40話 最終マッチ 3
アタシたちは森林エリアを進んでいく。
コハクが少し先を進む哨戒役を務め、アタシとアザレアで追っていく形だ。
アタシの人生は何かを追いかけることが多かったんだと思う。
祖父さんや親父、シュタールの双剣術、アタシより上手く双剣が使えたジークヴィンに、双剣術を発展させて独自に戦い方を組み立てるジネストラ。
…ただ、誰を追っても苦しくって、どんどんと遠くに感じて、アタシ自身が道を下りちまう。
そしてその度に劣等感やら不甲斐なさが募っていき、シュトラーレンゾンネとシュタール家から逃げ出した。
悪口を言われたりしたのも原因だが、追いかけることでアタシの首が締まっていき、窒息しちまうのが怖くなったんだ。
じゃあコハクはどうか。
コハク相手だと苦しさは感じない。
これは偏に、コハクを目標としてないというのが理由なのだが、それでも追いかけて、隣を歩けるというのは好ましい。
あーあ、独りで藻掻いて逃げ出したのに、結局誰かと組むことが楽しくなるなんて、なんというか随分な遠回りだ。
変に意地を張らず、ジネストラとジークヴィンと組んでいれば、もっと別の道があったのかもしれないが、今のアタシには必要のない選択肢だ。
別にあいつらも、アタシなんか必要としてないだろ。
しばらく進んでいくと、コハクが敵影を発見したらしく、パルロレイユでアタシたちに報告が来る。
『紅陣営のメンバーを発見しました。相手の数は二人、ラバン・シュタールさんとジークヴィンさんです』
「二人?二人だけなのか?」
『はい。足を止めて、「啄鎧矢」で心臓を探ってみましたが、感知できる範囲には二人ですし、視認できる姿はありません』
「舐められているのか、他を重く見ているのか…」
「ですが相手が二人であれば、わたしの支援も二人にできますから、これは有利ととるべきでしょうか」
「んだな」
『戦う相手はどうしますか?私がジークヴィンさんと戦うのが、丸いと思うんですが…』
なんとなく、コハクの声色から気遣いを感じる。
「大丈夫だ、アタシが親父と戦う。五〇手前のおっさんくらい余裕だよ余裕」
『わかりました。それでは私がジークヴィンさんと戦う前提で誘導します』
「おう」
「よろしくお願いします」
目を眇めて遠くの親父とジークヴィンを確かめる。
するとコハクがジークヴィンに向かって矢を放ち、方向転換をしてこちらに走ってきた。
…幸か不幸か、アタシは親父と戦うことになった。
親父と、何かを話した方がいいんだろうか。
正直なところ、何を話したらいいかなんて分からない。
けど、ただぶつかり合うだけじゃ今の関係は変わらないだろう。
ジークヴィンがコハクを追っていき、親父がこっちに向かってきて、アタシも親父の方へと足を進める。
…アタシは別に、親父のことが嫌いってわけじゃない。
ただ、娘なのにも関わらず双剣を会得できず、シュトラーレンゾンネに所属し続けることで、シュタール家に泥を塗りたくなかっただけなんだ。
クランと家を飛び出す少し前から、アタシは家族とギクシャクしてたし、どういう風に話しかけたらいいかなんて分からない。
こんなことを考えていたと知られたら、コハクとアザレアに笑われそうだ。
アザレアに少し距離を置くようにジェスチャーを送り、アタシは親父と対面する。
いきなり殴りかかるのは気が引けたが、掛ける言葉に悩んでいると、意外なことに親父の口が最初に開いた。
「あーなんだ、…最近どうだ?」
「…は?」
あまりにも親父に似つかわしくない会話の切り出しに、アタシは素っ頓狂な声を出してしまった。
親父は、こんな世間話をするタイプだったか?
「いやなんだ。すぅー…パーティメンバーのコハク・ホタビノさんと、アザレア・セルヴィーノさんには良くしてもらってるのか?」
「あ、ああ。まあ仲良くやってる」
「そ、そうか。…父として挨拶をしたいから、家に連れてくるといい」
「お、おう」
なんだろう、親父ってこんな奴だったか?
ちと気味が悪い。
「なんか悪いものでも喰ったか?」
「私は健康そのものだが、なぜそう思った?」
「こんな会話してこなかったろ。もっと厳格っていうか、良くも悪くもクランやシュタール家のことばっかりだったなって」
「……。」
親父は眉を寄せて、口をへの字に曲げた。
なんなんだよ、マジで。
「ジネストラやジークヴィンといったクランメンバーに教わったのだ。ノクサラとのコミュニケーションが足りていないのだとな」
「あいつら…余計なことを」
「私は…ノクサラが居たいと思える場所を見つけたのなら、それが一番だと思っている。ただ、母さんも心配しているし、自分で自分に納得できたのなら、家には顔を出してほしい」
「…おう」
「それと年末には親父…祖父さんも帰ってくるから」
「わかった」
出鼻を挫かれた気分だ。
だが、世間話をして終わるわけにもいかないので、アタシが拳を構えると、親父も双剣で構えをとる。
踏み込む隙とタイミングを探っていれば、コハクとジークヴィンの方が騒がしくなり、あっちの戦闘が始まったようだ。
「悪いが、勝つのは蒼陣営だ。顔面をしばかれるくらいの覚悟はしろよな」
「ふっ」
アタシの言葉を鼻で笑った親父は、縮地でアタシとの距離を詰めてきた。
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