40話 最終マッチ 2
アタシ、ノクサラは準備運動をしながら最終マッチに備える。
まあ、魔導体の状態での準備運動なんて意味はないんだろうが、なにかをしていないと落ち着かないので、仕方がない。
…きっとアタシは緊張しているんだろう。
余っ程のことがない限り、ここが最後のマッチであり、ここを逃せば親父と面と向かって戦える機会なんてない。
特別戦いたいってわけじゃない。
それでも前を向いて進むために、親父に一撃を喰らわせるくらいはしたい。
…が、ジネストラを討ち破ったコハクを重く見るなら、中央の森林エリアには人を多く、そしてコハクを討ち取れるだけのメンバーを置くはず。
親父と戦えるかどうかは…五分五分ってところか。
「ノクサラさん、アザレアさん、最終試合の立ち回りはどうしましょうか?私は…私が囮と攻撃をしつつ相手をかき乱して、アザレアさんの援護でノクサラさんが切り込むのがいいと思うんですけど」
「順当な感じだな。…ただまあ、紅陣営がコハクを重く見る可能性があるから、敵の戦力に応じて切り替えたい」
「ではコハクさんの案は、同格かそれ以下だった場合のプランとしましょうか」
「だな」
「はーいっ。格上の戦力、となるとどれくらいでしょうか?とりあえず、ジネストラさんが入るとお二人に意識を回す余裕はなくなりますが」
「ジネストラがいたらそれだけで格上だ。…というかアタシたちを含めた状態で、ジネストラと戦った場合は勝てそうか?」
「正直、単身での戦闘が一番手堅いと思ってます。狙いが私以外に行く可能性を考えると、それだけ動きが鈍るので」
現状のアタシとアザレアは、対ジネストラ戦において足手まといと。
堪える話だが、しっかりと意見を言ってくれるのは助かる。
「けど、もしジネストラさんが来たとしても、この試合での私は『アローズ』のリーダーなんで、きっちりお二人と戦いますよ」
「そりゃどうも。ただまあパーティとして動くとしても、ある程度の分別は必要だぞ」
「そうですか」
コハクは少し考え込んでいる。
「わたしは、戦力の見極めが得意ではないのですが、パーティ単位だと『シュヴァルツェ・カオスラーベン』が最大戦力でしょうか?」
「だな。ジネストラを抜いたとしても、ジークヴィン単体でアタシとアザレアのセットより強いはずだ」
「へぇー、ノクサラにそこまで言わしめる方なのですね」
「ジークヴィンは…シュタールの双剣術を正しく引き継いだ逸材だ。勝ち切るには何かしらの策が必要になる」
「ですがそれは対モンスター相手での話ではありませんか?シュタール家はルーシッド・エデンでのモンスター討伐で名を挙げた家ですし」
「相手がモンスターだろうと、それを教える際には人同士で木剣を交えるんだ」
「それもそうですね」
「モンスターを射つのも、人を射つのも変わらなくないですか?動きが複雑になるだけといいますか」
さらっととんでもないことを言うコハクは、一旦横に置こう。
「ジークヴィンと戦うことになったら、あいつの剣には触れないようにしろ。…いやまあ言葉通りだと当然のことなんだが、あれは火の属性を武器に付与できて、触れた対象を爆炎で消し飛ばすんだ」
「そういえばそんなことしてきましたね。私の矢やアザレアさんの魔法が打ち消されちゃってました」
そういや第四マッチで戦ってたか。
それなら。
「コハク、単身ならジークヴィンに勝てるか?」
「確実に、と言える自信はありませんね。ラバン・シュタールさんを始め、シュトラーレンゾンネの方々は剣で矢を斬り払うのがお上手なので、いかにして矢をねじ込むかを考えないといけませんし」
「わたしの援護があったらどうでしょう?魔法での構造物の設置を利用すれば、有利な場を作り出せると思うのです。そこで武技のバッタを使い、倒そうという作戦です」
「いいと思いますっ。ただ、立ち回りには気をつけないといけませんがね」
「ですね」
「まっ、それは横槍が入らなかった場合に限られるがな」
「それもそうですね。正直、ジネストラさんとジークヴィンさんのお二人に来られたら、どれだけの時間稼ぎができるかどうかって話ですし」
「だなぁ」
「ですねぇ」
というか、取り回しがいい短弓とはいえ、射撃武器でシュタールの双剣術を崩せると考えているコハクはなんなんだ…普通は挑もうとすら思わないだろ。
「はぁ…」
「どうかしましたか?」
「才能を羨ましく思ってな」
コハクは目を丸くして、ぽかんと私を見つめていた。
「隣の芝は青く見えるものなんですね」
「自分のことはなかなか見えませんからね〜」
「あぁ?」
「ノクサラさんだって、自分で自分の戦い方を編み出しているじゃないですか。それを配信に映えるようにしたり、より強くするのは、私たちと一緒にしていけばいいんです。一人で考えるよりも三人で考えたほうが、いい案が出るかもしれませんしっ」
「聞こえの良い綺麗事を言いやがって。パーティだから、とでも言うのか?」
「ええ、そうですっ!」
「あーあ、もっと冷めたやつと組むべきだったなぁ」
「ノクサラがパーティを組む当てられるとも思いませんが」
「うっせ」
なんだかんだ、コハクとアザレアと組むのは気が楽だ。
シュタール家のノクサラとか、『銀眼』の孫のノクサラじゃなく、ただのノクサラでいられる相手だ。
せっかく居心地がいいんだ。二人に報いるためにも、アタシは本気で最終マッチに臨まないといけない。
「期待してるぞ、二人とも」
「はいっ!」
「できることに尽力しますとも」
コハクとアザレアの耳に着けられている、貝を使ったイヤリング。
ヒートヘイズを倒した記念として、コハクが贈ってくれたイヤリングを撫でてから、アタシは気持ちを切り替える。
「森林エリアに来る奴を全員ぶっ倒すぞ」
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