7話 稜線を越えて 5
石林エリアは、柱のような背の高い岩が無数に点在しているエリアであり、ところどころで視界が遮られがち、動きにくい場所なのだろう。
「おっと、危ないよ」
私が蹄を石柱に引っ掛けて登ってみると、ペトロボアは勢いよく石柱に顔から突っ込み、勢いが殺されたうえで、石鎧の一部が剥がれ落ちる。
石柱を蹴って地面に下りた私は、ペトロボアの石鎧が剥がれ剛毛が露わになった部位へ狙いをつけ、弦から指を離して矢を放つ。
しっかりと命中した矢は、ペトロボアに刺さったものの、やはり身体の大きさ的に致命打にはならず、私を睨めつけて走り出した。
足元の小石を巻き上げるように全力で走り抜け、目指した先はノクサラさんの待つ場所。
何度か石柱を迂回するようにジグザグに走り回れば、ペトロボアはその度に身体を打ちつけ、石鎧を脱ぎ去っていく。
このエリア内なら私でも倒せたりするのかな?
そんなことを考えていると、呆れ顔のノクサラさんと視線が交じる。
「行きます!」
「おう!」
私は全身全霊のジャンプをし、ノクサラさんの頭上一バシスほどの高さで飛び抜けると、武技を使用する声が聞こえた。
「…『ヴァッサーフェアツァウベルン』」
蹄で地面をひっかきながら勢いを殺して、ノクサラさんを視界に収めようと身体を反転させると、彼女の纏う、腕と脚の限定的な鎧には、揺らめく波模様が浮かび上がっていた。
腕を頭の高さまで持ち上げたノクサラさんは、ペトロボアと肉薄した瞬間に拳を振り落とす。
「『ファルベッケンシュトース』!!」
拳はペトロボアの脳天を力いっぱい叩いたようで、頭部に残っていた石鎧は四方八方に砕け飛んでいき、ペトロボア自体も頭を地面にめり込ませるほどだ。
そして一度だけ呼吸が吐き出され、片足を軸に身体を捻ったノクサラさんは、長い脚を鞭のようにしならせた回転蹴りでペトロボアを吹き飛ばし、石柱に命中させて倒してしまった。
「おぉー…ノクサラさんってとっても強いんですね。それに派手派手でカッコいいじゃないですか!」
「暴力的で野蛮なんだと、アタシの戦い方はさ」
「誰ですかそんなことを言った人は、私はノクサラさんの力強い戦い方をカッコいいと思いますし、分かりやすく戦っていて憧れちゃいます」
「変なのに憧れんなって」
ノクサラさんはバツの悪そうな表情を浮かべながら、顔を背けてしまった。
「ところで先ほど教えてもらった乙張なんですけど、拳をゆっくりと持ち上げたところが、これから攻撃をしますっていうアピールなんですか?」
「ああ、そうだ。蹴りの前もそういう間を作っている」
「なるほど」
ちょっとばかり動き回った私は、足を止めてから弓を引き、矢を放つフリをする。
「ダメですね。隙が増えますし、リズムが崩れちゃいます」
「コハクの強みがなくなるし、結局地味だぞ」
「むぅ、難しいですね」
「なんつーか、コハクは実戦に向きすぎてるんだよ。相手を殺すことに関しては一級かもしれんが、技術を魅せるように育てられてないというか」
「…犬追物っていう催しでは、皆さんたくさんの拍手をしてくれたんですよ」
年に二度ある神様に芸事をお供えする神事で、私は犬追物に参加していた。
郷守様や不語仙郷の偉い人たち、付き添いできてくれた家族は、割れんばかりの拍手をしてくれていたのだ。
ちょっとした自慢である。
「犬追物ってのは?」
「的を背負った動物を追って、傷つけずに射抜く芸事です。七年間で一度も傷をつけずに、神様へのお供えができました」
「そういうのはアレだ。…見栄えより、狙いの精密さや緊張に潰されないっていう、技術と度胸が見られているのであって配信とは別物なんだろな。直接見てるわけじゃないから、断言はできないが」
「そういうものなんですね…残念です」
「大勢に見られていて、失敗しないってのは強みだろうから、忘れないようにな」
「はいっ」
「それじゃあ、ペトロボアを叩きながら小屋を探すか。そろそろ昼食にしたい」
「もうそんな時間ですか?」
「ああ」
ノクサラさんが取り出した時計の魔導具は、お昼を示している。
「気がついたら、急にお腹が減ってきた気がします」
「ルーシッド・エデンでのアタシたちは魔導体だ。意識しないとそういった感覚が希薄になっちまう、気をつけろよ」
「わかりました」
余裕ができたら、私も時計を買おうかな。
ペトロボアを疲弊させながら誘導し、ノクサラさんがとどめを刺すといった連携で順調に足を進め、エリア十八の小屋を見つけることができた。
ノクサラさんとの連携を意識した戦闘で、私は一歩進めた気がする。
自惚れじゃないといいな。
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