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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
パラデイソポリスの迷い鹿

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8話 『落ち目』

 アタシたちがロビーに戻った頃には、時刻が既に昼過ぎになっていた。

 冒険者稼業をしていりゃ珍しいことでもなんでもないのだが、腹の虫を鳴らすコハクのことを考えると、規則正しく行動したほうがいいのかもしれない。

 難しいことではあるが。


「席は、…ヒッポフォロス用の場所を使ったほうがいいか」

「そうしてもらえると助かります。二足種族用の椅子に座るのは難しいので」


 第六ゲートにはヒッポフォロス用の設備が揃っている。

 『パラデイソポリスはブレオンヌ帝国の支援を受けて建国された』なんて話は有名であり、そこそこに優遇されている部類だ。

 ヒッポフォロス用の窓口もだが、ラウンジの一角も彼らが使いやすいように、机や椅子が設置されている。


「アタシはなんか買ってくるけど、コハクはどうする?」

「私はお弁当を作ってもらったので大丈夫です。あっでも、お水が欲しいのでご一緒します」

「水くらいアタシが持ってきてやるよ、先に食ってて」

「わかりました」


 ラウンジの一角には、弁当を販売する売店や、簡単な調理をしてくれる飯屋がいくつか並んでおり、冒険者は安価にそれらを購入できる。


 待たせても悪いし、売店で済ましちまおう。

 サラダと肉、あとは果物でもあれば十分だ。あとは二人分の水を受け取れて戻るだけ。


「アレって『落ち目』のシュタールじゃね?」

「銀眼の孫だろ?『銀眼』が設立したクラン『シュトラーレンゾンネ』を辞めさせられたってホントなのか?」

「知らねぇ〜。でもまあ家族が優秀でも、本人が優秀とは限らんわな」

「あっはっは、ひでえの」


「…チッ」


「ヤベ、聞かれてたっぽいわ」

「さっさと行こうぜ」


 クソくらえ。

 あんなクラン、アタシの方から辞めてやったんだよ、バカが。


 どこまで行っても過去や血縁はアタシに付きまとう。

 第二ゲートから離れた第六ゲートなら、元クランメンバーに会うことはないが、余計な噂ばかり広まってやがる。

 『落ち目』のシュタール。こんなクソったれな名前をコハクに聞かれたら、幻滅されるんだろうな。


 アタシが食事を持って机に戻ると、コハクは弁当を広げて行儀よく待っていた。

 先に食ってていいって言ったのに、律儀な奴だ。


「はい、水」

「ありがとうございます。…何かありましたか?」

「…なんで?」

「いえ、なんとなく。初めて会ったときみたいだなって」

「……なんもねえよ」


 突っ放した受け答えをすると、コハクは詮索をやめる。触れられたくないことが多いアタシからすると、助かる性分だ。


 ヒッポフォロス用の椅子は、二足種族用の椅子と比べるとクッションがしっかりしている気がする。

 馬体の腹を乗せることを考えると、自然とこうなるんだろうな。


 アタシがサラダを食べ始めると、コハクは不思議そうにしており、小さな口をゆっくりと開いた。


「それで、足りるんですか?」

「足りるが。……コハクの弁当多くないか?それを一人で食うのか?」


 コハクの目の前に並べられている弁当箱を覗くと三箱ある。

 一箱目は拳ほどの芋が二つ。

 二箱目はぎっしりと詰められたサラダ。

 そして最後は鶏肉が二枚とゆで卵が収まっている。


「はい、これで一食です。女将さんが作ってくれて、とっても美味しいんですよ」

「そうか。見た目によらず、結構食べる種族なんだな。コハクって」

「実家でもこれくらいが普通だったんで、むしろノクサラさんが心配です」

「心配されても困る」


 鹿体がある分、身長が一五五バシス(155センチ)くらいでも、あんだけの量を食べる必要があるってことだな。

 なんつうか、コハク自身もだけど、エラフォロスのことをなんも知らねえんだな…。

 そもそも、エラフォロスって種族自体、パラデイソポリスじゃあ稀だが。


 アタシはさっさと食事を終えて、食器を片付けてきたのだが、コハクは小さな口を必死に動かして食事を続けていた。

 先に食べてりゃよかったのに。


 食後の休みもとったアタシたちは、エリア十八から再び冒険を再開する。

 クランやパーティ、今まではうんざりする関係だったものが、コハクにはない、そう思えた。

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