40話 最終マッチ 6
アタシの武技が、アタシだけの特別な武技じゃなくなったという空虚感が胸に染みを作る。
なんともまあ惨めじゃないか。
五〇歳手前で、既に全盛期など遠い昔のオッサンに武技を理解され、その武技がアタシを苦しめるなんて。
『シュトラーレンゾンネ』を抜けたことに後悔がないのかとジネストラが尋ねて、ジークヴィンは帰ってこないかと聞いた。
…もし戻ったとしても、アタシは惨めな思いをするだけだろう。
アタシは、誰かに求められるほどの実力者には成れないんだ。
勢いよく地面に叩きつけられ、バウンドした弾みに緑の天井と、その隙間から空が見える。
最終マッチで見る景色がこれとは、と感傷に浸っていると、白い髪とダークブラウンの瞳が視界に入りこんできた。
どんな状況でも夢に向かって進む、諦めが悪くて力強い、ダークブラウンの瞳だ。
「はっ!?」
「助けに来ましたよ、っと!」
「――ぬあっ!?」
「――うげあっ!?」
コハクはいつの間にかアタシと親父の間に入り込み、アタシを足蹴りすると同時に、親父にタックルを決めていた。
回る視界の中で、コハクは氷上を滑っていき、親父は情けない表情で吹き飛ばされていく。
いやまあ、コハクはアタシより重いし、その分タックルの威力はあるけど、成人男性を吹き飛ばせるのかよ。
「ホタビノ!テメェの相手は俺だろうが!?リーダーの戦いに、横槍を入れてんじゃねえよ!!」
「私たちはアローズなんで」
氷上を滑っていたコハクは、視線をジークヴィンに戻しながら、弓に矢を装填する。
ただし、弦を引きながら狙いはつけず。
「跳ね喰らえ『飛貪矢』!」
「それはもう見切っ―――はァ!?」
コハクの矢は地面を跳ね返り、ジークヴィンのくるぶしに命中し、足首を砕いた。
…コハクのことだ、執拗に弱点ばっかりを狙い続けたんだろうな。
どんな攻撃も弱点を狙われる。そう思い込まされたことを思うと、ジークヴィンも少し可哀想だ。
アタシは再び地面を転がるも、アザレアの茨によって受け止められ、一息つきながら体勢を整える。
「助かった」
「いえ。ですがどうしましょう、コハクさんも合流してしまいましたが」
アザレアはアタシに判断を問う。
武技を模倣され、失態を晒したとて、アザレアに落胆はされていない。
コハクがアタシを見る瞳も、軽蔑するようなものは感じられない。
…むしろ、立ち上がると確信している瞳だ。
心強いというか、なんというか…パーティを組むというのは大変だ。アタシを楽にはしてくれない。
「ははは、もう何でもいいや」
「また投げ遣りな…」
結局のところ、アタシが前を向くためだとか、アローズとして胸を張れるだとか、アタシがカッコつけてたって二人には関係ないんだ。
コハクとアザレアにとって、アタシは既にパーティメンバーなんだな。
「アザレアさん、ジークヴィンさんを囲んじゃってください!」
「承知しました!『ウッドウォール』!」
「コハク!そっちが終わったら、こっちも手伝ってくれ!」
「はいっ!」
今のコハクは『アローズ』のコハクだし、アタシだってそうだ。
バカ正直に親父とやり合う必要なんてないんだよ。
「『ウッドピラー』!!」
「クソ、『モントシュニット』!」
コハクがウッドピラーを発動すれば、目の前に木の柱が現れて、いつも通りに空へと跳び上がる。
足首を撃ち抜かれ機動力を失ったジークヴィンは、アザレアの魔法から逃れることはできず、限られた視界にモントシュニットを放つも、そこにコハクはいない。
器用にも蹄の足で木の壁にへばりつき、壁越しにジークヴィンを狙っている。
「ジークヴィン!壁越しに狙われている!上に二〇度ほどの位置だ!」
「ンだと!?『アウフブリッツ』!!」
初めて聞いた親父の大声、それに反応してジークヴィンがアウフブリッツを使用すると、コハクは木の壁を蹴り後ろ宙返りをしながら親父に弓を引く。
「跳ね喰らえ『飛貪矢』」
意図が理解できた。
最初からコハクの狙いは親父で、その詰めをアタシにやらせる気だったんだ。
縮地で親父との距離を詰めようと向き直れば、視線がかち合う。
コハクの武技とはいえ矢の一本だ。親父なら軽く受け流し、アタシの縮地にも対処できるはずだ。
ここで必要なのは今までにないアプローチ。
電光石火でもできりゃ話は別だが、コハクやアコアみたいな化け物に、アタシはなれない。
アタシは縮地で親父との距離を詰め、武技を発動する。
「『シュラムシュトローム』!」
縮地の勢いのまま、足場を泥濘みに変えてやれば、泥が壁のように立ち上がり親父の視界を奪う。
アタシも地面を滑っているのだが、その最中にコハクの矢が真横に迫りきていたので、矢の先っぽをぶん殴る。
このバッタとかいう武技は、狙った場所まで跳ね返る矢だ。
泥に隠れた状態で軌道が変わりゃ、対処も難しいだろうよ。
「なにが!?」
親父の困惑する声。
今日一日、いやこの最終マッチだけで、親父の知らない姿を多く見れた気がする。
感慨深くはあるが、アタシは親父に勝ちたいんだ。
「悪いな、親父。こっちもマジなんだ―――」
「ぐっ」
全身に泥を受け、剣を持っていた腕には矢が刺さっている親父。その顔面に、アタシは武技をぶち込む。
「―――『シュトゥルツフルート』ォォ!!」
そう、最大威力の正拳突きだ。
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