40話 最終マッチ 7
アタシは、武技『シュトゥルツフルート』の反動で吹き飛ばされて、気を失っていたようだ。
風に揺れる緑の天井と、そこから時折顔を見せる青空を眺めていると、ジークヴィンの叫びが聞こえて跳ね起きる。
「はっ!呆けてる場合じゃねえ!!」
「多分、もう終わりましたよ」
「え?」
アザレアが指さした先には、木の壁の淵から中を見下ろすコハクの姿があった。
「壁を破壊される度に再生成し、相手がスタミナを温存するならコハクさんが攻撃、武技を使えなくなるまでそれを繰り返してまして。今、とどめのバッタを三回射ち込んだところです」
「えぇ…エグすぎないか?」
「…お相手の怒号が響き渡っていましたね」
同じことされたら、しばらく口を利かない自信があるし、閉所がトラウマにもなりそうだ。
「なんつーか…本格的にエンタメを学んでもらわないとな」
「これはこれでウケるのでは?」
「うーん…ジークヴィンって俺様系で熱心なリスナー多いからなぁ。変なアンチが湧いても困るんだよ」
「なるほど」
ジークヴィンの消滅を確認したようで、コハクは木の枝や幹を足場にして地上に降り、こちらに向かってくる。
「それじゃあ試合に勝ちにいきましょうか」
「おう」
「承知しました」
「ところでお二人は、どれくらいスタミナと魔力がありますか?私はスタミナが結構ギリギリなんですよね」
「アタシはそこそこ。十分に戦えるくらいにはある」
「わたしも問題ありませんよ」
「ではお二人を主軸にして、拠点に攻撃を仕掛けましょうか。…こちら『アローズ』のコハクです。森林エリアでラバンさん及びジークヴィンさんの二名を撃破し、これから紅陣営の拠点の攻略に向かいます。……はい、わかりました」
コハクは各方面の隊長に連絡をする。
「なんだって?」
「左右方面は、敵が十一人ずつで戦場が拮抗しているみたいで、今すぐの合流は難しいそうです」
「左右に十一人ですか」
「となると拠点防衛は一人で、防衛を担当しているのは」
「ジネストラさんですね」
アタシたちは移動しながら作戦を立てる。
―――
私、恋白は“単騎”で森を抜け、紅陣営の拠点に突撃を敢行する。
「ハッハッハ!我らの城を、最後の最後に攻めるのはコハクさんで、守りを敷くのは我輩とは!これは数奇な運命ということだな!」
「そうかもしれませんねっ!」
ジネストラさんは腰に佩いていた剣を左手に、短い杖状の魔導具を右手に握り、好戦的な瞳を私に向ける。
魔導弓のジネストラさんとは三度戦ったが、こっちの装備は初めてだ。
投稿されていた映像では、この組み合わせが多かったことを考えると、最も得意とする戦い方なのだろう。
「しかし…メンバーを犠牲にしたとしても、我らがクランリーダーとジークを倒し切るとは、キミたち『アローズ』への尊敬は止まないよ」
ノクサラさんとアザレアさんが健在のことを知らないらしい。
これは好都合。
私はジネストラさんの言葉を流しながら走り抜け、先んじて矢を射掛ける。
ジネストラさんは矢の軌道をしっかりと見極めてから、剣を振るって斬り落とす。
初手で足を狙ったのだが、見破られてしまった。
「ジークヴィンさんに、私のアノマリーのことを教えなかったんですか?」
「伝えてあるさ、“基本的”には頭や首を狙われると。…それに先の試合の決着は、アノマリーに左右されていなかった可能性があり、不確定なそれより経験談を伝えたまでだ」
「なるほど。…私のアノマリーは『弱点特効』、弱点であればどこでも威力が上がるんですよ」
「……氷釈したよ。プライム・ヴァーダントトード戦の映像に引っかかりを覚えていてね」
「もっというと、武技『啄鎧矢』には貫通能力と心臓特効があります」
「……。」
ジネストラさんの頬が引きつる。
「貫通は理解していたが、それ以上のものが仕込まれているとは……ワーッハッハッハ!やはりキミは『白き死の姫』だったのだな!頭蓋を射抜き、心臓を穿つ、真なる狩人の姫。穢れを知らぬほどの純白からは想像もつかぬ苛烈な内面に、我輩の心は揺り動かされ、焦がされる。クックック…」
「私もジネストラさんと出会えて良かったです。強敵に完膚なきまでに叩きのめされる経験と、如何にして強敵に立ち向かうのかの学びを得ました。…正しく、宿敵です」
「ああ、そうだとも、そうだとも!」
瞳を輝かせたジネストラさんは、剣先を私に向けてから、満面の笑みを浮かべる。
「いざ尋常に!」
「勝負!―――なんちゃって」
「は?」
私は電光石火でジネストラさんを迂回するようにして、拠点の核を狙いに進む。
ジネストラさんは一瞬の間だけ呆気にとられていたようだが、即座に防衛のために動き出す。
電光石火の目的地点に辿り着き矢を射掛ければ、彼女が間に割り込み剣を振るって矢を落とす。
そして魔導具での射撃を数度行うも、私はそれを回避してから次の矢を放つ。
場所を移動しながら数度の攻防を繰り広げた私たちは、拠点を挟んで反対側にまで移動してしまう。
いや、移動してもらった。
「今ですよ」
『おう!』
『承知しました!』
私は、パルロレイユでノクサラさんとアザレアさんに指示を出す。
すると森林エリアの中から巨大な樹木の構造物が姿を見せて、お二人を射出した。
「え?」
「私は囮なんですっ!」
「ヤバい!?」
「行かせませんよ!!」
―――
アタシ、ノクサラは、アザレアに腰を掴まれながら空を飛ぶ。
一か八かの大博打だが、ジネストラ相手ならこれくらいをしないと出し抜けないだろう。
「アザレア、もういい。次に移るぞ」
「はい、それでは健闘を祈ります。…いやぁ、合法的にノクサラに魔法を撃ち込めるなんて、これ以上の役得はありませんね」
「は?え?」
「それでは――…」
「待て待て、限度ってものがあるぞ?おい、アザレアァ!?」
「…――『ランパード・ブレイカー』!!!」
「んだよそれ!!」
空中に現れた巨大な丸太がアタシに向かって進んでくる。
これって、破城槌とかそういうのだろ!?
アタシはアザレアの攻撃を受け止めて、その衝撃をヴァッサーフェアツァウベルンを通して攻撃転用の準備をする。
あのバカ、威力が高いっての!アタシを殺す気かよ!
急落下する中で、ジネストラによって倒されるコハクが視界に入る。
コハクが討ち取られた以上、もう失敗は許されない。
ジネストラがアタシと拠点の間に入り込むが、身を盾にしたってもう遅いんだよ。
「喰らえってんだよ、『ファルベッケンシュトース』!!」
「…甘く見ていたなぁ、『アローズ』を」
アタシを見上げるジネストラの表情は、ほのかに嬉しそうだった気がするが、そんなものはお構いなしだ。
アザレアの魔法の衝撃、その全てを攻撃に転用したファルベッケンシュトースはジネストラごと紅陣営の核を破壊し、アタシたちは蒼陣営の勝利となった。
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