39話 第四マッチ 2
「それじゃあ私が電光石火をどうやっているかなんですけど。最初に『最後に、どの身体の向きで辿り着くか』を考えます。これが曖昧だと、足が迷っちゃう気がしますね」
足が迷うっていうのはよく分からないが、四足獣人特有の考えか?
「そしたら無理のない範囲で方向転換をしながら、次の移動を行うための中継点を決めるんです。ただ、これは無意識でやっちゃってるので、どうやったらいいかという言語化が難しいです」
「なるほどな。…コハクって四足獣人の体型的に、方向転換は苦手だろ?結構無理な角度を曲がってた気がするんだが」
「ほぼ直角くらいまで曲がってたッスよね」
「そこは簡単ですよ。空中にいる間に身体の向きを変えてから着地すればいいんです」
「は?」
「んー…?」
「動き出す瞬間に前足を軸にして方向転換しておいたり、空中の身振りで回頭させたり、そういう動きをすればいいんです。私は四本足ですし、蹄の内側に蹄球っていう地形への取っ掛かりがありますから、それらで方向の調整をしています」
エラフォロスに特化した身体の動かし方、もしくはコハク独自の動きなのだろうな。
よく考えなくとも、コハクは空中での身体の動かし方がずば抜けて器用だ。
「とりあえずやってみますね」
コハクはそういうと、立ち止まった状態から電光石火を行い、四つの中継点を経てアタシたちの目の前に戻ってくる。
「分からん、見えん」
「全然分かんなかったッス!」
「そうですか。…じゃあ、速度を落としてみるのも選択肢になるかもしれませんよ」
「速度?」
「はい。ラバン・シュタールさんと二回戦って思ったんですけど、電光石火と普通の縮地では速度が違って、電光石火は結構遅いんですよ。意識しているかは分かりませんが、役に立つかもしれません」
「速度、か」
はっきり言ってそう思ったことはないのだが、コハク基準では遅いのかもしれねえ。
だが明確に縮地と電光石火で違うのなら、意識してみよう。
「そうそう速さの話なんですけど、私が戦った相手の中だとノクサラさんが一番速いですよ」
「お、おう。そっか」
縮地を上手く使える自信はあるが、コハクに褒められると照れる。
「いい話を聞けたんで感謝ッス」
「いえいえ。もうちょっと、教えたり言葉にしたりをうまくできればいいんですけど、そういう経験って多くなくって」
「いいんスよ〜、直接見せてもらいましたし。まぁ〜こんな感じッスかね…――よっと」
アコアは虎体の姿勢を低くしてから後ろ足で地面を蹴り、勢いよく飛び出したかと思えば、前足の爪と肉球をフックにして、身体を回転させる。
その勢いのままナギナタを振り回し、周囲を攻撃するような挙動を見せた。
「おぉ〜」
「どうッスか〜?」
「なんだ今の?」
「練習期間に色々と見せてもらったんで、そのお礼なんスけどウチにも『ヒューリメシス』ってアノマリーがあって、それで真似っこさせてもらったッス」
「アコアさんにもアノマリーがあったんですね」
「秘密ッスよ」
アタシの周りには、何か特別な力を持った奴が多い気がする。
まあ、祖父さんと親父の剣術すらまともに使えてないアタシが望んだところで、得られるものでもないんだろうが、ちっとばっかし羨ましい。
「…おいアコア。もしかしていろんな奴の武技やらなんやらを見て回ってたのって」
「バレちゃったッスね〜。それじゃ失礼するッス!」
アコアは足早に去っていき、アタシはため息を吐き出す。
「まあいいや。…勝ってこいよ、コハク」
「はいっ!」
アタシはコハクを軽く小突いてから、部隊に戻っていく。
―――
アタシたち巨大樹林を進む攻撃隊が紅陣営を見つけると、そのほぼ同時刻に浮群島の方から爆発音が聞こえた。
コハクとジネストラの戦闘が始まったようだ。
コハクなら勝てるという希望を多く含んだ感情を胸の中に蔵って、アタシは戦闘に臨む。
紅陣営の攻撃隊にはジークヴィンがいて、アタシを見つけるなり睨めつけるような表情を浮かべて、縮地で接近してきた。
アタシは足を踏み込み、縮地をするふりをすると、ジークヴィンはすかさず剣を構えて迎撃しようとするのだが、向かうのは魔法射撃だ。
「チッ。『フォイアーフェアツァウベルン』」
ただ、この程度で怯むジークヴィンでもなく、剣に火属性を付与しつつ、飛来する魔法を爆炎で打ち消していく。
「来いよ、『落ち目』。俺にビビって縮地のやり方も忘れちまったか?」
「うっせーよ、キンキラ男」
「あァ?」
「うちのリーダーが、ジークヴィンをそう呼んでんだよ」
「しっかり教育しとけよ。ジークヴィン様だってな」
なんて言ってる間にアタシは縮地で距離を詰め、剣撃で魔法を打ち消した隙を狙って攻撃を繰り出すのだが、視線は確実にこっちを捉えている。
こういった場合は蹴りを出す可能性が高いから、アタシは拳を下にズラして、膝に合わせた。
「温くはなったが…勘は鈍ってないようだな」
「あっそ」
足払いをしてみれば、ジークヴィンはジャンプで回避されるが、それは想定済みだ。
身体の向きが反転したのをいいことに、縮地で離脱して攻撃隊の魔法射撃を受けてもらう。
「温いな。ソロでやってる時のお前は、まだマシな輝きだったぞ?………冒険者に、配信者に戻ったんなら、シュトラーレンゾンネに帰らないんだよ?あの弓使いや魔法使いを連れて戻ってくれば良かっただろ」
「…嫌なこった。居心地が悪いんだよ、シュトラーレンゾンネは」
「そんなことを気にしていて、配信者が務まると思っているのか?」
「視聴者とクランの身内じゃ話は別だろ」
「軟弱だな」
「つーか!お前もじゃねえか!?いっつもいっつも落ち目だの、シュタールの恥晒しだの言いやがってよ!?張っ倒すぞ、キンキラ!!祖父さんや親父と同じ、シュタールの双剣術使えるからって調子乗んなよ、バーカ!!」
「やれるものならやってみろ」
アタシは魔法射撃に合わせて縮地をし、大振りに殴るふりをしながら、目一杯の力で地面を踏み込み武技を使う。
「『シュラムシュトローム』!…今だフロラン!走り抜けろ!!」
「ああ!」
地面を泥濘みに変えて押しやるシュラムシュトロームを使って、ジークヴィンを含めた相手の攻撃隊の機動力を奪う。
そう。あくまでアタシは助っ人で、添え物だ。
このマッチを勝ってもらうために、意地汚いこともする。
「チッ」
「ざまあねえな、キンキラ?」
ジークヴィンの剣撃を防ぐこと自体は難しくなかったが、メインのヒッポフォロスたちが抜けた戦場で複数人相手に持ち堪えるのは不可能。
フロランたちを見送って、アタシは倒された。
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