9話 追うもの 1
私がペトロボアをノクサラさんに誘導すると、軽々と片手で相手を制し、止めを刺す。
しっかりとした身体をしていることは確かなのだが、それでもペトロボアの巨体の対処ができるのだろうか。
そういったことを可能にするのは武技の力だと思うが、攻撃を受けた瞬間には使っている素振りがない。
なら考えられることは…。
「腕と脚の鎧に波模様が浮かんでますけど、それって武技なんですか?」
「ヴァッサーフェアツァウベルンのことなら、一応そうだ。…一般化されている技術じゃないから、定まった名称もないんだが、マジックアーツとでも言ったほうが正しいかもしれないな」
「マジックアーツ。それがあれば、私もすんごい力で弓を引いたり、跳躍力を上げたりできるんですか?」
「あーいや、そういう便利な力じゃない、それは伝えておく。…触ってみろ」
私の前に向けられた腕鎧をよく観察すると、揺らめく波模様とは別に、うっすらと水の膜のような層が確認できる。
「これは…いや、余計な話はいい。使用者の体質に刻まれた属性を、武器に紐付けることで一定の特性を得る技術だ。分かりやすい言葉にすると、属性付与とか属性転用っていったところか」
「なるほど…?うーんと、ノクサラさんは波の属性っていうのを身体に宿していて、それを腕と脚の鎧でも共有している的な感じでしょうか?」
「まあそんな感じ。体質属性っていうのは新し目の分野だから詳しくは知らんが、アタシの属性は水ってことらしい」
「どういう特性があるんですか?」
「アタシのは、外部からの衝撃を受け流しつつ、受け流した分の力を活用できるって特性だ。ペトロボアみたいな破壊力抜群の相手なら、その分だけ強い反撃ができるんだよ」
「となると、あんまり疲れさせない方が、都合が良かったりしますか?」
「いや、受け流しも活用も限度がある。ヴァッサーフェアツァウベルンの特性を活用すればするだけ、アタシには疲労が溜まるし、魔力も削れていく。コハクの誘導と、相手への疲労の蓄積はアタシの助けにもなってたよ」
私が胸を撫で下ろすと、ノクサラさんはわずかに口端を持ち上げる。
パーティとしての連携がしっかりできていると感じた私も、嬉しさが胸の奥底から湧き上がり、自然と尻尾が揺れてしまう。
「お手軽に強い便利な武技じゃないということは理解したんですけど、私の属性を判別したりはできますか?」
「アタシじゃ無理だ。色々と…最新鋭の魔導具が必要になる。あんま気にしなくていい」
「そうですか」
ノクサラさんは、そういった魔導具の揃っているクランやパーティに所属しているのだろうか。それとも所属していたのか。
煙たがられてしまいそうだから聞けないけど、そういった魔導具とかが揃っている場所は憧れるし、もし私ならと考えてしまう。
いや、今の私じゃ環境が変わっても、一足飛びに進むことはできない気がする。
そもそも、目指しているスター冒険者と、現実に求められるライバー冒険者では大きなズレがあるのだから、運よくどこかに所属していても、誰からも見られないまま埋もれてしまったかもしれない。
まずはノクサラさんの言うことを聞いて、目指すべき道をしっかりと見定めよう。
「ノクサラさん。私、頑張りますので、ちゃんと見ててくださいね!」
「え?あー、ああ?見とくよ」
目指していた姿とは別の道を進まなくてはいけない。
無鉄砲で無知なままではいられない。
変化することに一抹の不安はあるけれど、私が夢を追いかけるという事実は変わらない。
色んな人の記憶に残り続けるスター冒険者になるんだ。
―――
「それじゃあ、ペトロボアの動きにも慣れてきたと思うから、コハク一人で狩ってみろ」
「できますかねえ?」
「なんとなく戦い方は掴んでるんじゃねえの?」
「弱らせ方というか、疲弊させ方なら何回か戦って覚えましたけど。決定打に欠けてまして」
「あんまりヒントを与えすぎると意味がなくなるんだが、まあペトロボアくらいなら舐めてかかるくらいでちょうどいい」
あの巨体を舐めてかかる。それくらいじゃないと、今後は厳しくなるということだろうか。
失敗しても、丸一日休むだけと考えれば、挑戦すること自体は悪くないのかもしれない。
「やってみます」
「ヤバくなりそうだったら、アタシが横から叩き潰すだけだから、安心して挑め」
「はい。…一応ですけど、周囲の地形を覚えたりっていう事前準備はしてもいいですか?」
「構わんぞ」
持ちうるものでペトロボアに挑む。
特に禁じられていないけど、啄鎧矢を使ってしまったら意味がないはず。
やれるだけのことをやってみるしかない。
私は矢筒から箙に矢を移してから、ペトロボアを探しに駆け出す。
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