39話 第四マッチ 4
我輩ジネストラは、崩れ落ちてくる浮群島の破片を躱しながら飛行し、手頃な場所に着地してから、魔翼を消し去る。
飛行補助の魔導具がない状態で行う長時間の飛行は、翼の付け根である腰部に負担がかかって仕方ない。
魔力を数回に分けて放出し、バランスの偏った体内の魔力の流れを調整する。
「落ちていった様子はないが…コハクさんは一体何処に」
我輩の爆破によって立ち込めていた砂煙は、強い風によって消え去っており、探せば見つかりそうなのだが、白く目立つ姿は見つからない。
もし『浄化の炎』が直撃し、倒しきってしまったのなら、これほどつまらないものもないのだが。
まあいい、周囲の魔力の取り込みをしながら、思考を整理しよう。
コハクさんのアノマリー『頭部特効』は、看破することができた。
強力なアノマリーということもあり、頭部以外を攻撃する時はその威力が低減するとも語っていた。実際、魔翼で受け止められる程度の威力に低減している。
ただそれでも、第三マッチでは指を切り落とされたし、ユニークボス『ヒートヘイズ』戦では弓の弦を切っていた。
それらを踏まえると、威力そのものは低減しつつも、ある程度の威力は保持されるのだろうか。
…プライム・ヴァーダントトードは、頭を射っていただろうか?
我輩の脳裏には小さな疑問が残る。
そんな折、地面に茂る低木の中で陽光を鈍く反射する何かを、我輩の瞳が捉えた。
もしかしたらと思い、いつでも縮地をできるように居住まいを正すと、ヒュンと音を立てて短い矢が一本飛んでくる。
それを縮地で躱し、『断罪の雷』で反撃をすると、コハクさんが姿を現して二の矢を射ち込んできた。
断罪の雷の操作に、ある程度の集中が必要だと気付かれてからは、積極的な妨害が飛んでくるようになった。
正直、この技は強すぎるのではないのかと考えていたのだが、冒険者になって一年も経たない彼女に対処されるとは…心が躍る!
分かったことは、コハクさんを追いかけているようでは、雷で彼女を貫くことはできないということだ。
進行方向から分岐する枝を思い浮かべ、それらでコハクさんの行く手を潰せるルート作りを行う。
けれども、それを実行できるのは、妨害がなかったときのみ。
「くっ!」
やはり当たらない。
一対一の状況下において、これを命中させるのは至難の業だろう。
なら戦い方を改めようではないか。
ここは足場の悪い浮群島。
それらを破壊し尽くしてしまえば、飛べる我輩の有利というもの!
我輩は一帯の爆撃を開始する。
―――
私、恋白は炎の矢が降り注ぐ浮群島を駆け抜ける。
後ろを振り返れば、小さめの足場は軒並み破壊し尽くされ、大きなものでも凹凸が激しくなり足場としてはイマイチ。
ウッドピラーがあるとはいえ、足場がなくなったところに雷の矢を撃ち込まれるのが負け筋だろうか。
これだけ矢鱈滅多に魔導弓を使ったところで、底を尽きることがない魔力は本当に厄介の一言に尽きる。
とはいえ、私の行動が回避が主になり、矢の消費を攻撃のみに使えるのは大きい。
私は背負っている槍の魔導具『ブトン』に意識を向ける。
どうせ持ってきたのだから、場面さえあれば使いたいところだが、今の私では一回っきりの消耗品状態。
どこでどう使うかが悩みどころだ。
ジネストラさんを中心点に、半円ほど走った頃。
振り返ってみるとそこは、浮群島と呼ぶにはお粗末な、地面が多少浮いているだけの場所と成り果てている。
「……。」
いや、いっそのこと周囲すべてを破壊し尽くしてもらって、ジネストラさんの縮地を縛ろうか。
見たところ、ラバン・シュタールさんみたいに、落葉を足場に電光石火をするようなことはできなさそうだし、空中に逃げてもらう方が楽かもしれない。
そうと決まれば行動は一つ。
私は移動に緩急をつけつつ、ジネストラさんの攻撃を邪魔しないように立ち回る。
―――
ジネストラさんを中心に、円を描くように浮群島が破壊し尽くされると、彼女も状況を理解して射撃を止めた。
「袋小路を自ら作り出してしまったようだが、真に逃げ場がないのはコハクさんではないのかな?」
「そう思いますか?」
ここからジネストラさんに向かって走れば、私の退路は完全になくなってしまう。
けれど私の勝機は、そこに一つある。
…必要ないんだ、逃げ場なんて。
私の表情から何かを汲み取ったのか、ジネストラさんは口端を釣り上げるように笑って、魔導弓を構えて雷の矢を番える。
ここは、読み合いというやつだ。
私は距離を詰めるように電光石火を使いたいが、ジネストラさんもそれは察している。
けれど日和った歩みでは、二の矢を用意するだけの余裕を与えてしまう。
「躱せるものなら躱してみたまえ!『断罪の雷』!」
「…、『ウッドピラー』!」
雷の矢が放たれた瞬間、私は前足を地面に突き立てて身体を前に傾け、勢いが削がれたところでウッドピラーを使う。
空中に射出された私は、再度ウッドピラーを発動して空中に足場を作り、そこから電光石火で移動を試みる。
三つの中継点で曲がった私は、ジネストラさんの背後を取ることができ、そこから後頭部目掛けて矢を放とうとした。
「…?」
私が弓に矢を番えようとした時、本来なら視界に収まるはずの弓がそこにはなく、矢筈で引っ掛けるはずの弦も見当たらない。
「ククク、我輩の勝ちかな」
弓の在り処を確かめようと視線を左に向ければ、私の左肩より先はなく、傷口と言える部分には、ほんのわずかばかり黒い雷が走っていた。
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