37話 第二マッチ 3
「私も訪ねたいことがあるのですが、いいですか?」
「どうぞ」
「なんで私を宿敵として扱ってくれるんですか?他の冒険者や配信者と比べて新米で、ジネストラさんと釣り合うとは思えないんですが」
ジネストラさんはニヤリと笑みを浮かべて、大きく胸を張る。
「コハクさんの純白は、我輩の漆黒と対になる!」
「え、色だけなんですか?」
「そう早とちりをするな。ククク、初めてコハクさんを見た時には、美しき純白の姫が現れたとしか思わなかったのだが、キミの映像を鑑賞している内に、その身のこなしや弓の実力、目には見えない異常性というものに心惹かれ、宿敵と定めるに至ったわけだ」
「異常性、ですか?」
「武器に似つかわしくない圧倒的な威力だよ。武技というのもあるだろうが、スケルトン系を除けばフィニッシャーはコハクさんがほとんど。これには何かしらのアノマリーがあるのではないかと考えていてね」
映像上で、私のアノマリーや武技の詳細を語ったことがない。
別に隠しているわけではなく、伝える機会がなかっただけなのだが。
「では私も、勝ちの目を拾えるだけの隙はありそうですね」
「ハハッ、コハクさんの知らない魔導具が山ほどあるというのに、よく言えるね」
「言いますよ。宿敵なんですから、私は」
「ククク…クックック、ワーッハッハッハ!!」
ジネストラさんは哄笑を終えると、魔導具の弓、魔導弓を構える。
「我輩は、魔導具の支配者たる『深淵からのジネストラ』だッ!!」
「散開射手、『白き死の姫』の恋白です」
私は砂と小石を蹴り上げて、足場の悪い斜面を進む。
弓の強みも弱みも私は知っているが、魔導弓に通用するかはわからない。
だから私がやるべきことは、走りながらジネストラさんの情報の確保だ。
ジネストラさんが矢を持たずに弦を引くと、バチバチと弾ける黒い雷のような矢が現れる。
魔力を矢に変える魔導具、ということだろうか?
彼女の狙いは、私の進行方向に定められており、速度と距離、矢の速度からの偏差射撃を行うようだ。
逆にいえば私との距離と角度から、あの矢の速度が大まかに分かるわけだが、相手を信用しすぎる推測だ。
初回は電光石火を用いて躱そう。
「我輩の新たなる魔導具『定まらぬ黒色』の、『断罪の雷』だ!」
指が離れる瞬間、私は電光石火で加速してジネストラさんの射撃から逃れる。
いや、逃れようとした。
けれど黒い雷の矢の射線から私が逃れると、それは折れ曲がるように角度を変えて私を追いかける。
なんとなく、私の武技『飛貪矢』に近いものを感じるが、どこでも折れ曲がって追いかけるのなら、より厄介な矢だろう。
私の後方に迫る矢は、続く電光石火を電光石火で回避すると、しばらく進んでから折れ曲がり、またもや私に狙いを定める。
その間、ジネストラさんは二の矢を射つ様子がないので、私は雷の矢を回避することに専念しよう。
曲折を六度繰り返したところで雷の矢は消え去った。
さて、今回の攻撃で分かったことは、あの雷の矢は私を通り過ぎると、すぐさま向きを変えるのではなく、ある程度進んでしまっていた。
二の矢を撃ててないことを考えると、ジネストラさんが操作を担っているのかもしれない。
ともすれば、こちらからの攻撃で集中を妨害すれば、多少は楽になる可能性がある。
私は矢を四本、箙から引き抜き、一本を口に咥えてから反攻に転じる。
まずは位置取り。
直接、頭や首などの弱点を狙ってもいいが、ジネストラさんには避けられかねない。
ただ一対一である都合、背後を取って攻撃するというのも難しい。
だから私は、首を狙った上で魔導弓の弦をも狙える位置取りをする。
一射目。
ジネストラさんは少ない動作だけの回避はせず、しっかりと足を動かして矢を避けた。
二射目。
魔導弓を構えたところを狙い、弦に対して矢が先に当たる射線を取るのだが、こちらを確実に回避された。
口に咥えていた一本を手に戻しながら、位置取りを続けていると、ジネストラさんの射撃が飛来する。
その時、私は思った。『魔力でできた矢を射ち落とせるのだろうか』と。
ものは試しと矢を射掛ければ、雷の矢の軌道がわずかばかり私の矢に引きずられるような動きを見せるのみで、射落とすことはできない。
ただそれだけの不思議な動きだ。
残りの追撃は電光石火で回避し、私は走りながら呼吸を整える。
「ふぅー…」
「……?」
ジネストラさんに視線を向けてみると、少しばかり不思議そうな表情を浮かべているので、意図したものではないようだ。
ただ射落とせず、防御の手段として使うには微々たる軌道の変化。意図して射掛ける意味は薄い気がする。
さて、電光石火は何度も何度も使える技じゃないし、そろそろ決着をつけるために動かないといけない。
私は手元に残っている一本の矢を口に咥え直し、矢筒の方から直接矢を引き抜いてから、ジネストラさんに向かって足を進める。
「ほう、来るか!」
ジネストラさんの構える矢は、私の胴体を狙っている。
私も弓に矢を番えながら電光石火で雷の矢を避けてから、一射目を打ち出す。
本来ならここで矢の操作に集中しないといけないので、追撃が遅れるはず。
背後から射抜かれないことに賭けて、ジネストラさんに二の矢を射掛ける。
「ちぃっ!」
雷の矢の音は遠く離れていき、ジネストラさんは弦に指をかける。
先の攻撃は諦めたようだ。
ジネストラさんの魔導弓は、長弓に近い形状で次射には時間があるはずだ。
口に咥えていた矢を手に取り、それを弦にかける。
「目を引け『燭矢』!」
これはアルセルさんとフラレールさんが練習中に使っていた、『ライトアロー』という発光の矢の武技。
それが私に伝播し、燭矢として萌芽したものだ。
矢先が蛍のように光を放つだけの武技だが、ただの矢よりは注意を引ける。
練習期間中に習得した武技だ。
視線が逸れている間に、私はジネストラさんの横を通り抜け、側面から首を狙って弓を引く。
「甘いなコハクさん」
「え?」
「『浄化の炎』!!」
魔導弓に番えてあったものは黒い雷の矢ではなく、黒く揺らめく炎の矢。
危険だと本能が告げ、急ぎ電光石火で逃れようとしたのだが、黒炎の矢がジネストラさんの指を離れると同時に、それらは無数に増え広がって、『アローレイン』を彷彿とさせる見た目となった。
広範囲に増え広がった炎の矢は、着弾すると同時に高い威力の爆発となって、私は倒されてしまった。
「ヤバ、近すぎた!?うわぁあっ――?!」
すごく情けない悲鳴が聞こえた気がする。
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