37話 第二マッチ 1
「相打ちだ。たった十六歳の少女にだ。…もう少し早めに鍛え直すべきだったか」
クランリーダーは淡々と語る。
ただその瞳には、楽しさといったものが見て取れる、そんな気がした。
この人が考えていることはよくわからない。
アローズとしてノクサラが動き始めてからは、常にその動向を追っているのに、声をかけようともしない。
もっと話し合えばいいのに。
「先のマッチはフロランの機動力に後れを取り、我々は引き分けという結果になってしまった。事前に話している通り、我輩の奇襲作戦は一回限りでもう使えない。だからここからは順当に蒼陣営を倒す必要がある」
「出しゃばったわりに失敗とは、情けないのでは?」
「それを言い出したら、中央突破のコハクさんを止めたクランリーダーくらいしか、第一マッチの仕事をしていないことになるのだがね?」
「ああいえばこういう」
「我々の行うことは責任の追及ではなく、このエキシビションマッチに勝つための話し合いだ」
我輩を快く思わない者たちも、一旦矛を収めてくれたようだ。
「さあ、作戦会議といこうではないか、諸君!」
―――
私、恋白は第二試合のエリアを見下ろしながら考える。
先のマッチではジネストラさんが拠点を急襲してきた。
速度はさほど速くないものの、地形を無視して移動できる相手は厄介だ。
射落とすことができればいいのだが、ノクサラさんとアザレアさんをもってしても敵わない相手と考えると、そう簡単な話ではないだろう。
もしかしたら空中での戦闘ができる可能性もある。
今回のエリアは、全体的に砂と小石で、ところどころに岩が点在する、砂礫地だ。
中央に向かって斜面が下る谷地であり、大規模な戦闘が予想できるが、ヒッポフォロスの皆さんが全力を出すのは厳しい場所だ。
私は高所から下っていき、皆さんの元へ戻っていく。
斯々然々とエリアの様子を伝えていけば、全員の表情は明るいものではない。
やはり全力を出しにくい地形というのは厄介なのだろう。
「―――それと谷地の底に、亀裂のような地形が確認できました。悪い足場に加えて、落下の危険があると思いますから、その辺の注意は必要かなぁと」
「なるほど。中央、それこそ両陣営の最短距離が主戦場となるのであれば、ジネストラ・フォム・アープグルントへの警戒は、軽くしていいだろう」
「それならジネストラさんとは私が戦いたいです」
「…ああいうユニークボスのような相手は、複数人で挑むべきではあるのだが…。まあコハクさんに任せるとしよう。異論のあるものはいるかな?」
「……。」
異論はないようだ。
前の試合で戦ったノクサラさんに視線を向けると、辟易した表情を浮かべており、戦いたそうな雰囲気ではない。
戦い直したいわけじゃないなら、それでいい。
「では、勝ちに行こうか」
「はいっ!」
―――
「うわぁぁっ、やっぱ走りにくいッス〜!」
「ボクは降りて進もうか?」
「なぁに言ってるんスか。セーラっち足遅いんスから、降りたら置いてきぼりですよ」
私と星蘭さんとアコアさんは、斥候部隊として砂礫地を進んでいく。
ティグリフォロスのアコアさんは、ヒッポフォロスよりも悪路に強いらしく、速度を緩めた私についてきている。
…背中に星蘭さんを乗せているのに、これだけの場所を走れているのはすごい。パワフルというやつだ。
「アコアさんー、小石が多いですけど、足の裏は痛くありませんか?」
「大丈夫ッスよ。コハクっちは、ヒヅメで滑らないんスか?」
「はい、問題ないです。こういうところにも遊びに行ってたんで。…あっ、前方に亀裂ですっ」
「了解ッス」
「後ろへの連絡はボクがしとくよ」
「お願いしますっ」
「セーラっち、捕まってるッスよ。せーっの!」
「うわぁぁっ!?」
亀裂を跳び越える際に星蘭さんの悲鳴が聞こえてきたので、軽く振り返ってみたのだが問題はなさそうだ。
「…前方、紅陣営の方々がお越しみたいです。ジネストラさんと一パーティ分を合わせた六人。…そこより後に…十七人ですね」
「うっわぁ、ここぞとばかりに攻めてきた。…お相手さんの防衛は二人かぁ」
「斥候部隊は合計六人いますけどどうしましょう?」
「コハクっちは予定通りでいいッスよ」
「五人を倒し切るのは難しいけど、時間稼ぎくらいならボクたち二人で問題ないだら?」
「問題ないッス〜!」
数的不利を押し付けちゃうのは気が引けるけど、お言葉に甘えちゃおうかな。
「お任せしちゃいますね」
「任せりん」
「任せるッス」
「ありがとうございます、それじゃ宣戦布告といきましょうっ!」
「やっちゃえ!」
私は鏑矢を弓に番えて、ジネストラさんを狙うように射掛ける。
ヒョォロロォォー、と駆け抜けていった鏑矢を追いかけるように私たちは速度を上げる。
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