7話 稜線を越えて 2
本日のスタート地点はエリア五。
二本角の山羊こと、クラッグホーンが主なモンスターとなる高山エリアだ。
ノクサラさん曰く、ルーシッド・エデンはエリア一を起点に四方八方へ果てなく続いており、モンスターの種類や景観が変化することで、別のエリアになるらしい。
各エリアごとにゲートに繋がる小屋があり、昨日の私たちは山肌に建てられた小屋を使って、ルーシッド・エデンから退出したのだ。
「今日はどうします?このまま真っすぐに稜線を目指しましょうか?」
「リョウセン?」
「山頂と山頂を繋ぐ、山の折れ目のことです」
「へぇ…。そうだな、そっから下を一望して、動きやすそうな場所に行こう」
「わかりました」
出発する前、私は登ってきた斜面を見下ろすために振り返る。
山林エリアを下った先には広い平原があり、そこでは多くの冒険者たちがモンスターとの戦闘を繰り広げていた。
モンスターに対して冒険者の数が多く、のびのび戦うことは難しいのだろう。山を登ったのは正解だったのかもしれない。
「なんかあったか?」
「下の方は冒険者が多いなって思いまして」
「平地の方が戦いやすいから、だいたいのやつは下に向かうんだよ」
「そうなんですね」
「コハクにはあんま関係なさそうだけど」
「楽かどうかなら平地の方が楽ですよ。私の強みを活かせるかと聞かれたら、首を横に振らなくっちゃいけませんが」
私が視線を戻し歩き出そうとすると、ノクサラさんは魔導具のようなものを取り出し、首を傾げながらいじっていた。
「なぁ、コハクって魔導具に強かったりしないか?」
「めちゃくちゃ苦手です。泊まっている宿の厨房すらよく分かってないくらいでして」
「えぇ…今までどうやって生きてきたんだよ」
「私の村はあんまり魔導具に頼っていなくて、生活魔法と人力で生活してます」
「え、もしかして、野生生物を追いかけて、それ食べて生活してたりすんの?」
「はい、狩猟の日もありますよ」
「マジか、古代人じゃん」
「さすがにそれはひどくないですか?」
「悪い。…まあでも、牧歌的っていうの、そういうのは大変そうだし」
魔導具で便利な生活に慣れている人には、大変に見えるのかもしれない。山を自由に駆け回れたり、小川で釣りができたり楽しいんだけどね。
そこら中に虫はいるけど。
「ところでそれは、…なんの魔導具なんですか?」
「ファミリオグラフ、まあ撮影用の使い魔型魔導具なんだけど、…昔に買ったまま使ってなくってさ」
「撮影用の魔導具なんですか!おぉ、おお!」
「飛び跳ねるな、気が散る」
「ごめんなさい。…ノクサラさんもライバーを目指してるんですか?」
「…そんなんじゃねえよ。それにこれは古い型だ、配信用じゃなくて撮影用、最近流行りのリアルタイム配信はできない」
「あー、なんか色々あるんですね」
「…スター冒険者になりたいって割には、何も知らんのな」
「恥ずかしながら、あっちこっちに面接に奔走していて、ほとんど勉強できていないんです。パラデイソポリスって、街そのものがとっても広いじゃないですか、往復と面接だけで一日が終わっちゃうんですよ」
「乗合の魔導力車に乗るのは、…微妙か」
乗車できないわけではない。…なんなら一度だけ乗ってみた。
魔導力車というのは、基本的に二足種族のために作られており、エラフォロスが腰を下ろせる座席はない。
そして、魔導力車の速度自体も、私よりちょっと速いかどうかといったところで、停留所に停まる時間を考えたら、到着が遅くなってしまう。
意外と不便な乗り物だった。
「…よし、動いた」
「おお!」
「とりあえずはコハクに追従させておくから、二〇分くらい、自由にクラッグホーンを狩ってみろ。他者からコハクがどう見えているのかがよく分かるぞ」
「わかりました!」
カッコよく撮ってもらおう。
「ファミリオグラフは気にするな、自然体で戦え」
「え、なんでですか?」
「まあいいから、後で分かる」
私はノクサラさんの言葉に頷いてから、箙に刺さった矢を一本引き抜き、クラッグホーン目掛けて走り出す。
すると、ぷかぷかと浮かんでいた、手のひらサイズの黒いお月様ことファミリオグラフは、私を追いかけて漂い出す。
…結構速く走っても、しっかりと追いかけてくれそうだ。
昨日の戦闘を思い出すと、首に矢を当ててもクラッグホーンは倒せず、もう一射を頭部に命中させる必要があった。
なら、最初から頭を射抜いた場合は倒せるのだろうか。
私は山肌を走りながら、こちらに向かってくるクラッグホーンの頭を狙い、着地と同時、腕に振動が伝わる前に弦から指を離して、クラッグホーンの頭を射抜いた。
すると、クラッグホーンは悲痛な叫びとともに転倒し、そのまま山肌を転がり落ちて消滅する。
よし、やれる。
クラッグホーンと共に転がっていった矢を回収し、次の獲物を探して私は高山エリアを駆け回りながら、稜線を目指す。
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