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ルーシッド・エデン ―ライバー冒険者の面接に全落ちした私は、実績作りのためにダンジョンを攻略する―  作者: 野干かん
交錯する足々

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39話 第四マッチ 5

「…短期決戦を意識しすぎて、守りが疎かになってしまったようですね」

「ああ、そうだとも」


 ウッドピラーと電光石火で雷の矢は躱しきった。…そう思っていたのだが、どうにも読み合いに負けたようだ。


 私は一歩踏み込み、右手に持った矢をジネストラさんに突き刺そうと試みるも、腰部から展開された魔力の翼に阻まれた上、彼女の飛翔を許してしまった。


「コハクさんが、その四つ足で全ての地を、迅速に駆け回れるように、我輩はこの翼で空を飛び回る。…卑怯とは言わないでくれたまえ」

「言いませんよ、卑怯だなんて。…だってまだ負けてませんしっ」

「キミに武器たる弓は失われた。ならば、その背負っている魔導具の槍でも使うのかね?」


 ジネストラさんは翼を羽ばたかせて距離を取り、滑空体勢をとって、私を見下ろしている。

 魔導具を使うにしても、ジネストラさんとの距離を詰めるか、足を止めてもらう必要があるのだが、それは難しいだろう。

 とはいえこのまま負けるのは面白くない。


 私は右手に残っている矢の一本に視線を落とし、前後の足をまっすぐに伸ばしてから、矢尻を指で支えて狙いをジネストラさんにつける。

 投擲は、正直に言って得意じゃない。

 弓のように分かりやすい狙いの指標がつけられるわけではないからだ。


 けれど何もやらないより全然マシだ。

 せめて、ジネストラさんの注意を矢に引きつけられればと考えながら、私は矢を投げようとした時、不思議と口が動いた。


「…、目を引け『燭矢ファイアフライ』!」


 それは本当に不思議な感覚だった。

 私の武器は弓と矢で、武技アーツというのはその二つが揃って使用できるものとばかり思っていたのだから。


 空を飛んでいく矢に勢いはないが、その光を放つ矢先にはジネストラさんの瞳を釘付けにするだけの効果はあるようだ。

 その様子を確かめた私は、背負っている魔導具を右手で構え、投擲の準備をする。


 矢を素手で投げて、武技が発動したのなら、槍の形をした魔導具だって矢みたいなものだ。

 ここで必要なのは、ジネストラさんが私のアノマリーを“頭部”特効だと勘違いしているが故に、裏を掻くことのできる武技『啄鎧矢きつつき』。

 頭に防御を置かれたり、頭を動かして回避したところで、心臓は想定外のはず。


「やってやる!……―――」


 私は、啄鎧矢を使うかのように、魔導具『ブトン』を構えて相手の心臓の鼓動を探る。

 普段は弓に矢を番えて、啄鎧矢を使おうと思うだけで、相手の心臓の鼓動を感じ取れる。


 だが槍では勝手が違うのか、すぐにはジネストラさんの鼓動を感じ取ることができない。

 私という弓に、矢であるブトンを番えているんだ。同じようなものだろう。


 ブトンを握る腕と、地面に接する四本の足に力を込めると、ドクンドクンと小さな鼓動を感じ取り始めた。

 それと同時に、燭矢に向いていたジネストラさんの瞳が開放されたようで、こちらに視線が戻ってくる。


「我輩は、コハクさんのアノマリーを看破している。それでも挑もうというのなら受けて立とうではないか!!…弓を失い、矢を投げ、最後に掴んだその魔導具をな!!」

「―――貫き穿て『啄鎧矢』!!」


 武技が発動したことを確認した私は、手に握られているブトンに魔力を流し込む。

 このブトンは、魔力を得ることによって推進力を作り出す魔導具だ。細かな調整が難しく、少しでも量が多くなると急激な加速をしてしまうため、刺突突撃に使うには使い勝手が悪いと、皆一様に匙を投げていた。

 本来は移動に使おうと考えていたのだが、今回は加速する槍として使わせてもらう。


 …私は魔力の操作がほとんどできないので、その推進力に斑が生まれてしまう。

 だけども、体内の魔力を全部突っ込んでしまえば少なすぎることはないはず。


 ジネストラさんは自身の魔力の翼で身体を覆い隠した。その後、心臓の鼓動の位置が僅かに動いたことから、頭部の位置を逸らしたのだろう。

 私のアノマリーが『頭部特効』であり、啄鎧矢が目で見て射つ武技であれば、その対策は完璧だ。

 けれど違う。


 魔力不足で視界が白く靄がかかったかのようになると、ブトンの槍先が開いて魔力を噴出し始めたので、ジネストラさんの心臓めがけて投擲する。


 ブトンが手を離れた。

 そう思い、瞬きを終えた直後、ジネストラさんの翼と胸には大穴が空いており、ブトンの姿は空のどこにも見当たらない。

 攻撃を受けた彼女も理解ができていないようで、力なく消えていった翼から覗く表情は、困惑のそれであった。


「何が…?」

「……?」


 正直、私も状況を呑み込めていないのだが、魔力を最大限まで注ぎ込むことで、矢とは比べ物にならないほどの速度を獲得できるらしい。


「私の、勝ちですね」


 目下の空に落ちながら消滅していくジネストラさんは、悔しさの混じった笑みを浮かべていた。

 彼女を見送った私は、紅陣営の拠点に向かう。

 弓と魔力、そしてスタミナの大半を失った私だが、何かの役には立てるはずだ。


恋白こはくです。ジネストラさんを倒せましたので、紅陣営に向かいたいと思います。ただ、損傷甚大で戦力となることは難しいと思います」

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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