40話 最終マッチ 4
私、恋白はジークヴィンさんに矢を射掛けて、こちらに誘導をする。
「おい、ホタビノ!」
「はい、なんですか?」
「『アローズ』のリーダーはお前なんだろ?」
「そうですけど」
「ならノクサラとセルヴィーノを連れて、『シュトラーレンゾンネ』に来い。ジネストラはお前のことを気に入ってるし、ノクサラはクラン無所属パーティのメンバーなんかに埋もれていいやつじゃねえ」
意外だ。
キンキラ男のジークヴィンさんは、ノクサラさんを『落ち目』だと罵っていた人だ。
いやでも、私たちの映像に支援金とコメントを贈ってくれた人でもある。
ツンケンしながらも、ノクサラさんのことを高く買ってくれている人なのかもしれない。
だけども、何処に所属するかは別の話だ。
「何処のクランに所属するかはアローズ全員の総意で決めることですので、ここでは返事をできません」
「あ?リーダーなんだろ?」
「リーダーではあるんですけど、パーティの方針はパーティメンバー全員で決めることなんで」
「チッ。…いいか、シュトラーレンゾンネなら、配信や撮影に集中できるだけの人材がいて、高品質な魔導具での撮影も可能な最高の環境だ。それに老舗クランってこともあってノウハウも多く、所属できるだけアドバンテージがある、分かるか?」
ジークヴィンさんは利点を多く語ってくれている。
「シュトラーレンゾンネの素晴らしさは理解できるんですけど、クランメンバーの方々で、ノクサラさんに意地悪なことを言う人がいるじゃないですか。…私はそういう環境を、“最高”だなんて言えませんね」
「はァ?生っちょろいことを言うリーダーだな?売れりゃ、それを快く思わないアンチが現れて、好き勝手に言いやがるんだから、内側だろうと外側だろうと同じだろ?」
「勝手に決めつけるわけにはいきませんが、そういうのが嫌でノクサラさんはシュトラーレンゾンネを抜けたんじゃないんですか?」
「そうかもしれないが、んなもん慣れりゃいいだけだろ」
「…もしノクサラさんとアザレアさんがシュトラーレンゾンネに参加したいと言っても、私は納得できないと思います」
「なんだと?」
「ノクサラさんとアザレアさんは、私にとって大切な仲間なんです。どちらか一人でも、苦しい思いを我慢して活動するのなら、その活動に価値はありません」
「…。」
「さっきも言いましたが、アローズの方針はパーティメンバーの総意で決まるので、クランとしての在り方、メンバーとしての在り方が変わらない以上、シュトラーレンゾンネにノクサラさんは行かせられませんよ」
「チッ」
ジークヴィンさんは勧誘を諦めたのか、両腰に佩いた二振りの剣を構える。
シュタールの双剣術、その正統後継者と、私は戦う。
「アザレアさん、構造物の魔法をお願いします」
『承知しました』
「『ウッドピラー』!」
アザレアさんによって、私とジークヴィンさんの間に樹木の壁が作り出される。
それと同時にウッドピラーを展開して高くに跳び上がりつつ、周囲の木の幹を足場に蹴り上がり、構造物の天辺からジークヴィンさんを見下ろす。
「バカと煙は高いところに行きたがるって言うけどな」
「ジークヴィンさん、貴方にとっては高嶺の花ですよ」
「言ってろ」
私が矢を射下ろすと、ジークヴィンさんは武器に炎の模様を纏っては、矢を爆炎で消し去る。
こちらの狙いはジークヴィンさんの頭や首なので、射撃に合わせて射線上で剣を振るだけで、こちらの攻撃を斬り落とせるようだ。
さて、私のアノマリー『弱点特効』はジークヴィンさんに伝わっているのだろうか。
最低限でも、ジネストラさんが看破したと考えていた『頭部特効』が伝わっていると良いのだが。
アザレアさんが無造作に展開した構造物の上を駆け回り、私はジークヴィンさんの頭を狙って攻撃を続ける。
彼からすれば、こちらの矢が尽きるまで攻撃を防いでからでも攻撃は間に合うからか、積極的に壁を登ろうといった姿は見受けられない。
けれど、こちらの姿が見えないことは嫌なようで、必要に応じて足を動かしながら、こちらに視線を向け続けている。
…積極的に動いてこないなら、これはどうだろうか。
私は、ノクサラさんとラバン・シュタールさんが戦っている場所を視認できる位置に移動し、わざわざ足を止めてそちらに狙いをつける。
「テメェ!余所見してんじゃねえぞ!?」
大きな声は聞こえるが、こちらに登って来るような真似はしない。
構造物の高さは七バシスほど。
ラバン・シュタールさんのような、落葉を足場にするような『電光石火』ができるのなら、こちらに上がってきただろう。
しかしながら、あれはシュトラーレンゾンネでも特別な技術のようで、ジークヴィンさんは手をこまねいている。
私はラバン・シュタールさんに向かって、三度矢を射掛けてから、再び構造物の上を走る。
とはいえ通常の射撃では私も有効打がない。
スタミナは温存したかったけど、それをできる相手じゃないと割り切ろう。
「『ウッドピラー』――」
構造物から木の柱を生やして空中に躍り出ながら、身体を回転させてジークヴィンさんの真上を取る。
「――『征空矢』!」
直角に落下することで最高速となる征空矢で、真下のジークヴィンさんを狙うのだが、彼の表情には余裕が見て取れる。
「甘えんだよ。…空を断て『モントシュニット』!!」
「なるほど。『ウッドピラー』」
飛ぶ斬撃の武技、それは既に見ているしラバン・シュタールさんのものを受けている。
征空矢を消滅させこちらに向かってくるモントシュニットは、ウッドピラーを落下させてそれを身代わりにして防ぎ、私は壁の上に着地する。
「『アウフブリッツ』!」
「おぉっ!?」
私の着地と同時に、ジークヴィンさんは壁を斬り裂くかのように剣を振り上げると、轟音とともに斬撃が空に打ち上がる。
それはモントシュニットよりも速く、強烈な威力を誇っているようで、木の壁をいとも容易く断っていた。
「…チッ、外したか」
そんな武技にも弱点はあるみたいで、攻撃が私に直撃することはなく、お尻の毛がチリチリと燃えている程度。
…ただ、こういった攻撃があるなら私も悠長に構えることはできないようだ。
ジークヴィンさんの自信に満ちた瞳を見下ろしながら、私は弓を構える。
「って、お尻燃えてる!?うわぁ!!」
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