタシのことをいうのもクソだが、親父や爺さん、…周りの奴にまで悪評を言うってんなら、二度と配信に顔を出せないようにしてやる。…言い残すことはあるか?」
「―――!!―――!!」
口を覆われて返答ができないキンキラ男は、手足をバタつかせて抵抗を試みるのだが、どんどんとその動きは弱くなっていく。
「ノクサラさん!それ以上はダメですよ!死んじゃいます!」
「知ったことか」
ノクサラさんはキンキラ男を放り投げ、足早に第六ゲートを去っていく。
知らなくちゃいけないことはたくさんある。それでも私は、彼女の背中を追いかけることにした。
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