36話 第一マッチ 4
私、恋白は、ジネストラを見かけた後も、変わらずに紅陣営の拠点を目指して足を進めている。
ノクサラさんは、ジネストラさんを警戒していたし、映像を見る限りかなりの実力者だ。
私も踵を返して戦闘に加わりたいところだけど、ノクサラさんが時間を稼ぐと言った以上は、それを尊重するしかない。
だから私は足を進める。
そんな折、前方で木々が不自然に揺れた。
まるで幹に何か重いものでも当たったかのような動きに、私が警戒を露わにしていると、一人の男性が姿を見せる。
二代目『銀眼』ラバン・シュタールさんだ。
彼は見るからに疲労しており、私を見つけるなり足を止め、肩で息をしている。
…もしかして、私が中央を行かないと踏んで、防衛戦力を割いていなかったのだろうか。
この地形で、疲労困憊なラバン・シュタールさんを振り切るくらいできそうだけど、紅陣営拠点と遠くないこの地点で後ろに誰かがいるというのは気持ちよくない。
先に進むために、ラバン・シュタールさんを倒す必要があるみたいだ。
「…はぁ…はぁ…」
この戦場で最年長の冒険者。
息が整う前に仕留めたいところだけど、下手に追い詰めてしまうのは悪手な、気がする。
私はジリジリと移動をし、相手の動き出しを潰せるように位置取りをする。
武器は腰に佩いた二本の剣。
シュタールの双剣は映像で見たことがあるけど、それは私が憧れている初代『銀眼』のシュタールのもの。
弓術を教えてくれた叔母さんと、教わった私の狩猟方法は型こそ同じだけど、動きも詰めも違った。
彼の活躍は、既にルーシッドキャストに残っていなかったということもあり、戦闘方法は大まかにしか知らない。
…知ったかぶりをしない方がいい相手だ。
「…。」
「……。」
どうやら呼吸が整ったようだ。
何かを話した方がいいのかもしれないけど、それは私の役割じゃない気がする。
ラバン・シュタールさんが動き出す。
あの足の動きは縮地だが、動きがノクサラさんのものとは違う。
直線的に私に向かってくる軌道ではなく、木々の幹を足場に細かな縮地を繰り返すようなものだ。
速度そのものはノクサラさんよりも遅く、私の目でも余裕で追えるくらいなのだが、立体的な軌道は厄介極まりない。
「『ウッドピラー』!」
「ふっ」
私の生成した木の柱に足をかけたラバン・シュタールさんは、空中に躍り出てはほんの僅かな笑みを浮かべていた。
笑う余裕がある…ということは空中にいる状態でも、ここから詰められるだけの一手があるはず。
矢を射掛けてみるも、剣によって軽々と斬り落とされてしまう。けれど、私が動き出すには十分な隙だ。
加速移動でその場を離れながら視線を後ろに向ければ、ラバン・シュタールさんは舞い落ちる葉っぱを蹴って縮地をしている。
…彼の強みは縮地の細かさと、応用の幅なのだろう。
私は魔力の操作が上手くない。
特に身体を動かしている最中は、生活魔法すらまともに使えない。
そして縮地というのは、魔力を身体の中で操作し運用する技術であり、私には再現不可能な技術だ。
けれど加速移動で、似たようなことをできるかもしれない。
…こういうのって、今やることじゃないんだろうなぁ。
私はラバン・シュタールさんの追撃から逃れるため、短距離での加速移動を繰り返し、立体機動を真似てみる。
「よしっ」
足への負担は大きいが問題ない。
私は浮島や木々の幹を蹴り、立体的な動きでラバン・シュタールさんから離れつつ、弓を構える。
…距離はそれなりにあるが、縮地の移動力は侮れない。
機会は確実に使わないと、彼を倒すのは難しいだろう。
私は太めの枝を前足の膝あたりで挟み込むようにしながら、人体を思いっきり前に振りながら、身体を回転させる。
ぐるりと回る視界の中で、こちらに向かってくるラバン・シュタールさんを捉え、弦から指を離す。
「…ふはっ、テロフォロスとは思えんな」
「『ウッドピラー』!」
矢を斬り落とされたことを確認した私は、木の柱を踏み台にして飛び上がる。
ラバン・シュタールさんの呼吸は乱れ始めており、移動の切れもなくなってきている。
見たところ魔導具を用いた射撃攻撃などはなく、縮地を用いた高速移動と、二刀流の剣術のみが彼の戦闘手段だ。
時間をかければ確実に落とせるはず。
けれど、拠点にジネストラさんが向かったことを考えれば、そろそろ決着をつけてしまうべきだ。
焦りは禁物だけど、悠長にして負けては意味がない。
私はラバン・シュタールさんを倒すべく、加速移動を打ち切って空中で身体を回転させる。
「跳ね喰らえ『飛貪矢』!!」
狙いはどこでもいい。手ごろな木の幹に向かって飛貪矢を放った後に、そこから跳ね返り命中させるべき場所を定める。
剣で斬り落とされない軌道を描ける道筋は私の中に生まれた。
「『モントシュニット』」
私の矢はラバン・シュタールさんの首を貫いた。
しかし、彼は首を貫かれる寸前に、剣から十字の斬撃を飛ばし、私を斬り裂いてみせたのだ。
「そういう武技もあるんですね」
「…こちらのセリフだ」
私とラバン・シュタールさんが消滅する中、両陣営の核が破壊され、この試合が引き分けになったことを知る。
ジネストラさんがこちらの核を破壊するのと、機動力に物を言わせて単騎突破を敢行したフロランさんの攻撃が、同時に重なった結果とのこと。
第一試合は無効。第二試合から仕切り直しとなる。
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