37話 第二マッチ 2
ウチ、アコアは、コハクっちを見送ってから、正面の五人組に向かって突撃を敢行する。
コハクっちって可愛い顔して、意外と血の気が多い。
戦いの神の使い、なのかもしれない。
「ボクは降りるよ」
「はいッス。いつも通りで大丈夫ッスか?」
「人数不利だら。ほいだで踏み込みすぎんよう、消極的に戦って。前方に魔法を置くで」
「了解ッス」
アタシはナギナタのウンリューを手に取り、速度を緩めていきながら待ち構えると、間髪入れずにセーラっちの魔法が発動する。
「『蟇沼下戸々々』」
ルーシッド・エデンでは色んな文化の魔法や武技が見れるけど、メーゼン国の二人が使うものはそれも独特だ。
…この魔法はなんというか、お相手さんが可哀想になる。
ウンリューを構えて待ち構えていると、紅陣営の人がシュクチとかいう技で突っ込んでくる。
ノクサラっちが使っている技で、似た技術をコハクっちも使っているのだが、これらは明確な弱点がある。
ウチが相手の進路にウンリューを突き立てると、相手の一人が自分から刃に突進し自滅した。倒しきれてはいないけども、片腕を切り落とせたのなら上出来だ。
なんというか間抜けっぽい。
「うぐぁ!?」
「踏み込みすぎだわ!?」
「そのシュクチとかいうの、強い技ッスけど、相手を見定めないと」
「何を偉そうに、猫の分際で」
「にゃぁ〜ん♡…これでいいッスか?」
「――前足!?」
「避けれるんスね、虎パンチ」
ウンリューを振るうふりをして、前足で引っ掻こうとしたのだが、相手は簡単に躱してしまった。
このエキシビションマッチに選ばれるだけはあるらしい。
そんなやり取りをしていれば、三人がウチ、二人がセーラっちを囲むように展開していく。
確実にウチらを倒す予定らしいが、相手は時間をかけ過ぎている。
「うっ…!?」
「なに、これ」
「気持ち悪…うえぇ…」
ウチを囲む三人は顔色を悪くしながら、唾液を口から垂らす。
次第に目の焦点には定まらなくなっていき、足もふらふらだ。
これはセーラっちの発動している魔法で、相手の足をもつれさせつつ、二日酔いのような気持ち悪さを与える、陰湿な魔法だ。
呪いとか呪術と呼ばれるジャンルの魔法だ。
「アコアー、倒しきらん方がお相手さんは魔法を撃ちにくいかもしれんで、痛めつけるくらいにしといて」
「了解ッス」
ウチが斬りかかろうとすると、別の人が魔導具を使って射撃攻撃をしてくる。
あの状態でも動けるというのは、なかなかの実力だ。
敬意をもって倒し切ろう。
「馬だか犬だか猫だか…畜生風情が、魔法なんかで調子にのって…―――ゴハッ!」
セーラっちは、持っている杖の杖先を握り、コブのように丸くなった持ち手で冒険者の頭を殴打した。
「やっぱ全員倒すわ」
「…了解ッス〜」
セーラっちは犬系の種族として扱われるのを嫌う。
ボコスカと杖で殴るのを横目に、ウチは元の予定通り消極的に戦って時間を稼ぐ。
―――
私、恋白は全力で斜面を駆け上がっていく。
後ろを振り返れば、ジネストラさんが翼を広げて追ってきていた。
第一試合と比べると速度は遅いし、必死に羽ばたいている。
状況に応じて使い分けているのだろう。
この状況、ジネストラさんの魔力が切れるまで逃げ通すという選択肢はある。
けれど、映像を観ていたノクサラさんが、『魔力を回復する手段』か『魔力を吸収する手段』のどちらかがあるとも呟いていた。
前者であれば、この逃走には意味がないことになる。
前方に大岩のある場所を確認できたし、あそこで仕掛けよう。
私は斜面を登る足を早めながら、岩に向かって狙いを定める。
「跳ね喰らえ『飛貪矢』!」
岩を跳ねた飛貪矢は私の首横を通り抜け、後方のジネストラさんを目掛けて突き進む。
「クックック、その武技は分析済みだ!」
ジネストラさんは空中でくるりと回って回避し、飛貪矢を受け止めたり走ったりすることなく対処した。
飛貪矢は何かに命中すれば、その勢いが失われるまで跳ね返り、狙いに向かって飛んでいく武技だ。
完璧な対処だといえる。
ただその程度で驚いてもいられない。
ノクサラさんが一方的に負けたのなら、ジネストラさんの実力は本物だ。
私は岩場に向かって加速移動を使う。
そのまま加速移動で急な方向転換を繰り返し、ラバン・シュタールさんと戦った時の動きを再現する。
この動きなら、走りながらの回頭と違って、速度を殺さずに射角と身体の向きの調整ができる。
「なっ…『電光石火』!?何故それを」
「ラバン・シュタールさんのを真似できまして」
「最高だ、キミは!」
ラバン・シュタールさんの使う『電光石火』とは別物だが、私もこの技術を『電光石火』と呼ばせてもらおう。
カッコいいし。
私がジネストラさんに矢を放つと、彼女は一気に急降下着地をして回避し、こちらを見つめる瞳を爛々と輝かせていた。
「クックック、我輩はコハクさんと干戈を交えるに当たって、ヒッポフォロス弓兵について学んだ。キミたちは優秀すぎるほどの機動力を持ちながら、長い射程も有する覇権というべき存在だ。しかしながら、その戦闘技術にも弱点があった」
ジネストラさんが攻撃を仕掛けてくる様子がないので、私は速度を緩めてみる。
目を細め、口元を緩めた彼女は、左手に持つ弓を構えることはない。
「身体を回して射つことのできる範囲外、私であれば右側後方ですね」
「そうだ!上半身や人体と呼ばれる部分を、必要以上に捻ることは呼吸を狭めて、運動機能を妨げてしまう。だがしかし、その速度と体型では急な方向転換ができない!」
「だから後ろに付いて、様子を眺めていたんですか?」
「ああ、そうだ!これくらいを対処できないのであれば、我輩と戦う土台に立ってはいないのだからな!!」
及第点を貰えたようだ。
せっかくお話をしてくれているのだから、私も気になっていたことを聞いてみよう。
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